Posted on: 2021年12月30日 Posted by: Sleep like a pillow Comments: 0

一年間の総まとめとして、その年にリリースされたシューゲイザー及びドリームポップなど周辺ジャンルの作品を一挙に紹介する年末恒例企画「Best Shoegaze Albums」。3年目となる今回も、2020年に引き続きシングル部門は「Best Shoegaze Singles 2021」、アルバム部門は「Best Shoegaze Albums 2021」と題してお届けする。全作品にコメント付き。

シングル部門:Best Shoegaze Singles 2021

アルバム部門では、2021年にリリースされたアルバム/ミニアルバム/EPから102作品+企画盤5作品を選出した。上位30作品については執筆陣による投票でランキング化し、1位は各々のベスト作品をそれぞれ掲載している。

文=對馬拓/鴉鷺/鈴木レイヤ
編集=對馬拓


Best Shoegaze Albums 2021 / First Harf

■ Anfiorester – All The Past Lights

Eldur Records
2021/01/02

スペイン・マドリッドを拠点に活動するブラックゲイズ・バンドの1stアルバム。ポストロックのフレージングや楽曲展開を強襲しつつ、シューゲイザーの幻想的なサウンドを取り込んだ意欲的なブラックゲイズ。激情迸るサウンドというか、ポストロックが内包する激しいエモーションをシューゲイザーとメタルのギター・ノイズに託すような作風で個人的によく聴いた作品。コンセプトに宇宙やブラックホールがあるらしく、間奏曲のアンビエントも含めて全体的にスペーシーな質感。近い作風を採るのはRussian Circlesだろうか。(鴉鷺)

■ Leaving Time – Leaving Time

Self Released / Tiger Records
2021/01/11

アメリカ・フロリダ州を拠点に活動するシューゲイザー・バンドの1st EP。オルタナティヴ・ロック、エモ、ハードコア・パンクを経由したシューゲイザーで、全編を通して聴こえる骨太で直球のサウンドに心を揺さぶられる。例えば「Yellow」「Bloom」といったエモ直系の繊細なフレージングも素晴らしく、今年のへヴィー・シューゲイズの中でも生え抜きのEPという印象。(鴉鷺)

■ Clinic Stars – 10,000 Dreams

Self Released
2021/01/13

アメリカ・ミシガン州を拠点に活動するドリームポップ・バンドの1stアルバム。おそらくRed House Paintersなどのスロウコアとキリスト教の声楽に影響を受けた作風で、牧歌的とも取れるギターとリヴァーブが深く掛けられた幻想的なヴォーカルが美しい。ジャケットの彫刻も彼らの信仰を示唆しているのだろう。スローで牧歌的な夢想に浸りたい方におすすめできる一枚。(鴉鷺)

■ Subsonic Eye – Nature of Things

Middle Class Cigars / Fastcut Records
2021/01/15

シンガポールのインディー・ロック・バンドによる3rdアルバム。メンバーを共有するSobsやCosmic Childと同じレーベル、Middle Class Cigarsより。インディー・フォークの潮流と共振するようなオーガニックなサウンドがシューゲイズとも通ずる軽めの歪みと疾走感によって運ばれ、初夏の涼風が青々と茂った木々を揺らす光景を立ち昇らせる。キャリアハイをさらりと更新する総天然色インディー・ポップ。(對馬)

■ Radio Supernova – Takaisin

Soit Se Silti
2021/01/15

フィンランドを拠点に活動するシューゲイザー・バンドの2ndアルバム。Joy Divisionのようなゴシックなポスト・パンクというよりは、比較的明るい部類のデスロックの影響を受けたシューゲイザー。幻想的なギター・ノイズと良い意味で癖の強い女性ヴォーカルが交錯する優れた作品で、ポスト・パンク系統のシューゲイザーを愛好する方におすすめしたい作品。(鴉鷺)

■ Kaz Mirblouk – Careless by Contrast

Mock Records
2021/01/21

アメリカ・カリフォルニア州を拠点に活動するシューゲイザー・プロジェクトの1stアルバム。ハードコアパンク、サイケデリック・ロック、サーフ・ロック、グランジなどの影響が昇華されているのが伺える名盤。へヴィーでありつつ60’sサイケのようなサイケデリアや多幸感、逆回転などのエフェクトが同時にあるようなサウンドで、初めて聴いてかなりの衝撃を受けたのが記憶に新しい。(鴉鷺)

