Posted on: 2024年10月22日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

■『天使のいない街で』全曲解説

ここからは、アルバム『天使のいない街で』に収録された全曲についてさらに深掘りするべく、リファレンスとなった楽曲や背景などを交えながら話してもらった。

1. 流星の子守唄

神谷 リファレンスは青葉市子の「みなしごの雨」かな。あの子守唄感とコードの豊かさに影響を受けてます。ギターは私が弾いてるんですよ。ギターで曲を作るときと、キーボードで曲を作るとき、それぞれ手癖が全然違って、ギターで曲を作るとちょっとコードが豊かになるんですよね。BCLで作る曲にはあまりないコードばっかり出てきます。

 僕はベースを弾いてます。

神谷 歌詞については、あんなにホワホワしたサウンドなのに、願い事は叶わない。「自分の力でどうにかせいや!」っていう。〈笑って見届けたらおやすみ〉の〈笑って〉は苦笑いだからね。「甘えるんじゃないよ!」っていう気持ちで書いてます。

 サウンドはドリーミーにしておいて、歌詞は痛烈。そこがいいんだよね。

2. 蜃気楼

神谷 元々イントロのドラム、ツーバスだったよね。さすがにやめたけど。

大橋 「蜃気楼」のドラムを完成させるスタジオ、確か2〜3時間取ってたけど早く終わっちゃって、後半は神谷さんにドラム教えてた。

神谷 ドラム教室やってたね。それぐらいドラムはすぐできたんですよ。

──ちなみに僕はアルバムの中で「蜃気楼」が一番好きです。

神谷 わかります〜! ありがとうございます〜! 「蜃気楼」は歌詞がだいぶ難産だったんですよ。アルバムのレコーディング間際までできなくて、結局「蜃気楼」だけ別録りしたくらい悩んで。あの曲自体が今までのBCLになかった退廃的な感じ。今までは透き通って綺麗で壮大、みたいなのはあったかもしれないけど、ちょっとグレーっぽいというか……

 金属的というか、くすんでる?

神谷 私の中ではずっと四日市の工場地帯(三重県の四日市コンビナート)の風景が浮かぶんだよね。

──煙たい感じ?

神谷 そう。暑苦しい。そういう要素ってBCLにあんまりなかったんですね。だから「これってうちらの革命じゃね?」ってなって。元々は、めぐみんが持ってきたワンフレーズだったんですよ。

 ラスサビのコード進行だけギターのフレーズとして持ってて。BCLを始めて、複雑なコードとか重ね方とか色々実験してたんですけど、その時にできたのがラスサビのコード進行で。

神谷 それを聴いたとき、オルタナティヴ寄りというか、ヘヴィー・シューゲイズというか、そういう感じがして。同時期に作ってた「Orange」はもっと温かみがあって、太めの歪みで、羊文学を意識して売れることを目指してたんですね。だから「蜃気楼」のそのフレーズを聴いて「これじゃん!」って思ったんですよ。第一印象は、きのこ帝国の「国道スロープ」のギターの音が思い浮かんだ。あとは羊文学の「ドラマ」みたいな暗さとか。これは今までのBCLにないと思って、「絶対にアルバムの代表曲にしよう」って考えてたんです。なので、歌詞は“天使のいない街”を総称するようなものにしてます。

 歌詞はマジでギリギリまで考えてたね。

神谷 ずーっと書き殴ってて。本当に吐きそうだったな〜。「蜃気楼」を作った時って、「Orange」もそうなんですけど真夏だったんですよ。真夏の熱気がゆらゆら立ち込める中で、こっちを見て睨んでる白いワンピースの女の子が、私の頭にずっといて。書く歌詞に出てくる登場人物がどんどん若くなってきてるんですよね。学生だったり少年少女だったり、今まで私が人生の中であまり触れてこなかった時代の年齢層になってきて、それに向き合わないといけなくなったし、向き合った先には現実があるなって。今までは向き合ってないからこそファンタジーというか現実味のない歌詞だったんですけど、「私も向き合うからみんなも向き合えよ!」っていう。笑

 リファレンスとしては、羊文学の「うねり」ですね。

神谷 めっちゃ意識しました。拍子の感じとか結構似てて。個人的に「うねり」を聴いてた時も真夏で、本当に炎天下の暑い中だったっていう経験も大きいですね。

神谷 Bメロは羊文学の「天国」もちょっと持ってきてるんですよ。ずんちゃっちゃ〜ずんちゃっちゃ〜ってとこ。

 あそこでかけてるコーラスのエフェクター、塩塚モエカさんが使ってるのと同じやつです。

──マジですか!

