“ぼやけたまちのひかりは、きっとあなたを照らし出す”──名古屋から現れたシューゲイズ・バンド、Blurred City Lights(ブラード・シティ・ライツ)。J-POPに強く影響を受けたキャッチーなメロディーと、古今東西のシューゲイズ、ポスト・ロック、アンビエントなどの要素を含んだサウンドを奏でる、気鋭の3人組である。
ジャパニーズ・シューゲイズが世界的に注目され、ある種のブランドとなったのはいつからだろうか。これまで日本の様々なシューゲイズ周辺のバンドにインタビューしてきたが、日本よりも海外のリスナーが多いという話は当たり前のように聞く。溶けない名前がSpotifyで公開しているプレイリスト「Japanese Shoegaze」は今や3,000曲/35,000いいねを超える巨大コンテンツとなり、Rate Your Musicでここ数年のトップ・シューゲイズでソートをかけてみると日本のアーティストも確実に上位にランクインしているなど、その裏付けは数字としても垣間見ることができる。
一方で、シューゲイズは数多のジャンル/シーンと混ざり合い、細分化し、その定義付けは困難となっていることも事実だ。SNS上で「シューゲイズか否か」という論争も起こるほど、リスナー自身の感覚も多岐に渡っている印象がある。そんな中、Blurred City Lightsはあくまでシューゲイズであることにこだわり、覚悟を持って自らの美学を追求してきた。レコーディングからミックス/マスタリング、そしてアートワークに至るまで、徹底したセルフ・プロデュースとDIY精神。その集大成が1stフルアルバム『天使のいない街で』だろう。メンバーの出会いから結成、デモ・シングルとアルバムの制作、そしてこれから向かう先まで、時間の許す限り3人に聞いた。
インタビュー/文/編集=對馬拓
写真=井上恵美梨
■ やれることが楽しいだけじゃダメ
──バンドの始動は2022年と記憶してるんですが、結成もその年ですか?
恵(Gt.) 2022年の2月ですね。2021年の8月にSoundCloudに音源を上げてメンバーの募集を始めて、約半年で全員揃いました。実は表に出るよりも前のラインナップがあったんですけど、始動メンツが揃ったのは2022年の2月です。
──当初は5人組で、ヴォーカルが別の方だったんですよね?
恵 そうです。神谷は一番最後に加入したんですけど、当時はベース/コーラスでした。
──「始動します」っていう告知をSNSで見て、すぐフォローした記憶があって。
Blurred City Lights、始動します。 pic.twitter.com/7GjvuZM6XL
— Blurred City Lights (@bcl_band) April 21, 2022
神谷なな星(Vo. Ba. Key.) すごい早かった。
恵 50人以内にいた記憶が。
(お待たせしました、カルボナーラです)
神谷 ふはははは!!
(失礼します、大盛カレーです)
──美味そう……で、そうそう、最初“BCL”っていうロゴの画像を上げてましたよね。それを見て「これは間違いなくいいバンドだな」と思いました。
恵 わー!
神谷 良かった〜! ありがとうございます。
──あれは神谷さんのデザインですか?
神谷 です。神谷が作ってないものないもんな。
恵 画像的なものは全部神谷ですね。
──あれを見てびびっときて。しかもライブ・イベントとしてDREAMWAVESがずっと続いてたのもあって、名古屋のシーンは特に注目してたタイミングだったんですよね。
神谷 いやー、ありがたい、すごく嬉しい。
──そもそもBCLは最初から「シューゲイズ・バンドをやる」という名目で立ち上げたんですか?