■ Twinkle Park – Touched, or Been Touched By

Pop Spirit
2021/01/28

アメリカ・カリフォルニア州を拠点に活動するシューゲイザー/インディー・ロック・バンドの2nd EP。チェンソーのように強烈でノイジーなシューゲイザー風味の、例えばThe Jesus & Merry Chainを思い出すギターに躁的なヴォーカロイドが乗る独創的な作風で一聴したインパクトが凄まじく、その上何度も聴取に耐えうる楽曲やサウンドの強度を併せ持つ名EP。近い作風を感じるのはElefant RecordsからリリースするAxolotes Mexicanosだろうか。両者に共通するのは日本のサブカルチャー、特にアニメからの影響で、おそらく作品の感覚やポップセンスや突き抜けた明るさに作用している。(鴉鷺)

■ smallhaus – NOVA

Bad Bat Records
2021/01/29

ロンドンを拠点に活動するDavid Littleのソロ・プロジェクトによる5thアルバム。全編に渡ってダウナーかつスロウなアンビエント/エレクトロ・シューゲイズを展開しており、近しい音像ではBowery Electricあたりを想起する。時にへヴィーなサイケデリアやダブ、ドローンの要素なども垣間見せるディープで精緻なサウンド・デザインは、聴く者をインナースペースに深く潜り込んでいくかのように錯覚させる。新たな猫ジャケットの(隠れた)名盤としてもカタログに追加しておきたい。(對馬)

■ Crystal Canyon – Yours With Affection and Sorrow

Repeating Cloud
2021/01/29

アメリカ・メイン州ポートランドのシューゲイザー・バンドの2ndアルバムにして、正統派シューゲイザーの新たな完成形とも呼べる作品。初期のSlowdiveが持っていた寂寥感やヒーリング的ニュアンス、さらにはMy Bloody Valentineのダイナミズムやポップセンスを追求しリバイバルさせたようなサウンドは、奇を衒う部分こそ希薄だが、純粋なオリジナル世代の高品質なリバイバルとしてむしろ貴重なのではないだろうか。ヴォーカルもどこかビリンダ・ブッチャーを想起させる。現行シーンを追うリスナーはもちろん、クラシカルなシューゲイザーの愛好家にも是非聴いていただきたい。(對馬)

■ Lapse – Lapse

Lacklustre Records
2021/02/04

オーストラリア・シドニーを拠点に活動するドリームポップ・バンドの1stアルバム。例えば『Loveless』が表現したような、もしくはFar Caspianが日常と親和する形で表したような、一部のシューゲイザー/ドリームポップが内包する至福に至る感覚を全編通して感じる優れたドリームポップ。白昼夢のサウンドと言える作風で、名前を挙げたFar Caspianなどの穏やかなドリームポップを愛好される方におすすめできる作品。(鴉鷺)

■ Bored At Grandmas House – Sometimes I Forget You’re Human Too

Clue Records
2021/02/05

UK・リードを拠点に活動する宅録シューゲイザー・プロジェクトの1st EP。The Pains of Being Pure at Heartが蒔いたインディー・ロック以降のシューゲイザーの種子が美しく開花した──と言えば形容として正しいだろうか。宅録とは思えない水準の楽曲とサウンド、そして作品の美しさを特徴付ける素晴らしくリリカルなヴォーカル、というシューゲイザーに必要な要素が全て揃ったEPで、個人的に今年何度も聴き返した。Niightsの明るい闇を志向するようなゴシックな要素があるバンドとの共振も聴き取れるが、一人での制作という手法が良い形で反映されていると考えて間違いないだろう。(鴉鷺)

■ FRITZ – Pastel

[PIAS]
2021/02/12

オーストラリアのニューカッスル出身、Tilly Murphyによるソロ・プロジェクトの2ndアルバム。青空を突き抜けるがごとく響き渡るノイジーなギターと、随所に取り入れたシンセが煌びやかなシューゲイズ・ポップ。Westkustなどの北欧のシューゲイザーを想起させるクリアな音像、Night Flowersに代表されるような胸を締め付けるセンチメンタリズム、そしてガーリーなヴォーカルで一気にシーンに躍り出た一枚。シューゲイズ・ポップの新たなスタンダードとして受容されるであろう名作アルバム。(對馬)

