Label – EMI Records
Release – 2016/11/02
メジャー2作目。
映画の主題歌として書き下ろされた「愛のゆくえ」で、きのこ帝国は再び初期を思わせるシューゲイズ・サウンドに回帰。しかしそこに留まることなく、Boards of Canadaのようなタイトなビートが印象的な「LAST DANCE」、ヴォーカル自体が楽器のように浮き沈みする「MOON WALK」、アコースティック・ギターが爪弾かれる「雨上がり」、今まで以上に等身大の歌詞で歌い上げる「クライベイビー」など、全体的にメロウな作風ながらもバラエティに富んでおり、ひとつひとつの深度も圧倒的。
佐藤による詞作も秀逸だ。「夏の影」の”花束の亡骸が/砂浜にうちあげられてる”というフレーズは「海と花束」を想起させ、かつて”花束かかえて/海へと向かった”自分たちへのレクイエムのように聴こえるし、「雨上がり」の”雨上がり、空が青すぎて”も「WHIRLPOOL」の”仰いだ空が青すぎて”にリンクする。他の楽曲に見られる等身大の歌詞も、かつての鬱々としていた時代があるからこそ胸に響いてくるのだ。
いくつもの季節を過ぎたきのこ帝国は “愛”を知り、その果てをも意識するようになった。”愛”はかたちのないものだが確かに存在するし、たとえ終わってしまっても残り続けるということを教えてくれる。そんな優しさに溢れた傑作。
text by osushitabeiko