恵 僕がBCLを始める前にやってたバンドがあったんですけど、そのときに名古屋のThe Rainyっていうシューゲイズ・バンドと対バンする機会があって。それがシューゲイズとの出会いなんですけど、デカい音で、美しくて、「よいな〜〜」って思って。元々クラシックが好きだったのもあって、「自分は美しい音楽が好きなんだ」っていうざっくりとした感覚はあったんですよね。そのバンドのリハを見たとき、あまりにも良すぎて飛び上がって、寄りかかってた棚に頭ぶつけました。
一同 笑
──そんなことある?笑
恵 そこから「シューゲイズっていうものが自分にとっていい」っていうのがわかって。それで、当時やってたバンドが活動量的に不満が出てきて、自分主導でバンドをやりたいと思ったときに、どのジャンルがいいか……ロックとかサイケも好きだからどうしようか迷ったけど、名古屋に全然いないのがシューゲイズだと思って選びました。でも、ただ洋楽の焼き直しをやっても面白くないので、せっかくならキャッチーで、いわゆるJ-POP的なシューゲイズをやろうと思ったんですね。色々聴いてると「Slowdiveそのまんまじゃん!」みたいなバンドも結構いるんですけど、当時For Tracy Hydeとか宇宙ネコ子をよく聴いてて、ジャパニーズ・シューゲイズって海外のバンドにはないものがあるなと。なので、「日本の要素がちゃんと入ったシューゲイズを作る」っていうのを絶対的なコンセプトに掲げて、曲作り始めてメンバー探して……って感じですね。
──ビジョンは最初から明確だったんですね。
恵 そこだけは絶対に曲げずにやってきてます。どれだけ変態的なことをやっても、絶対に聴きやすいものであるようにしてますね。やろうと思えば音像を抽象化しまくって、ヴォーカルも何歌ってるかわかんないようにできる。そういうのも好きだけど、それはレジェンドたちとやってることが同じだから、作る意味がない。新しいものを生み出さなきゃいけない。じゃあ自分は日本人だし、日本人の強みを生かしたシューゲイズをやろうっていう。
──日本のシューゲイズって独特だし、その筆頭がやっぱりFor Tracy Hydeだったと思います。
神谷 私、音楽的な好みが特定のコード進行だったりでガチガチすぎるから、あんまり聴いてすぐハマることってないんですけど、当時めぐみんからもらったデモにとてつもなく好きな曲があって、「うわ、フォトハイじゃん!」って。誰よりも聴いてたんですよ。
恵 SoundCloudの再生回数のアナリティクスも1日に500回とか。笑 ユーザー名も出ちゃうから「あ!」って。
神谷 それが今の「citylights」ですね。
恵 当時は「demo16」でした。
神谷 それにマジで感銘を受けて、ずっと聴いてました。なので、それを「citylights」として形にできて満足だし、さらにアルバムで最強のリメイクができて、もう本当に最高だね。しかも私がBCLで初めて歌詞を書いた曲でもあって。めちゃくちゃ思い入れがある。
恵 そのデモで神谷が入ってくれることが決まって、バンドとしての活動を始められたっていうのもあるので。
神谷 仕事してる時間以外、なんなら寝てる間もずっと聴いてたんですよ。だから再生回数もヤバいことになったんですけど、それくらい好きでした。
──デモでそれくらい聴いてるのすごいですね。
神谷 キモかったな。笑 デモのヴォーカル部分に入ってるオルガンの音色、あれマジで大好き。めっちゃクセになる〜。
恵 ハモンド・オルガンの音色が入ってて。メロディーラインにあててたんですよね。
──ところで初ライブはいつですか?
神谷 2022年の7月?
恵 だね。Daytrip(名古屋・鶴舞)主催の「異空間旅行」っていうイベント(*1)でした。
*1:2022年7月10日 -DAYTRIP 24th ANNIVERSARY- 異空間旅行」 @鶴舞Daytrip https://x.com/bcl_band/status/1535607806014857216
神谷 Night Gloryともそこで出会ったよね。
恵 リハで打ちのめされて。懐かしいね〜。softsurfのベースのYutakaさんもその場所にいらっしゃって。softsurfはずっと聴いてたので、「softsurfの方ですか!?」って。なぜか土下座したよね。笑
──改めて初ライブを振り返って、どうでしたか?
恵 うーん、今とあまりにも違いすぎて……。
神谷 “趣味バンド”だったね。
恵 今の感性から考えちゃうとね。
神谷 とりあえず初めてライブできて良かった、っていう。
恵 メンバーが揃って、人前でライブができた、っていう喜び。でも次の日にはもう「やれることが楽しいだけじゃダメだ」っていうモードに切り替わったので。
──早いですね……!