■ Teenage Wrist – Earth Is A Black Hole

Epitaph Records
2021/02/12

アメリカ・ロサンゼルスを拠点に活動するシューゲイザー/オルタナティヴ・ロック・バンドの2ndアルバム。『Chrome Neon Jesus』での鮮烈な登場以来となる待望のアルバムは、期待を全く裏切らない名盤だった。エモ、ハードコア・パンク、シューゲイザー、オルタナティヴ・ロック、グランジを吸収の後リビルドした彼ら固有の音楽は鮮烈で、特に「Taste of Gasoline」での視界が開けるようなエモーションが好ましく個人的に何度も聴き返していた。今作では特にグランジの影響が色濃いが、先人たちが残した闇を彼らは美しい叙情に転じており、その点が音楽の飛躍と言えるだろう。(鴉鷺)

■ Resounding Maybes – Sine Qua Non

Gelatinous Productions
2021/02/14

アメリカ・インディアナ州を拠点に活動するシューゲイザー・バンドの1stアルバム。Elefant RecordsやBelle And Sebastianへの偏愛が伺える美しく牧歌的でボップなシューゲイザー。インディー・ポップへのある種の俯瞰も伺える。日常を彩るBGMとして心地良く、熟聴にも当然耐えうる優れた作品で、エレガントなサウンドや単に多幸感を強調するだけではない、重複するがベルゼバ譲りの楽曲の幅広さも素晴らしい。男女ツイン・ヴォーカルの一つの最適解のような、Elefant Recordsをはじめとしたインディー・ポップへのシューゲイザーによる回答とも言える名作。(鴉鷺)

■ Mogwai – As The Love Continues

Rock Action Records
2021/02/19

スコットランド・グラスゴーの超轟音ロック・バンドの10thアルバム。限界を越え続けたギター・サウンドで掴んだ全英1位という称号はお笑いでも何でもない。今やイギリスを代表するバンドとなったMogwaiだが何も丸くなっていない。My Bloody Valentineすらも敵わない、Mogwaiの奏でる世界一の騒音は健在だ。深夜の幕張メッセで度肝を抜かれた記憶が蘇った、彼らが奏でる轟音はエクスタシーではない、肉体的なドーピングである。これは力の音楽だ。(鈴木)

■ Flyying Colours – Fantasy Country

Poison City Records
2021/02/26

オーストラリア・メルボルン出身のシューゲイザー・バンドによる2ndアルバム。同郷オーストラリアのTame Impalaをはじめ、Kairon; IRSE!やHoly Fuckといった、サイケデリアと他ジャンルとのクロスオーバーの潮流とも呼応する滑らかな質感が心地良い。しかし、全体としてはあくまでポップなシューゲイズ・サウンドを鳴らすアルバムとして成立しており、そのちょうど良いバランスがリピートに繋がる。シューゲイザーの入門としても最適と思われる一枚。(對馬)

■ all under heaven – Collider

Sunday Drive Records
2021/02/26

アメリカ・ニュージャージー州を拠点に活動するシューゲイザー・バンドの1st EP。恐らくエモの影響が色濃い、優れたへヴィー・シューゲイズ。一聴して分かるアンダーグラウンドな質感や、例えばMineralのような澄んだエモーションが美しい秀逸なEPで、Title FightやWhirrがお好きな方におすすめできる作品。(鴉鷺)

■ Echodrone – Resurgence

Dome A Records
2021/03/05

アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコの5人組シューゲイザー・バンドによる最新アルバム。一聴して感じるダイナミックかつスケールの大きいアンサンブルは、ゼロ年代からコンスタントに活動を続けてきた彼らの貫禄が滲み出ている。煌びやかなシンセ・サウンドや優美なコーラス・ワークなどに彩られた、一切の隙がない強靭なシューゲイズを堪能できる作品だろう。静と動のコントラストと轟音が美しい「Grain of Salt」は本作のハイライトの一つ。(對馬)