神谷 羊のコピーしてた時に同じ機材ひたすら集めたので。

 でも、最初にラスサビのフレーズを作った段階では、COLLAPSEの「MEADOW」がリファレンスで。COLLAPSEから羊文学になった曲です。笑

──こうして話を聞くと、やっぱり羊文学の影響は相当強いですね。

神谷 私の大部分は羊文学で構成されてます。あとはmol-74、クレナズム、きのこ帝国、Aimer。私が書く歌詞の世界観はAimerが完全にルーツです。あと合唱曲。中学時代は合唱部にいたんですよ。その経験がなかったら「花束」は生まれなかったと思います。

──合唱曲か。僕は高校の時、合唱コンクールで「大地讃頌」を歌いましたね。

 最高。

神谷 今日、車で聴いてきましたよ。「大地讃頌」についてだいぶアツく語ってきました。

 好きすぎて原曲のオーケストラ版のCDを買おうとしてたくらいなんで。

神谷 私、混声合唱アンチなんですよ。

──混声合唱アンチ??

神谷 女性3部合唱しか許されないと思ってるんですけど、「大地讃頌」だけは完成されたフレーズだから、あれは混声でいい。

大橋 「蜃気楼」は僕の色々な音楽の要素も加わってますね。

 Bメロのリズムとかね。

大橋 あれはもうCRCK/LCKSとかの影響で。石若駿がめっちゃ好きなんです。

 羊とCOLLAPSEとCRCK/LCKS。はははは!

大橋 僕も吹奏楽部だったので、当時やってた交響曲とかの感じですね。もうちょっとライトにしてますけど。

神谷 あの急に陽転する感じが、ちょっと狂ったような感覚を出せるんですよね。ずっと暗いんじゃなくて、狂ったように明るい、狂気的な部分も出せてる。

3. 花束

 これはクレナズムの「花弁」ですね。「花弁」の切なさがどこから来てるのか、っていうのを理論的に分析した結果、どんなコードが下にいたとしても、ある2音だけ鳴り続けていれば切なくなる、っていう結論になって。

神谷 あとはmol-74の「フローイング」と、クレナズムの「月のようで」かな。「彗星」もほとんどそうなんですけど、シンバルのタタタタタタ!っていう動きはそこから来てます。これ、結構BCLのドラムの特徴だよね。上の方のキラキラがシンバルで出せるので、ギターが出せない音域を埋めてくれるんです。スリーピース独特の間の埋め方。

 ドラマー殺しのフレーズ。

大橋 「やったことないの出てきた!」って思いました。

神谷・恵 笑

 mol-74とクレナズム以外やってるバンド知らないもん。あとSigur Rósくらい?

神谷 そうなんだよね。あと羊の「1999」も実は入ってて。あの曲のコーラス・ワークがめちゃくちゃ好きで、「花束」の後半のコーラス・パートは「1999」をリファレンスにしてます。

4. 夢際

 カナダのZoonっていうバンドの「Dodem」が一番デカいです。あとCOLLAPSEの「TOKYO」。強く影響されたのはその2曲ですね。Zoonは曲名もバンド名も忘れてて、サウンドだけ頭に残ってたんですけど、対バン(*10)することになったので予習のために聴いてみたら「知ってる曲!」ってなって、再会を果たすっていう。

*10:2023年8月3日 MOORWORKS presents / ZOON Japan Tour 2023 @KDハポン

神谷 Zoonの出番の前に「夢際」やりました。笑

 あと、softsurfの「Blue Swirl」のサビも影響受けてます。でも元々「夢際」はデモではどぎついコード進行だったやん?