恵 とにかく枠を揃えるまでが大変だったけど、もう始まったので。
神谷 この意識に感化されたのは大きかったですね。私は仕事大好き人間なので、社会人やりながらバンドできるなんて考えてなかったし、大学卒業したら音楽とは縁がないものだと思ってたんですよ。でも縁があってBCL入って、ライブまで出ちゃって、そしたら本気モードになってる人がいるから、「じゃあ着いていくか」っていう気持ちで……とか言ってたら、今度は逆に私が引っ張り出したね。手綱がこっちになった。笑
恵 追い抜かれた。笑 助けてもらってます。
──そこからSNS上だけですけど活動は追ってて、そしたらどんどんメンバーが抜けていって ……。
一同 笑
──かなり心配してたんですよ。笑 最終的には神谷さんと恵さんの2人になってて。やっぱり意識の差みたいなものが生まれてしまったんでしょうか?
恵 現状に対する価値観ですかね。年齢的に始めたのが遅いバンドだから、スピード感を持って活動していきたい気持ちがあったんですけど、他の3人はそれについて来れなかったというか。
──前に進んでいく上での決断。
恵 まあ、変なドラムを求めたりもするから。
神谷 大橋くんも苦労してるもんね。
恵 サポートに入ってくれた数々のドラマーの自信を打ち砕いてきた。笑
大橋(Dr.) 僕はまだ潰れてないです!
神谷 打ち砕かれてるの銀歯だけやもんな!笑 いや、上手上手。本当にありがとう。
大橋 明日、歯医者さん行きます。
■ ちょっと異様だった
──メンバーが抜けてもライブは精力的な印象でした。音源もどんどん出して。
神谷 音源はコンスタントに出すように意識してましたね。大御所バンドにありがちな“10年ぶりのアルバム”とか絶対やりたくない。1年音沙汰ないなんて絶対に嫌ですね。
──僕もずっとライブに行きたくて、でもニアミスし続けて。初めて会ったのって……?
恵 突然のTotal Feedback(*2)ですね。
*2:2023年9月24日、出演予定だったwoozがキャンセルとなり、急遽Blurred City Lightsの出演が決定。この日のTotal FeedbackはMoritaSaki in the poolの2nd EP『Ice box』のリリース・イベントで、筆者もDJとして出演していた。
神谷 そうじゃん! もっと昔から付き合いがあるみたいな感覚ですけど。笑
──まあ、こちらは始動当初から一方的に好意を寄せてまして。
神谷 いやいや!!笑 そんなこと言ったら私は大学時代からずっと知ってたんで!
──え、そうなんですか……?
神谷 17歳とベルリンの壁とかFor Tracy Hydeと出会った時に“シューゲイザー”っていう単語を知って、「きっと自分はこれが好きなんだ、じゃあ何から聴けばいいかな?」って思ってTwitterで調べたら、Sleep like a pillowが一番最初に出てきたんですよ。
──確かに前はプロフィール欄に「シューゲイザーのメディア」って書いてた気がする。
神谷 当時は大学の2〜3年、2020年とかそこらへんです。とにかく、一方的な好意はこっちからも寄せてましたよ。
──嬉しいです。そんなこんなで、音源もBandcampとCDで買ってるんですけど……CDは今日持ってきました。
神谷 わ〜〜〜〜! 『City』もある!
恵 やべー! うちにもないのに!