■ Citrus Clouds – Collider

Lolipop Records
2021/03/05

アメリカ・アリゾナ州フェニックスの3人組シューゲイザー・バンドの3rdアルバム。サイケデリックな質感のギターという点では今年新作をリリースしたFlyying Coloursとも通ずるが、こちらはよりクラシカルなシューゲイザーがベースにあるような印象。表題曲でもある「Collider」から「Summer Everywhere」へ繋がる流れは、彼らの真骨頂とも言える力強いリズム隊と爛々とした音色のシューゲイズ・ギターがシャワーのように浴びせられる絶景パート。(對馬)

■ SOM – AWAKE

Pelagic Records
2021/03/05

ヘヴィー・シューゲイザー・バンド、SOMの1st EP。ポスト・メタルやその他の多様なヘヴィー・ミュージックを咀嚼した上でエセリアルなシューゲイザーとして表現する力量とセンスにまず感服する。特有の透明なサウンドや、叙情が強い轟音は透き通った美しさを放ち、ブラックゲイズの至宝と言えるアリゾナのバンド、Holy Fawnがリミックスで参加するという形である種の共振を見せていることにも納得がいく。とにかく美しいのだ、そして力強い。このバンドが単純に好きなのもあるが、今後のアルバムで大きく進化するだろうと個人的に予感している。今後も注視していきたい。(鴉鷺)

■ Asian Glow – Cull Ficle

Longinus Recordings
2021/03/17

韓国・ソウルを拠点に活動するシューゲイザー/エモ・プロジェクトの1stアルバム。Parannoul、sonhos tomam contaと同じLonginus Recordingsからのリリース。宅録という形態の音楽が個の強烈な叙情を発露させることが稀にあり、それが作品と結びついて特有の磁場、つまりバンドというフォーマットとは別の完成度を達成する場合がある。この作品が正にそれで、パーソナルで繊細な叙情と90’sオルタナティヴ・ロックやエモを想起させるサウンドが結託した結果、美しく結晶している。今年の宅録作品の中でもParannoulと並んで好きで、これからも折を見て聴いていきたい。(鴉鷺)

■ Alphabet Holds Hostage – where were we?

Wrong Body Recordings
2021/03/19

UK出身のソロ・プロジェクトによるデビュー・アルバム。「lo-fi bedroom mathgaze」を標榜している通り、手数の多いドラムや執拗に繰り返されるミニマルなギター・フレーズなどは、まさにポストロック〜マスロックの影響下にあるもの。一方で、不意にバーストする轟音ギターや環境音、アンビエント〜ネオクラシカル的なアプローチも見せ、それらを自在に操る。有機的かつ冷ややかな音像はWilliam DoyleやSmerzとも呼応する印象だ。鍵盤のリフレインとギターのチョーキングが印象的なイントロで幕を開ける「fountains」は本作屈指の名曲。(對馬)

■ Mint Julep – In A Deep And Dreamless Sleep

Western Vinyl
2021/03/19

アメリカ・ポートランドを拠点に活動するKenniff夫妻によるエレクトロ・シューゲイザー・ユニットの最新アルバム。この手のサウンドを奏でるアーティストの中でも頭一つ抜けている印象の彼らだが、本作もメランコリックなヴォーカルと揺蕩うようなサウンド・スケープが洗練を尽くしており、アルバムのタイトル通り目覚めながらにして深い眠りへと誘い込む魅惑のシューゲイズ・エレクトロニカとして響く。少しの間だけでも現実を忘れたいなら、この1枚に逃避を。(對馬)

■ Hayden Casey – Calamities

Self Released
2021/03/19

アメリカ・アリゾナ州を拠点に活動するドリームポップ・プロジェクトの1stアルバム。シンセサイザーと少年的でリリカルなヴォーカルを全面に押し出す美しいドリームポップ。それだけでも単純に素晴らしいが、彼の作品を次のレベルに押し上げているのはそのソングライティングの水準の高さだろう。的確なシンセ使いやヴォーカルのメロディのセンスも良く、そこに例えば、イギリスの至宝であるFor Caspianと並列に語るべき洒脱な楽曲が展開される。文句なしの名盤。(鴉鷺)

■ Tearjerker – Deep End

Self Released
2021/03/19

カナダ・オンタリオ州を拠点に活動するシューゲイザー/インディー・ロック・バンドによるEP。穏やかで牧歌的な、ノスタルジアすら感じさせるインディー・ロックに微かなシューゲイザーの要素を織り込んでいて、リラックスして楽しく聴ける作品。だが、それだけで終わらないのはバンドの微かな毒によるのだろう。インディー・ロックが稀に見せる個の悲しみや風刺精神に基づいた奥行きがこの作品にも感じられ、苦味を添えた聴取後の感覚を残す。余談だが、バンド名は『Epithalamia』に収録されているAstrobriteの同名曲から採られているのかもしれない。(鴉鷺)

