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ポスト・シューゲイズ・ユニット、零度poolが1stアルバム『絶対零度の夏の骨』を自主レーベルのLade Pool Recordsからリリースした。
零度poolは、多数の文学賞の受賞歴を持つ歌人/詩人であり、ネオンネウロンや放電加工少女など複数の名義で旺盛な活動を続ける木田昨年と、ゴシック/耽美的人形作家であるeerie-eeryの別名義であるlj∮Åによるポスト・シューゲイズ・ユニット。自主レーベルのLade Pool Recordsは、主に木田昨年、lj∮Åによる作品をリリースすること、そして創作における自発性、楽しさ、美しさ、自由を前提として設立された。
『絶対零度の夏の骨』は新しいシューゲイズ、つまりポスト・シューゲイズであり、電子音楽の先鋭的な実験であると同時に、レイドちゃんという、音楽や文学を愛する、翳があり、厭世的な少女をコンセプト/作中の主体とする作品である。同時に、リスナーを包む柔らかい布のような音楽でもある。
■ Concept
この作品のコンセプトはレイドちゃん、ひとりの少女の物語であり、私語で、それは同時に僕たちの、 木田昨年と lj∮Å の言葉でもあります。
レイドちゃんの絶対零度の宣言を記載します。
「厭世しながら綺麗な世界で美しいひととして生きるにあたって、その不確定で曖昧な部分、つまり、大切なきみの記憶を、その風景を、響いていた音を、記録しないとこの声は時間の中で灰になってしまう。溶けることは快楽でもあり鮮やかな泡ですが、この記憶は美しい水温計で音を測りながら、記録されるべきメモリアで。
記憶の中の、すこし離れたところから鳴り響くチャイムは寂しく、空間をノスタルジーで埋め、傷と 懐かしさを錯誤するように響き、水の中、人工的な水に浸透する塩素が目に染みて、眼に滲む感覚と、声、きみによってこの場所はささやかれる愛と親密の記憶になった。でもきみは泣いていて、わたしは何も言えなくて、世界は触れるべき価値のある、言葉を探る、拾い集める海になり、きみと歩いた仄暗い廊下の記憶、そのしずかな場所を密かに愛していて、そこで言葉を交わす日を想像しながら、わたしたちは遠景と幻想の、遠近法が狂うような、シューゲイズする夕暮れのプールにいた。
これがわたしの、この音楽の物語です。この音楽があなたにとっての柔らかいシフォンであることを願って」
■ Statement
何か言わなくてはならないことを、誰かに、誰に、何を、どこから、どのように、答えはなく、死後のように失語する世界に生きるわたしは、灰と花、死と記憶すること、生と痛むことを、溶ける雪と懐かしい言葉を、天文図と想像の言語を、昏がりであるこの花と、誰かを思い出すことを、死んでしまった猫と、燃えてしまった花束を錯誤するように生きるしかなく、この生から見て、芸術は、音楽はかけがえのないもので、この音楽、という芸術を、ひとに大きく働きかける、力を持った美しい芸術を愛する、愛している者として、この音楽について、零度pool について記述する言葉には、そのエクリを記述することに、ためらい傷が澄むような優しさと、記憶の底の水の純度のような感情を感じている。
わたしは木田昨年氏と個人的な、極めて親しい友人で、彼の心について、音楽や芸術についての熟考について、そして、他者へのいささか倒錯しつつ、でも直接的で、祈るように語られる優しさや、手紙 のように語られる私語を、その声色を知っている。それはわたしの人生にとってとても美しいことで、それを記憶していることも、思い返すことができること、彼との交流は冬の海の海岸を歩きながら翳る光を見るような、死も生も本質的に近いところにあり、生者も死者もその海岸で声を満たして語り合っていることのようなもので、しずかな私室で、死後である世界にもまだ美しいものはあることとして彼を、彼の音楽や文学を捉えている。
以下、この作品についての私見を綴ります。これは批評でありわたしの認識です。
これは悲しみ、これは愛、これは弔い、これは青、これは大好きなきみの心音、これは穏やかな海の記憶、いつか見たすこしだけ光る星の記憶、あ、また誰かが死んでいる、これは時間で、幼年の、朝焼けの光はすこし大切な場所に、あのひとへの、かけがえのない愛を大切にしながら、あまりに多くの花の重さが叙情として溢れ、導である言葉は刺青を、曇る大空の刺青を刻むように個の、青年の生を刻印し、水のような曖昧な傷も、熱を持った傷口も、愛憐の甘さもゆらめきも、すべて糸のように、愛の傷口のタペストリーのように縫われている。ロザリオは僕を赦すのか、口語体のしらべは静かに澄んで、光はやみのように、闇はひかりのように揺れていて、それらすべては腑分けされることなく、ひとつの音楽になる。それが零度poolの音楽であり、このアルバムだろう。