神谷 そうだった〜。

 それも神谷理論で解体して組み直して、今の形になりました。

神谷 確かちょっとキレたもんね。

 「せっかくこんなにいいのにさ!」って。一応肯定はしてくれてるっていう。笑

5. Orange

神谷 リファレンスは羊文学の「ソーダ水」ですね。他にもいろんな羊要素があって、「Step」とか「1999」を全部ぎゅっとまとめてます。

 これはフレーズの引用あるよね? ラスサビとか。

神谷 めっちゃある!笑

 羊のコピーから始まった曲だね。笑

神谷 私がギター弾ける曲って、羊文学しかないんですよ。なのにギターで曲作ろうとしたら、そりゃ羊になるよ。

大橋 最後のドラムのフレーズも「ソーダ水」の引用ですね。

神谷 これはもうバレたくてやってますね。「気づけ!」みたいな。「いや羊やん!」って爆笑されたい。

──最初のジャーン!ってギターの音から「羊?」ってなりそうですけどね。

 あのひずみ、いつもBCLで使ってるエフェクターと違うからね。

神谷 最初はすごい嫌がられました。今まではずっと青とか、グレーっぽいツーンとしたひずみを使ってたんですけど、「あったけえの使え!」って言いながらやってました。

──そもそもタイトルが「Orange」だし、僕は「『オレンジチョコレートハウスまでの道のり』やん?」ってなりましたね。

神谷 いやそうなんですよ! 初期の羊文学の、あの温度感を出したかったんですよね。

6. 帰路

神谷 当初は私のソロの曲でした。バンド・サウンドに落とし込んだ時は、澤野弘之の「A LETTER」っていう、『ガンダムUC』の曲をリファレンスにしてます。ピアノの入り方とかアルペジオの感じとかはめっちゃ『ガンダムUC』です。

 聴かされました。

神谷 え、オタク度強くないか心配してますけど大丈夫ですか?!

──大丈夫ですよ! というか超今更ですね。笑

神谷 多分みんなが想像するより変なリファレンスいっぱいあります。

──よくワルキューレ(*11)の話とかしてますもんね。

神谷・恵 爆笑

*11:アニメ『マクロスΔ』に登場する女性5人組の音楽ユニット。担当声優・歌手5人によるユニットとして楽曲のリリースやライブ活動も展開された。

神谷 ワルキューレは色々リファレンスあるぞ〜!

──『マクロスΔ』は途中までしか観てないんですけど、ワルキューレは一時期めっちゃ聴いてました。

神谷 『マクロスF』と『マクロスΔ』の存在はめっちゃデカいです。私が歌えるようになったのはあの2つのおかげなんです。……あ、「花束」の歌詞の元ネタは「真空のダイアモンド クレバス」ですよ!

 そうじゃん!

神谷 「花束」の〈愛 対 i くらい〉の文字の並びとか、実はそうです。あとアニメで「真空のダイアモンドクレバス」が流れる瞬間って、推しが◯◯◯(※ネタバレのため自主規制)ですよ。なので「花束」にその悲しみを全部ぶつけましたね。あ〜、オタクだったんだ私!

7. 回葬

神谷 めぐみんがデモを持ってきた瞬間、ギター1本で出す量感と音量じゃなくて笑ったんですよ。「嘘でしょ?」って。

 あんまり人に刺せてる自覚はなくて。どう考えても「彗星」の方がいいだろ、って思っちゃうんですよね。

──キャッチーさで言ったらそうかもしれないですけど。

神谷 いや、どっちもいいよ。どっちがいいとは言わない。お互いにないものを持ってるから、凸凹がピタッと当てはまってる感じがする。

 「彗星」と「回葬」は、ある意味その違いが一番出てるかもね。

──それまでは、もうちょっと明るい曲を歌うバンドっていう印象だったんですけど、「回葬」を聴いて「こういう翳りのある曲の引き出しもあるんだ」と思って少し驚きました。

神谷 本腰入れたね。

 puleflorを聴いたのがデカいですね。『timeless』に入ってる「溺れる」が同じキーなんですよ。あと、死んだ僕の彼女の「吐く息」と、MoritaSaki in the poolの「She set under the bridge」かな。「She set under the bridge」の不協和音的にぶつかるリフにはガチで影響を受けました。リクさんにいつ怒られるかと思いながら……。

神谷 意外とバレないね!