神谷 絶版です。大橋くん「nightflight」叩けないもんね。
──このCD、パッケージも含めて手に取りたくなりますよね。一応デモっていう位置付けで中身もCD-Rでしたけど、それ以上の価値があると思うし。何よりこのハンドメイド感。
神谷 ハンドメイドに対する愛、デカいです。前からフリマとか出てたので。まだ行けてないですけどデザフェスもめっちゃ行ってみたいですね。この折りたたんだパッケージの仕様は、puleflorの『timeless』の影響です。
恵 ビジュアル的にも神谷にしかできない仕事だね。
筆者所有
──話を戻して。メンバーが2人になって、そこからしばらくドラマーはサポートでしたよね。
恵 2人になった当時は、今は おとなりにぎんが計画 ってバンドのドラムをやってる清水紀花がサポートに入ってくれてました。BCLを始める前から縁があって、ドラムを頑張ってるのも聞いてたので、いろんな人に声をかけた最後の頼みの綱でOKしてくれて。
神谷 しみちゃんはFor Tracy Hydeと対バンしたとき(*3)に一緒にやってくれて。しかも2週間前にオファーしたよね。笑
*3:2023年2月16日 DREAMWAVES presents / For Tracy Hyde『Hotel Insomnia』Release Party @stiffslack
恵 しかもそのライブが初出演っていう。笑 シューゲイズは全然知らない子なんですよ。努力の子ですね。
神谷 そこから半年くらいやってもらってね。
恵 その後、おとなりがサマソニ出たりして、忙しくなったから離れて。
神谷 その繋ぎ目というか、しみちゃんの出演が安定しなくなってきた頃に大橋くんを見つけて。対バン相手で出会ったのが最初で、名古屋で活動してる学生バンドのサポートだったんですけど、「ドラム上手いな〜」と思って。それで目をつけてたら、巡り巡って縁があって頼むことになりました。そしたら1日目でばっちり決めてくるから「どういうこと!?」と思って。ちょっと異様だったよね。
恵 最初から完璧だった。やっと見つけたって感じ。欲しいものをちゃんとやってくれてる。
大橋 めっちゃ短い期間で準備しましたね。
神谷 そうだよね! やってもらおうと思ってた人が合わなくて「どうしよう?」ってなって、急ピッチでお願いしたら「本当に急?」みたいなクオリティで。しかも初対面で彼女との同棲話を聞かされ、色々すごいなって。笑 今までのサポート・ドラムも、みんな技術的には問題ない人だったと思うんですけど、うちに合わなかったっていう。変なフレーズ多いし。所詮ドラマーじゃないやつが考えたフレーズだから、癖が強かったりとかね。
──大橋くんはそこからサポート期間を経て正規メンバーとして入りましたが、加入のタイミングはずっと窺ってたんでしょうか?
神谷 これ、ちょっと恨みがあるんですよ。笑 入ったのいつだっけ?
恵 2024年の2月の終わりくらいかな。
神谷 今でも彼はスタジオ・ミュージシャンになりたいタイプなので、いろんなジャンルでいろんなサポート業をやってて、「彼の夢を潰しちゃいけない」「うちもサポートでやってくれてるだけありがたい」と思って、遠慮して声をかけてなかったんです。でも、去年のgreentunnelの企画(*4)のときに「正規でやんないんですか?」ってグリトンのみなさんに大橋くんが聞かれてたらしく、「その気がある」って答えたみたいで。笑
*4:2023年11月24日 greentunnel pre.「Light at the end of the tunnel」@新宿Nine Spices
恵 「なんでグリトンが先に聞くんだよ!?」って。笑
神谷 「聞いてないぞ!」って。笑 めっちゃ遠慮して声かけてなかったのに、「ちょっと正規いいかも?」みたいに思い始めてたっぽくて。サポート期間の3ヶ月、何だったんだ!笑
大橋 でも、迷ってたっていう。
恵 まあ、そうだよね。踏ん切りはなかなかつかないよね。
神谷 実際、今でもいろんなサポートをやり続けたまま、上京する夢とかも持った状態なんですよね。もしかしたらタイムリミットがある正規メンバーになるかもしれないけど……いや、大橋くんが東京行く前にうちらが突き抜けるしかない。
大橋 みんな揃って上京する!
