2021年6月30日。揺らぎが、およそ3年ぶりとなる新作にして、初のフルアルバムとなる『For you, Adroit it but soft』をリリースした。
これまで『nightlife』(2016)、『Still Dreaming, Still Deafening』(2018)と2枚のEPをリリースし、国内外のシューゲイズ・フリークから熱い視線を注がれてきた彼ら。今作は文字通り「待望」の新作であり、「That Blue, I’ll be coming」のMVのコメント欄にもカムバックを待ち侘びていた海外のファンから多数のメッセージが寄せられている。そして届けられたアルバム──これはもう、傑作と言う他ない。
個人的に、Sleep like a pillowで揺らぎのインタビューを行うのは、念願叶ってのことだった。実は前作リリース時の2018年に出前寿司Recordsというブログでインタビューしているのだが、今読み返してみると消化不良だった部分も多い。今回はそのリベンジも兼ねて、前回と同じくさこれたにも協力してもらい、こうしてじっくりと話す機会を得ることができた。
なお、今回のインタビューは昨今の情勢や物理的な距離を鑑みて、Zoom上で敢行。事前にバンド側から送ってもらった情報をもとに質問シートを作成し、それを軸に話を聞く、という手法を取った。また、サポートメンバーであるUjiにも参加してもらっている(彼がいかに重要な役割を果たしているか、読者の皆様には是非知っていただきたい)。
前作から3年、揺らぎは何を得て、何を想い、アルバムを完成させたのか──約19,000字のインタビューで見えてきたのは、とにかく自由で、自然体の彼らだった。
インタビュー=對馬拓/さこれた
文/編集:對馬拓
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■ Ujiのおかげでこのアルバムができた
對馬:2018年に前作『Still Dreaming, Still Deafening』をリリースして以来、精力的にライブ活動を展開していましたが、作品のリリースとしては実に3年というスパンが空きました。アルバムの制作はどんな流れで進みましたか?
Miraco(Vo. Gt.):最初はペースが遅くて、がっつり制作が進んだのは最後の1年(2020年)かな。曲の候補は出てたけど、上手くいったり没になったりを繰り返して。形になるまで時間がかかった。
對馬:かなり前のライブで新曲もやってた記憶がありますけど、その曲は今作に入ってますか…?
Miraco:多分あれですよね…South PenguinとかBearwearが出てたイベント(※1)の時にやってた曲。それはもういなくなりました。正直あんまり記憶にない。笑
(※1:2019年1月13日、下北沢THREEで開催された「night after night vol.29」)
Kantaro Kometani(Gt.):(あの新曲)スベったやん。
Yusei Yoshida(Dr.):1曲やってスベって、「ちゃうな〜」ってなって。
Kantaro:そこからコンスタントにライブができたら良かったけど、新曲も進まず、コロナでライブもできず。結局「オンラインで作ろう」ってなってデモを作って、ここ1年くらいでやっと対面でスタジオ入れるようになって…という。
對馬:Ujiさんが揺らぎのサポートとして参加したタイミングは、いつからですか?
Uji(Ba.):スタジオに入ったのは2019年の…。
Miraco:10月から。
Yusei:そんな前か。長いな。
Miraco:で、2019年の12月に2本ライブがあって、そこからライブはずっとしてなかったから、2020年の1月から制作にがっつり入ってもらった感じです。
Kantaro:(在籍が)長い割にライブは全然してないけど、曲作りはめちゃめちゃしてる。
Miraco:ベースラインも「こうしてほしい」とか指示するんじゃなくて、考えてもらって。
Kantaro:サポート以上の仕事をしてもらってますね。
對馬:もうほとんどメンバーですね。
Miraco:レンタカーの予約もさせられてるしな。
一同:笑
Yusei:ほんま申し訳ない。笑
Uji:全然良い! 全然良いんです。
Miraco:めちゃめちゃ助かってます。笑
對馬:Ujiさんの存在は、制作面と精神面のそれぞれで、バンドにどんな効果をもたらしてくれてますか?
Miraco:Ujiくんの存在はマジで大きいです。今まで揺らぎはYuseiさんだけ歳が離れてたんですけど、そこに(Yuseiさんと)同い歳のUjiくんが入ってきてくれて。大前提として良い友達だし、メンバー3人だけで曲を作ってたら真剣すぎる空気になって暗くなるけど、そういう時も気を遣って喋ってくれたりとか。曲作りに参加してくれてるのもすごく大きいし、プレイ面とか練習方法とか、ほんとに今までの揺らぎにないアプローチをしてくれる。「こうした方が良いんじゃない?」っていう、サポート以上のことを言ってくれる。ほらUjiくんについてみんなも喋って?
Kantaro:何なん? 親なん?
一同:笑
Kantaro:「友達」っていうのは一番大事かな。スタジオ以外では全然喋らないしすぐ帰るような人は、やっぱりうちのバンドメンバー的にも合わないと思うし、「友達の延長」としてやれてるのが、Ujiくんが入ってくれて一番良かったことかな。Ujiくんじゃないとダメというか。
Miraco:Ujiくん以外は考えられないね。
Uji:なんか、汗かくね。
Kantaro:笑
Yusei:シューゲイザーは全く知らんのかな?