──このインタビューで明るみに出ました。

一同 笑

神谷 ディレイの使い方はSlowdiveじゃない?

 そうだ! Slowdiveとかがよくやる、ディレイで量感を出すっていうのも参考にしました。具体的に何の曲かわかんないけど、Slowdiveの何かですね。

神谷 あのディレイで急にバンド・サウンドの量感が増えたので、革命でしたね。

 あと、グレーな色合いを持った曲を作りたかった。死んだ僕の「吐く息」の暴力的な「ブァーーーー!!」みたいなひずみ……だんだん音が近づいてきて視界が暗くなっていく感じ。そういう長い時間をかけて爆発するような曲を作りたかった、っていうのが「回葬」の着想の元ですね。真ん中のコーラス・パートは元々のデモにはなくて、「あったほうがいい!」ってなって増えたりとか。結果的にめっちゃ良かった。

神谷 どんどん長くなって6分超になっちゃった。

8. saisei no hoshi

──こうやってインストも入ってくることで、アルバムの流れに緩急が生まれますよね。

 (アルバムを通して)いろんな音楽性が混じってるからね。

神谷 ピアノとか入りだすと急にテイストが変わっちゃうんで、難しかったですね。単に間を埋めるインストじゃなくて、物語の一手を担うものなので。

──いろんな時間帯にいろんな聴き方をしてほしいですね。聴く時間とかタイミングによって刺さり方は違うだろうし。

神谷 全員に刺さるとは思ってないんですけど、バチッとハマって感情に刺さる、そういう瞬間がある人は絶対いると思います。

──ピアノの音色もすごく綺麗で。

神谷 ありがとうございます〜! 嬉しい!

──アルバムにもめっちゃハマってるなと。バンド自体はシューゲイズって謳ってるけど、ピアノが入ってることでちょっと意外性に繋がったりもしてて。ポスト・ロックっぽいアプローチになってますよね。

神谷 「saisei no hoshi」は作りながら「ウェーイ!」ってなってました。笑

──ちなみにシングルの中では『再生の惑星』が一番好きですね。あれは3曲で1枚として完成されてる。

神谷 寄せ合わせじゃないよね。「3曲でこの世界」みたいな。

──だから『nelll you』(Vol.4)のベストにも選びました。アートワーク含め、完璧だと思います。

神谷・恵 ありがとうございます!

──「saisei no hoshi」のリファレンスは、さっきライブでもカバーしてた「桜流し」だったんですね。「言われてみれば確かに!」と思いました。

神谷 めちゃくちゃ感じますよね。前後の曲の繋がりを意識して、前半のパートは「回葬」のコード進行とキー、後半は「彗星」のサビのキーにしてるんですけど、「彗星」のキーが「桜流し」と一緒なんですよね。

9. 彗星

神谷 まず羊文学の「風になれ」と「OOPARTS」、あとmol-74の「フローイング」と、クレナズムの「月のようで」が元ネタですね。

 それと、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「ムスタング」。2番のAメロは「ムスタング」みたいな感じに、って言ってたよね。

神谷 言ってた! 私アジカン全然聴いてないんですけど、「ムスタング」はめっちゃ好きで。忘れてたくらいのレベルなんですけど、若干「ムスタング」いますね。ちなみにアジカンは「転がる岩、君に朝が降る」も超好きです。

10. 夜明け

神谷 元々は私が大学のとき、6年前に作った曲なんですよ。mol-74との出会いが私の作曲人生の始まりだったので、「エイプリル」とか「▷ (Saisei)」あたりのモルカルと出会った原点の曲の影響が強いです。Aimerの要素も結構ありますね。

 そこにSlowdiveとかSigur Rósの要素のギターを乗せてるっていう。

神谷 本当に大事な曲ですね。

 BCLで一番古い曲でもあるよね。歴史をたどると。

──アルバムの中では「夜明け」が最長ですね。

神谷 元々イントロはもっと短かったんですけど、ライブの手癖みたいなのを「入れちゃえ!」ってやってたら、2分くらい長くなった。笑

 間が大事だからね。原曲はもっとアコースティック・ポップだった。

神谷 もっと跳ねてたんですよ。サカナクションに似てる曲があるって言われたことがあって。

 「ネイティブダンサー」的な跳ね感があったね。それがアンビエント・シューゲイズに。笑

神谷 なぜか化けちゃった。

 これはメンバーが5人から3人になって、当時の正規ドラムがいた頃の3人で最初に作った曲だったかな。確か3人でDREAMWAVESに出るってなって……

神谷 めっちゃ急ピッチでアレンジして。だんだん(ライブで)進化してきました。「夜明け」ができたおかげで、圧倒的な差別化が図れたと思ってます。他のシューゲイズ・バンドでピアノ、ギター、ドラムの編成って全然見たことない。