■ XO – Courage

Twin Waves Records
2021/03/26

アメリカ・ジョージア州アトランタ出身の双子、ジェイク&ジェフ・ターナー兄弟が繰り出すオルタナ・シューゲイザー。初期MBVのサイケデリックなリズムに現行ドリームポップを織り交ぜたようなぎこちない作風のシューゲイズを突き進めてきたXOだが、今作でKraus以降の分厚いノイズとストイックなメロディー・ラインのマッチングで固められた今風のシューゲイズを披露した。このバンドの骨頂は未熟なポップ・サウンドであるが、それがいよいよ成熟を目前としており、ある種の感動さえも覚えさせるLAシーンを象徴するようなEPとなっている。(鈴木)

■ NewDad – Waves

Fair Youth
2021/03/26

アイルランド・ゴールウェイ出身の4人組による1st EP。アンニュイなヴォーカルとインディー・ロック・マナーの親しみやすいメロディーをドリーミーな音像でコーティングしたサウンドがとにかく浸れる。コラージュを用いた幻想的なジャケット・デザインがサウンドに直結していると言ってもいいだろう。派手さがある訳ではないが、このバランスの良さは多くの支持を集めるはずだ。初期Snail MailやEllisなどのフィメール・ヴォーカルが好きな方は是非。(對馬)

■ Sharp Veins – Lips The Same Color

Youth
2021/03/31

UK・マンチェスターを拠点に活動するエクスペリメンタル、言うなればデコンストラクテッド・クラブのプロジェクトによるアルバム。アメリカン・ゴシック的な審美眼を持ちつつ、シューゲイザー/ドリームポップを経由した上で現行エクスペリメンタル勢の音響を構築した印象で、Boomkatのレビューで「Southern Gothic Shoegaze Soul」と評された上でA.R.Kaneを引き合いに出されているのも納得の内容。個人的にはSlowdive『Pygmalion』の感覚と、ヴォーカルにBurialの影響を感じた。シューゲイザー以降の音楽としてもエクスペリメンタル・ミュージックとしても優れた作品で、今年の名盤として記録するに相応しい内容だろう。(鴉鷺)

■ Godspeed You! Black Emperor – G_d’s Pee AT STATE’S END!

Constellation Records
2021/04/02

カナダの極左ポストロック・バンドが最新作でも隙のない音作りで大作を完成させた。もはや職人芸、幾重にもなる重低音がヘッドホンを埋める。シューゲイズという言葉で括ることのできない、あまりに広すぎるレンジの音で50分かけてゆっくりと立ち上がるひと連なりの芸術は、確実に聴者のエクスタシーを充実させてくれる。多方面で評価を受けた4thアルバム『’Allelujah! Don’t Bend! Ascend!』に匹敵する名作。(鈴木)

■ Aythis – Secrets from Below

Orcynia Records
2021/04/02

オランダを拠点に活動する元ネオクラシカル・プロジェクト/現ドリームポップ・プロジェクトの5thアルバム。記述した通り元々ネオクラシカル・ダークウェイヴを制作していた作家のドリームポップへの転身作。Cocteau Twinsがモダンなゴスの潮流に深く染まったような、耽美と憂鬱の間を編むようなサウンドは珠玉の美しさで、絶対零度の感覚や歌が抱える強烈な感情などリスナーを惹き付ける要素が多数ある。並列して語れるのはゴシック・シューゲイザーのTearwaveだろうか。至高の名盤。(鴉鷺)

■ Olhava – Frozen Bloom

Slowsnow Records
2021/04/02

ロシア・サンクトペテルブルグを拠点に活動するブラックゲイズ・バンドの2ndアルバム。強烈な絶対零度の轟音、音楽を駆動させるブラスト・ビート、荘厳さ、切れ味の鋭いデス・ヴォイスなど、ブラックゲイズとして完璧としか言いようのない地平に到達した作品だろう。サンクトペテルブルグ・シーンのバンドはどれも独創的で美しく、彼らもまた例外ではない。『Frozen Bloom』というタイトルが象徴する、氷れる開花のような名盤。(鴉鷺)