ここには宗教はない、信仰があるなら、芸術についてのそれである。
光はある、だが一般性のそれではない、文学によって、音楽によって研磨された、鈍く澄む、刺すような、誰かの、世界の一側面として確実に存在する悲劇的な物事からのシェルターのように、天窓から差す光の暖かさのように響く、久遠の光である。
闇もあるだろう、それは人間の、個人の、生を送る上で不可避に付く、付けられる傷の闇であるが、 木田昨年の、lj∮Åのアートは、その闇を心音のように受け止め、他者の闇を、自らの闇を心音のように、心の襞で受け止める。
それは人間と、自己と他者への熟考であるだろうし、路上で死んでしまった綺麗な猫を弔うような、今生きている貴方に対して響くことを望む私語のような、美しいものである。 僕にとって、この作品の光と闇、陰影のグラデーションはそのようなものであるように聴こえる。
そして、この花は誰の為に摘まれたのか、
傷付いた人々の生を、止められず、死を迎える人々の死を、死後を、残された人々の悲嘆を、柔らかく 包む産着/弔衣のような音楽。木田昨年とlj∮Åが試行する音楽は、聴衆への働きかけはそれだろう。 彼女/彼らの音楽は、包む、包まれることで堕ちること、死の苦痛や恐怖、悲嘆や傷を和らげる柔らかいシフォンである。
このシフォンは、心あるひとを包むだろう。ここに響いている言葉は私語であり、貴方を秤に掛けずに、直接的に、祈りとその裏にある翳りを縫いながら、光を失わない手紙のように伝えられる。
これは意志であり、叙情の構造体であり、パッションであり、速度の言語的音楽/音楽的言語である。 同時に、木田昨年は、lj∮Åは、新しいシューゲイズ、ポスト・シューゲイズを志向している。 私が共同主宰として運営するレーベル、Siren for Charlotteはポスト・シューゲイズを掲げ、同時に天使的なそれを志向しており、長期的な目的として、ポスト・シューゲイズの文化運動としての成立を意図しており、 その観点から、この作品は、シューゲイズの、ポスト・シューゲイズの長い歴史の中で、光り輝く石になるだろう。
そして、この音楽は永遠の、光り輝く柔らかいシフォンになるだろう。
──aro(音楽ライター/歌人/詩人/Siren for Charlotte 共同主宰)
冷たいプールの水に足首を抱かれるとき、凍えながらも水に輪郭があることに安心みたいなものを感じたことがあって、今作っている作品たちにはそのときを思い出すような感覚があります。
忘れたり忘れないようにしたり、拾いあげて編み直すように、ふたりで大切に作っていくので、どうか見届けてください
──lj∮Å
零度poolは、ネオンネウロンと別軸に始動した美の可能性を探る無政府状態ポストシューゲイザーユニットです。ノスタルジックのなかで破滅し、新しく未来を切り開く音響を生み出す、その繰り返しの中で、僕は美しい音になれたらいい。ネオンネウロンとは全く別の音楽を二人でならやれる気がしていて、今作でそれを確信しました。どうかぼくたちの作り上げた美しさに触れていただけると幸いです
──木田昨年
■ Release
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零度pool – 絶対零度の夏の骨
□ レーベル:Lade Pool Records
□ 品番:Ladepool:0001
□ 仕様:CD / Digital
□ 価格:CD ¥2,000 / Digital ¥800
□ リリース:2025/02/22
□ トラックリスト:
1. 冷徹になれたら
2. 完璧な学級崩壊
3. 微風、快晴、はしる、噴水
4. プラチナ製の眼球
5. 或る水兵
6. 窓からプールの授業が見える
7. lade
8. がっこういかなくていいよ
9.通学路
*CD(30枚限定):
https://ladepoolrecords.booth.pm/items/6596891
*Bandcamp:
https://ladepool0.bandcamp.com/album/-
*配信リンク:
https://linkco.re/4sxzuSde
■ Profile
Author

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