──確かにないですよね。

神谷 そもそもベースレスって結構キツいんですけど、それを実現できたのが大きいかな。ピアノがあるおかげですごくキャッチーになるんですよ。キャッチーになるのに、そこにはアンビエントなサウンドしか乗らないので、両極を掴んでいけるんですよね。全然シューゲイズを聴かない人も、アンビエント要素大好きマシマシオタクもギュッとできる。

 ライト層とアングラ層をね。

神谷 それに気づいたので、この路線は絶対大事にします。

11. 始発列車

神谷 これはavengers in sci-fiのコピーをしたときに「天才だ!」と思って、ギター・リフを学んだって感じですね。上に乗っかってるピアノは次の「citylights」のイントロなので、繋がるようにしてます。

12. citylights

 キーが違うだけでAirielの「Cloudburst」とメロディーがほぼ一緒です。笑 BCLを組もうと動き始めた当時、Airialがめっちゃ好きで聴いてて。あとボカロなんですけど、1640mPの「タイムマシン」もめっちゃ根底にありますね。

神谷 まだボカロ特有のキラキラがめぐみんにあった頃の曲。笑

 あの頃は“キラキラしたドリームポップ/シューゲイズ”くらいのコンセプトしかなかったからね。Slowdiveのツヤ感とか、Airialのきらめきとか、当時はそういうのをやりたかった。

神谷 あと、うるさいドラムね。

 そう。あのドラムはシューゲイズっぽくないシューゲイズを作りたくて、「一番シューゲイズがやらないビートって何だろう?」って考えたときに出てきたビートです。Airialのドラムがバカスカ動くタイプなので、そこからの影響が特に大きいです。上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクトのサイモン・フィリップスの映像を観てたりしてて、「動きまくるドラム」としてそこからの影響もちょっとあります。

神谷 今挙げてきたリファレンスって、ドラムのフレーズとかの要素にはなってるんですけど、メロディーはもう神谷の根底にある源泉みたいな感じで湧いてくるので、それは自分でもまだ解明できてないです。

──まだまだ湧き出てきそうですね。

神谷 湧き出ます。今まで生きてきて吸収してきたものが全部詰め込まれた泉。好みのメロディーはある程度わかってきたんですけど、まだまだいっぱいあると思う。

■ キャッチーを極めます

──最後に、ありがちな質問ですが、今後の展望を聞かせてください。

神谷 まず目標は、締め切りに追われずに楽曲制作する。あと心を健康に!

大橋 自律神経を整える。

神谷 それは第一前提として、私が個人的に考えてる展望は、実験。どこまでキャッチーとシューゲイズの掛け合わせが通用するのか──ライト層の人たちがどこまで轟音に着いてこれるのか探ろうと思います。

 いいね!

神谷 後は、今回コンセプチュアルなアルバムを作ったんですけど、それをさらに拡大していこうと思ってて。ストーリー性をもっと持たせようと思ってます。

──それはアルバムで完結するような?

神谷 1曲ですね。ちょいネタバレすると……

 話したくてしょうがないんですよ。笑

神谷 カーナビに、ある地名が映ったんです。高速道路のいろんなインターチェンジとか、パーキングとか、ジャンクションとか、走っているとだんだん映されていくじゃないですか。で、最終地点のインターチェンジの地名が映った瞬間、その文字で頭ん中にずらーっとストーリーが並んだんですね。毛細血管が沸き立つような感覚で、「うわ、きた!!」と思って。「これは絶対曲にしてやろう」と。そういう一瞬のひらめきによるストーリーを、もっと生活の中で見つけていこうと思います。

 僕は非常にパーソナルな目標ですけど、作曲をする。去年「回葬」を書いたっきり、全く書けなくなっちゃって。だからアレンジくらいでしかバンドに貢献できてないんですよね。こっちから曲を作って投げることができてないので、頑張りたいです。

──スランプみたいな感じなんですかね?