神谷 それは勘弁してよ。笑 名古屋のみんなが泣いてまうで。週1で東京に通うとか……まあ、今でもそんな感じの生活か。あんまり悪くないね。そんな感じで、内部的には正規メンバーになりました。
大橋 ハヤカワさんのあの顔が忘れられない。
恵 彼はリハーサル・スタジオでバイトしてて、「正規で入ります」って話もそこでしたんですけど、店長さんがその時カウンターにいて、めっちゃこっちを見てて。
神谷 店長さん自身もBCLのライブに来てくれたことあって。「ハヤカワさん、僕、正規になりました」って言ったら「歴史的瞬間に立ち会ったね!」って。笑 嬉しかったね。
──いい話だ。
恵 ハヤカワさん、Dead By Inchesのベースのヨシダさんにめっちゃ似てます。
神谷 めっっちゃ似てます! 余談すぎる。誰得情報なんだ。笑
──ということで無事ラインナップが固まり、アルバムも出て。ようやくスタートラインですね。
恵 本当に。
神谷 心持ちが全然違うよね。世界が広がった感じ。俯瞰できるようになってきました。
恵 わかる、次元が上がったよね。
神谷 心の余裕がめっちゃデカい。名古屋のレコ発(*5)まではガチガチのスケジュールでやってて、その時点ではまだ垢抜けてない、俯瞰できてない状況で、なんとか絞り出したポテンシャルで、なんとかお客さんに見てもらえたっていう感じで。けど、名古屋っていう、シューゲイズの土地としてはアツいけどリスナーがあんまり集まらない場所で、Daytripをそこそこ埋められたっていう自信は大きいです。
*2024年3月2日 DREAMWAVES / Blurred City Lights『天使のいない街で』 Release Party @鶴舞Daytrip
恵 しかも70分セットやりましたからね。
──ほぼワンマンじゃないですか。笑
神谷 その経験もめっちゃデカいと思います。疲労感ヤバかった〜。あの長丁場やってから「30分短っ!」みたいな。45分も全然できると思いますね……あ、音入ります、すいません。(卵を割る)
■ 因果関係を探ることが人生
──BCLは当初からビジュアルの出し方がすごくいいなと思ってて。ロゴデザインも素敵だし、アートワークもイラストなのが面白いなと。インディーで活動してるバンドのデザインって、正直ダサいものが多いじゃないですか。サウンドはめっちゃいいのに、アートワークが良くなくて、損してるバンドってかなりいると思うんですよね。
神谷 めっっっっちゃわかる!!
恵 超わかる。
──そういう点でもBCLは信頼できると思ったし、パッと見で引きつける力が強いですよね。トータル・プロデュースが上手い印象は最初からありました。
神谷 嬉しや……! めっちゃこだわってます。まず「作ることが趣味」っていうのが大前提なんですけど、小さい頃から「どうやったら物が売れるのか」っていうことを考えるのがめちゃくちゃ好きで。営業、マネジメント、プロデュースみたいなことを、日々考えながら生きてきたんですよ。子供の頃、親とスーパーに行くときもそうで、子供からしたら親が買い物してる間って暇じゃないですか。だから「この商品はどうやったら売れるんだろう」とか、「あの人にこの商品をどう紹介したら刺さるんだろう」みたいに、物を買ってもらうことについて考えたりしてて。今も自分たちの状況を俯瞰して、「どの層に刺さるのか」「どういう売り方をするのがいいのか」っていうのをずーっと考えてます。その時間が本当に楽しいです。
──趣味がマーケティング、みたいな?
神谷 ですね。笑 高校が商業系だったので、商品開発とかデザインとかも部活でやってたんですよ。社会人になって最初の仕事が化粧品の販売だったんですけど、「このお客さんに、この商品を売るためには、どういう言葉を使ったらいいのか」っていうのを毎日考えてました。
──そもそもマーケティングに興味を持った最初のきっかけは何だったんですか?
神谷 え〜、なんだろう……?
──物心ついた時から考えてた?
神谷 はい!! 心理学も昔から好きで、今の感情に至るまでの経緯とかを考えるのがすごく好きなんですよね。相手の感情って、自分が似たような境遇になったことがあったら「あの人もきっとこう思ってるんだろうな」ってわかるじゃないですか。私、自分の感情がたくさんある人間なんですけど、小さいときからいろんな感情を人よりもたくさん経験して、相手の感情も察することができるようになってるんですよね。因果関係っていうものが私の全てで。物事が起こるには絶対原因があるじゃないですか。感情にもそれに至る理由がある。因果関係を探ることが、ものすごく面白いし楽しいです。
──なるほどね。
神谷 自分が好きな曲についても、「なぜこの曲が好きなのか」っていうのを考えるんです。それを極めていくと、特定のコード進行とか、特定のメロディーの進み方、特定のキーに辿り着く。そういうことをずっと考え続けた結果、シューゲイズに辿り着いたんですよ。好きなものを集め続けてたら「これってシューゲイズじゃね?」みたいな。因果関係を探ることが人生ですね。
──面白いですね。分解して辿り着いた先がシューゲイズだったと。
神谷 そこに至る経緯は全部「メンタルシューゲ」(6*)って呼んでるので。
──出た、メンタルシューゲ!