Uji:そうやね、少なくともサポートに入った段階では。
Yusei:だから、今までにないアプローチをしてくれる。そこから広がるドラムもあるし。Ujiのおかげでこのアルバムができたんちゃうかなと。かなりデカいよね、ほんまに。
Kantaro:ここでバリバリのシューゲイザーの人が(サポートに)入ってたら、今回みたいな作品には絶対ならへんかったのかなと。
Yusei:「シューゲイザーはこうすべき」っていうのを知らないからね。良いものができたと思います。
對馬:バンドに良い化学変化をもたらしていることが伝わってきますね。
Miraco:いや〜、ほんとに。スタジオ終わりのご飯とかもすごい楽しいし。
Uji:お世話になってます。
Miraco:かんちゃん(※Kantaroの愛称)の良き友達でもあるし。
Kantaro:ほんとにそうですよ。でも、私だけ立ち位置が変で。秋田(Miraco)から見ればUjiくんは大学の同期で、Yuseiさんから見れば同い歳で。でも私から見たら、ただの1つ上の先輩なんですよ。
Miraco:私はもうYuseiさんと(付き合いが)長いから、1個上の高校の先輩なのに敬語で喋ることはないけど、かんちゃんだけ私以外に対して敬語、っていう。
Kantaro:ちょっと変な感じ。
Miraco:「おい後輩!」っていじめられて。
一同:笑
Yusei:言うたことないわ。
Kantaro:肩「ガッ」って掴まれて「すいません!」って。
Yusei:それはある。
一同:笑
Miraco:そんな感じです。
對馬:今の揺らぎ、めちゃくちゃ良い状態じゃないですか?
Miraco:マジで一番良い状態だってみんな思ってるはず。全てUjiくんのおかげ。
Uji:なんか…すいません、ありがとうございます。
■「揺らぎのメンバーそれぞれの心情を音にした」っていうのが近いかな
對馬:前作の『Still Dreaming, Still Deafening』が1stアルバムのような気がしてましたが、実はEPでしたね。
Miraco:(前作は)6曲だしEPにしようか、みたいな感じだった。
對馬:でも、前作は6曲で30分、今作は9曲で30分、という。
Uji:前作はアルバムだと思って聴いてたな…。
一同:笑
Kantaro:自分たち的に、30分で作るのがちょうど良いと思ってて。「このくらいの曲数で良いんじゃない?」って言ったのがちょうど30分くらいだったし、それは前作もそうだった。
對馬:確かに30分くらいの尺って聴きやすいし、繰り返し聴きたくなるような短さだと思います。
Kantaro:リスナーとしてもそのくらいのボリュームがちょうど良いから、自分が作る側になってもそうなるのかなって。
對馬:前作と違って、今作は具体的なコンセプトがない、ということで。しかも、それは意図的なものではなく、自然とそうなったとのことですが、その辺りを詳しく聞かせてほしいです。
Uji:元々このアルバムって、どの曲を軸に作り始めたんだっけ?
Yusei:「Sunlight’s Everywhere」かな?
Miraco:「Sunlight’s Everywhere」は、かんちゃんが作ったゴリゴリの打ち込みトラックをどんどん変化させていった曲で、そこから他の曲も広がっていった感じはあるけど--特に「あの曲を軸にしよう」みたいな意識はなかったし、前作みたいにコンセプトとかも考えてなくて。「揺らぎのメンバーそれぞれの心情を音にした」っていうのが近いかな。
Kantaro:前作はみんなの中でイメージが統一されてて、「Sigur Rósみたいな…」とか言ってたけど、リリース後にライブをしていくうちに「もっとこういうのがやりたい」っていう思いがどんどん広がって、結果(今作は)やりたいことが色々詰まってる。自分たちのやりたいことが増えちゃったからこうなったのかも。
對馬:なるほど。それってある意味「自然体」というか、やりたいことに忠実な姿勢ですよね。
Miraco:「〇〇を参考にしよう」みたいな話も全然出なかったし。
Kantaro:でも、途中で一回だけ頑張ってコンセプト決めようとしたよね。
Yusei:あったな〜。
Miraco:あったあった。
Kantaro:確かその後にコロナ来たんじゃなかったっけ。それでライブとかもなくなって、結局流れて…っていう感じだった。笑
Miraco:みんなで集まって考えるタイミングがなくなった、っていうのはあるのかもしれない。笑
Yusei:コロナの影響デカいよね。
Miraco:でもコロナがどうとかっていうコンセプトが入ってる訳ではない。元々メンバーが関西と東京で離れてるし、そこは自然体で何も変わらず、です。
對馬:アルバムのタイトルについても教えてください。「adroit」(※2)は初めて見た単語でしたが、どんな意味や想いを込めてつけましたか?
(※2:「器用な」「巧みな」「気の利いた」くらいの意味)
Kantaro:実はみんな(意味は)そんなに分かってない。笑
一同:笑
Miraco:海外の友達に「これイケてる?」って確認したもんな。笑
Kantaro:海外の人も「よく分かんないけどイケてる」「なんか…良いと思う!」みたいな感じだった。笑
對馬:でも、そういうフィーリングって結構大事だとは思う。笑 このタイトル、かんちゃんがアメリカの詩人の作品から拝借したとのことですが。
Kantaro:ネットサーフィンで見つけた、とある詩の一行がこの文で。意味に感銘を受けたとかじゃないんですけど、字面が綺麗やなと思って。その時ちょうどデモを作ってたから、アルバム名にこのフレーズを仮で入れて。そしたら知らない間にフィットしてきて、そのまま採用されました。
Miraco:でも私としては、このアルバム自体が聴いてる人のお守り的な--「あなたのために(For you)」って冒頭に入ってるから、誰にでも当てはまるニュアンスなのかなと思って。そういう意味で、フィットしてると思ってます。
Kantaro:後で調べた意味が、たまたまこのアルバムに対するみんなのイメージと何となく合ってたのが面白かったね。
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