■ Misty Coast – When I Fall From The Sky

Moorworks
2021/04/16

ノルウェーのシューゲイザー・バンド、The Megaphonic ThriftのLinnとRichardによるドリームポップ・デュオの3rdアルバム。程良く歪んだサイケデリックな音像と甘美なヴォーカルが夢見心地なドリームポップ。「Switch Off」や「Do You Still Remember Me」などで東洋風のサウンドが使用されるなど新たな一面も。前作を引き継ぐかのようなシュールレアリスム的なジャケット・デザインも印象的。(對馬)

■ Lunation Fall – Near

Stellar Frequencies
2021/04/16

フランス・リヨンを拠点に活動するシューゲイザー・バンドの1st EP。耽美的で叙情的な、SlowdiveとMy Blody Valentineの中間点に存在するかのような音楽性で、特徴的なのはアンニュイなニュアンスの、フレンチ・ポップの優れたアーティストたちを想起させる女性ヴォーカルだ。繊細で優しい音楽性は陶酔を誘い、穏やかな微睡みに導くもので、聴取したリスナーが多幸感を覚えるのは間違いないだろう。(鴉鷺)

■ Margaritas Podridas – Margaritas Podridas

Self Released
2021/04/23

メキシコ・エルモシージョ出身のオルタナティヴ・ロック・バンドによる2ndアルバム。ざらついた耳触りのグランジ・シューゲイズと、浮遊感のあるアンニュイなヴォーカルが全編に渡って展開される作品。一転して荒々しいシャウトを繰り出す様が近年だとBullyとも呼応するような印象の「Margaritas」は本作のハイライトだが、特にアルバム後半は随所にサイケな要素も散りばめられており、良いアクセントになっている。メンバーのアイコニックなヴィジュアルの要素も彼らを語る上では外せないだろう。(對馬)

■ リューネ – For You, For Me

Self Released
2021/04/29

東京を拠点に活動するシューゲイザー・バンドの2nd EP。極端なまでに繊細で、歌も演奏もエレガントであり、フラジャイルな感触を漂わせる。演奏による幻想の叙景と言うべきだろうか、例えば「rain on your shoulder」の徐々に体温を上げていくような優れたソングライティングは眼を見張るものだし、ダークでポスト・パンクの要素が強い「whisper」も美しい。「float among your stars」の女性ヴォーカルはここまでの深度に到達した演奏を今までに聴いたことがあるか?と自問する素晴らしさで、最終曲であるRAYのカバー「愛はどこいったの?」も元々の楽曲が優れているのもあるが、演奏の地平が異質なものとして成立させている。極東に美しく結晶した、幻想と叙情の名盤。(鴉鷺)

■ Beachy Head – Beachy Head

Graveface
2021/04/30

Slowdiveのギタリスト、クリスチャン・セイヴィルによる新プロジェクトがスタート。同じくSlowdiveのレイチェル・ゴスウェルとその夫、The Flaming Lipsのドラマーであるマット・ダックワース、さらにはリリース元のGravefaceの社長も参加するなど、異様に豪華な顔ぶれが集結している。デビュー・アルバムとなる本作は、それぞれのプレイヤーとしての経験に裏打ちされた、程良く歪んだギターとハイトーン・ヴォイスで展開される円熟のドリーミー・シューゲイズが堪能できる。もっと話題になっても良いはず。(對馬)

■ Un.Real – ISLAND

Robots Records
2021/05/01

プエルトリコを拠点に活動するシューゲイザー・バンドの2ndアルバム。王道を行く幻想と轟音の美しいシューゲイザー。My Bloody Valentine、Slowdive、Chapterhouseというオリジナル世代の影響が色濃く、90’sへの偏愛を漂わせながらモダンに叙情する音楽、と言えば伝わるだろうか。とても安心できるアルバムなのは、おそらくほとんどのシューゲイザーのリスナーが通過した地点を彼/彼女らが参照していることによるものだ。まさしく王道。(鴉鷺)