*6:シューゲイズとは謳われていないにも関わらず、実はシューゲイズ・サウンドが含まれている部分がある、またはなぜかシューゲイズを聴いている気分になる曲のこと。心がシューゲって言っているんだ! by 神谷
神谷 最近はメンタルシューゲをカバーすることでシューゲイズにしてます。因果関係を探っていくと全部解決できると思うんですよ。無から有は起こり得ない。あるとしたら、それは宇宙だけ。宇宙以外は、全て理由が伴うはずなんです。……っていうのを、めぐみんとずーっと喋ってます。
恵 それに影響を受けて、曲を分析的に聴くようになりましたね。めちゃくちゃ感化されてます。
──それを共有できてるのはバンドとしてすごく強いですよね。
神谷 めぐみんと過ごした時間が長いので。結成した2022年の2月に初めて会ったんですけど、そこからの密度は10年分くらいあるよね。
恵 ぎゅーーーーっとね。
神谷 仕事あるけど毎日朝5時まで電話したりとか。深夜2時に思い立って、ピアノで曲の分解とか始めたり。「マイナー・スケールは存在するのか否か」とか議論したり。
恵 それ、まだ解決できてないんですよね。
神谷 私はない派です。
恵 ある派なんですけど、まだ反論できずにいる。笑 解決したい命題の一つですね。
神谷 私の音楽には、マイナー・スケールは存在しない。特にJ-POPに限るんですけど、J-POPにはマイナースケールは存在しないです。クラシックのみに存在する。
恵 あるんだよなあ……って言いたいんですけど、ことごとく負けるんで。笑
神谷 って感じで、音楽を分解して楽しんでます。分解したパーツを集めて好きなものだけピックアップしたら、自分の好きな曲になるんですよね。雑多ものは絶対に入れたくないので、本当に厳選します。だから好きな曲の系統は決まってるんですよ。そして、自分の好きな曲の嫌いな部分を除いたものだけを構成すると、BCLになります。
──真の意味のいいとこどりですね。
神谷 なので自分の曲が好きです。自家発電。Apple MusicでBCLを一番再生してるのは私なので。笑
──それって一つの理想という気がしますね。僕は感覚的に音楽を聴くタイプで、音楽理論にも詳しいわけではないので、なんとなく好きなものを収集するって感じで。ミュージシャンとかじゃないなら大半はそうなのかもしれないですが……でも突き詰めると、意外とはっきりした共通点がありそうです。
神谷 私もまだ音楽理論はよくわかってないですね。統計を取るのも好きなんですけど、今まで自分がコピーしてきた曲の統計を取っていくと、「この音の次はこの音っていうパターン結構あるな」みたいな感じで理論が出来上がっていく。
恵 統計的に取られてきた感覚を体系づけたのが音楽理論、っていう側面があって。僕はとにかく理論派なので、それをまじまじと感じてますね。
──BCLは一時期2人になってしまったと思いますが、そこで濃い時間を過ごせたことで今に繋がってるんでしょうね。2人はそれぞれタイプが違うので、補完し合ってる感じもします。
神谷 多分、めぐみんと私は元々一つの生命体なんですよね。生まれた直後に分裂して違うルートを通って、また一つになったことでお互いの経験値を吸収してる。『NARUTO』で影分身側が得た経験値を影分身を解くことで自分に吸収できる、みたいなシーンがあったんですけど、それです! J-POP側を通ってきた私と、洋楽側を通ってきためぐみんが、一つになることで、世界を統一できる!
一同 笑
恵 実際、ライト層に刺さる曲も書くし、音楽オタクに刺さりやすい曲も書くから、全部を掻っ攫ってる感はある。
神谷 心強い変態ドラマーもいるし。ライブでもフルセットでドラム持ってきたりするし。
恵 名古屋のレコ発の時ね。バスドラから持ち込んでました。
大橋 しかも普通の人が使わないようなドラムで。
神谷 気持ち悪い2人にふさわしい、気持ち悪い人が入ってくれた。私とめぐみんの熱量についてこれる人は絶対いないと思ってたんですよ。これからもよろしくな!