■ New Candys – Vyvyd

Self Released
2021/06/04

イタリア・ベネチアを拠点に活躍するポスト・パンク/シューゲイザー・バンドの4thアルバム。ジャンルで異彩を放つHorrorsにも匹敵する狂気的なポップネスは、ベニスという孤立したシーンの恩恵もあり独自に進化を遂げた。ソビエトソビエト的とも言えるイタリアのバンド特有のポスト・パンクに加え、Pete International Airportなどのようなアングラ・サイケ・ポップの風味も見事シューゲイジングに利用。ど派手なキャッチーさに欠けるところはシューゲイズらしくないが、可愛げのないドロドロ尖ったセンスは冗長な勘違いバンドと一線を画している。ハマるとこれだけで当分は白米が無限に食える。(鈴木)

■ Wolf Alice – Blue Weekend

Dirty Hit
2021/06/04

現行メジャー・ロック・シーンで最も成功を上げているシューゲイザーとも言えるWolf Aliceがついに全英トップに踊り出した。粗削りなインディー・ロック臭が消えてしまったことを嘆く人はいないだろう。振り切って壮大なサウンドを作り上げ、いつの日にかスタジアムを埋めてやらんという野心すら感じられる。彼らはシューゲイザーなのか?という問いはむしろ必要ないはずだ。これまで彼らをスタジオで、ステージで支え続けてきたギター・サウンドは間違いのないシューゲイズであり、その延長上にあるシューゲイズ・サウンドが今も神髄に宿っているからだ。(鈴木)

■ Japanese Breakfast – Jubilee

Dead Oceans
2021/06/04

フィラデルフィアを拠点に活動する韓国系アメリカ人アーティスト、ミシェル・ザウナーによるソロ・プロジェクトの3rdアルバム。癌を患った母親の治療中に製作した1st、母親の死を乗り越えるための2ndを経て、幸福を掴むための「祝祭」を迎えた作品。シューゲイザーやドリームポップの枠を飛び超え、内省的な音像を残しながらもホーンやストリングス、シンセ・ポップ、ディスコ、ファンクなどの要素も取り入れてポップネスに振り切ったサウンドが眩しい。ジャケットのモチーフとしては珍しい「柿」も印象的。社会と関わろうとする気概や自己実現への意欲、そして混迷を極める世の中に祝祭のムードを共有しようする姿勢──まさに今こそ聴くべきアルバムだろう。(對馬)

■ Good Morning TV – Small Talk

Géographie Records
2021/06/18

フランス出身のドリームポップ・バンドによるデビュー・アルバム。Yumi ZoumaやMen I Trustなどメロウなドリームポップの潮流と呼応しつつ、絶妙なコード感で遊び回るギターによって鳴らされる、緊張とは対極にある弛緩されたサイケな音像が、なんともアンニュイな陶酔感を生み出す。ヨレヨレな紐がほどけてしまうギリギリ手前のようなバランス感覚と、なおかつアルバム全編でそれを保ち続けるという実力。印象的なポニーテールと青い椅子のジャケットまで含め、デビュー作としてはあまりに完璧すぎる作品だ。ちなみに同郷フランスのTapewormsとも共演経験あり。(對馬)

■ Ellis – Nothing is Sacred Anymore

Self Released
2021/06/25

カナダ・オンタリオ州ハミルトンを拠点に活動するシンガーソングライター、Linnea Siggelkowのソロ・プロジェクト、Ellis(エリス)の最新EP。繊細でありながらも芯のあるヴォーカルがミドルテンポのドリーミーなサウンドと溶け合う様が美しい。彼女の音楽には、どこかベールに包まれた神秘的な部分があると感じてきたが、本作のジャケットを見て腑に落ちるものがあった。全4曲という小品集ながらも、彼女の魅力を余す所なく収めた作品。(對馬)

■ Amusement Parks On Fire – An Archaea

EGB Grobal
2021/06/25

UK出身のエモ・シューゲイザー・バンドによる最新アルバム。彼らの作品が名盤なのはもはや確定事項ではあるが、今作は今までの地点を確かめつつそこから前進するような一枚だ。恐らくSubmotileのルーツの一つであることから伺える通り、抱えるエモーションが鮮烈で、その点で彼らの音楽はいつでも新しい。単純にエモとシューゲイザーの折衷とは言えないその美しい激情は今も健在で、今後の作品へ期待させる。(鴉鷺)

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Best Shoegaze Albums 2021 / Second Half

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