■ 絶対に赤字でバンドを運営しない
──去年の11月には初の個展を開催してましたが、それに向けてクラウドファンディングもやってましたよね(*7)。個展は元々やりたいことの一つだったんでしょうか?
*7:2023年11月3日〜5日『光の街と、海の物語』@Balinese dance studio 結緋 yui https://camp-fire.jp/projects/701014/view
神谷 ですね。パッと閃いて、いつもアー写を撮ってくださる岡 大樹さん(EASTOKLAB)にオファーしました。締め切りを気にせず準備したいから、先の予定を決めるのは苦手なんですけど、「一緒にじっくりやっていこう」ってなって。
写真=岡 大樹(EASTOKLAB)
──自分は行けませんでしたが、写真やイラストを展示するっていう感じでしたよね。
神谷 私はアートワークだったりグッズだったり色々イラストを描いてるので、それらを全部展示したかったんですね。あと、岡さんの写真がうちとすごく相性がいいんですけど、アー写1枚のために100枚以上撮ってるのに、採用しなかったものを世に出さないのはもったいないと思って。なので、もっと多方面の芸術から私たちの感性を知ってもらうために企画しました。
──バンドが個展を開催するっていうのは初めて聞きました。面白い試みだと思ったし、それに向けてクラファンをやるというのも気合が入ってるなと。
神谷 そんなに資金が多いバンドじゃないですからね。でも、その上で「絶対に赤字でバンドを運営しない」っていうのがポリシーなんですよ。なので、商業的にもやっていけるようにクラファンをやりました。お金をいただくことで責任感も生まれるし。ありがたいことに達成できて、バンドの功績になって本当に良かったです。
──BCLの取り組みが面白い、って思ってくれた人も多かったのでは?
神谷 結構てんこ盛りに返礼品を準備したのも良かったんだと思います(*8)。BCLはSNSで知ってもらうことも多いんですけど、そういう方は遠方にお住まいで気軽にライブを観に行けなかったりするので、グッズを手に入れる貴重な機会だったんですよね。通販とかも普段ほとんどやってないので。
*8:まだ発送できていないリターンがあります(;;)大変申し訳ないです by Blurred City Lights 一同
──「赤字でやらない」っていうのはめっちゃわかります。赤字続きだと苦しくなっちゃうんですよね。黒字とまではいかなくても、せめてトントンになるように。
神谷 そうそうそう。赤字では長く音楽を続けられない。でもクラファンは「0円だったらどうしよう」っていう不安はめっちゃありました。普通に怖かったです。
──実際、未来に対してお金を出してくれるって、シンプルにすごいことですよね。
神谷 めちゃくちゃすごいです、本当に!
──個展はライブもセットになってましたよね。
神谷 アコースティック・ライブとセットでした。会場自体は個展をメインに考えて取ったので、ダンス・スタジオみたいな場所だったんですよ。時間も厳密に限られててブッキングも難しかったし、機材の貸し出しも最低限のマイク・セットみたいなものだけで。そこら辺の制約めっちゃきつかったよね。
恵 延長コードいっぱい持ってったもんね。
神谷 ライブハウスだったら考えなくていいことまで自分たちで考えて、いい勉強になりました。お客さんに座って観てもらえたのが良かったです。座布団敷いて、ビール片手に座ってもらいながら。楽しかったな〜。
──僕もBCLのライブ、正座して観たいです。
一同 笑
神谷 どこでできるんだろうね。
恵 フロアの真ん中でやりたいね。笑
神谷 音響むずそうだけど。笑
──ライブハウスだとついつい普通のライブをイメージしがちだけど、そういうちょっとはみ出した感じのライブも面白そう。
神谷 MoritaSaki in the poolがいろんな新しいことに挑戦してて、それにすごく刺激を受けてますね。『TINY SUMMER OF LOVE』っていうフェスとかも企画してるから。そのフェスを知る前に個展の計画はしてたんですけど、「やられたな〜」と思いました。友達だけどライバルでもあるので。バンドっていう枠組みを超えたいっていう気持ちもちょっとありますね。
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