 どうなんでしょうね。完成まで持ってけないというか、1フレーズだけとか、4小節だけとかで終わっちゃうんですよね。「こういう曲を作りたい」っていうのも浮かばなくなっちゃって。ただフレーズを弾いて、ちょっといいな〜で終わる。どうにも靄がかかった状態なので、それを晴らして、また「回葬」みたいな爆弾を投げたいですね。

神谷 多分、彼の中の要素にもまだ分解できていないものが絶対あるので、自分の作りたい曲の根源を見つけられてない状況なんだよね。時間がなくてできてないけど、彼の要素もベリベリ剥がしていこうかなと。

 剥がされてく。笑

大橋 僕はシューゲイズを学ぶ。もっと幅を広くしたくて。引き出しをさらに増やして、とてつもない曲を作りたいですね。

神谷・恵 ははは!!

大橋 「絶対思い浮かばないだろ!」みたいなやつとか。

神谷 一貫したバンドとしての目標は、リスナー全層を取りこぼさない。

 ライト層からアングラ層まで。

神谷 「上から下まで全部聴かせる曲を作る」っていうのは私たちの活動目標です。

 そこは揺るがないですね。繰り返しになるけど、やっぱり「回葬」とか「sumire」が刺さるのって、いわゆるオタクの人々なので。「彗星」とか「花束」で、あんまりシューゲイズを聴かない層も掴める。

神谷 全層キャッチするってなったときに、バリエーションが必要だと思って、意識的に明るい曲も暗い曲も書くようにしてるんですよ。放っておくと暗い曲書いちゃうので。暗いっていうか、しっとりしたバラードみたいなのばっかり作っちゃう癖があるんですよね。なので、「彗星」と「Orange」を意識的に作ったっていう。あと、ライト層とアングラ層の中域──混じり合ってる中間も気持ちいいので、中域をすごく大事にしつつ、レンジを広くしていきたい。

──これはすごいことになりますよ。

神谷 本当に実現できたらすごいですよね。「キャッチーなものはシューゲイズじゃない」って言ってるオタクにも絶対シューゲイズだと認めさせてやろうって。

──反論の余地もないようなものを。

神谷 ライブで「彗星」やるときは「行くよっ!」って掛け声を入れてるんですけど、それはメロコアのバンドに負けたくなくて。

──メロコアと対抗してるんですか。笑

神谷 「別にパワーコードじゃなくてもコールアンドレスポンスできるし!」みたいな。「シューゲイズだって拳上げれるし!」っていう反骨精神ですね。あと一つ言えるとしたら、私はキャッチーなものがすごく好きなんですけど、それって「売れてるものが好き」ってことにもなってくるので、そこをもっと極めていきたい。キャッチーを極めます。BCLのテーマですね。

 BCLの到達点はそこだね。最終目標。

──このインタビューを通して、シューゲイズの未来はBCLに任せられると思いました。やっぱり今の日本のシューゲイズって、For Tracy Hydeが解散して、ある種の空白の時代だと思ってるんですよ。今フォトハイくらいの規模のシューゲイズ・バンドって、なかなかいないと思うので。

神谷 「待っとれよ!」と思いますね。あくまでシューゲイズにこだわっていきます。シューゲイズっていうものが嫌なものと捉えられないようにしたい。ちょっとネタ的に扱うみたいな、そういう風潮があると思うんですよね。でも、ただのジャンルの名前なので。自分の名前を誇らしげに言えないのってめっちゃつらいじゃないですか。どうしてオルタナティヴが良くてシューゲイズがダメなのか。ただの名称にいちゃもんつけるなって話で。中身が大事!

◯ 2024年3月31日 高円寺某所にて

■ Release

Blurred City Lights – 天使のいない街で

□ レーベル:Self Released
□ 仕様:Digital / CD
□ リリース:2024/02/17 *Digital・2042/03/02 *CD

□ トラックリスト:
1. 流星の子守唄
2. 蜃気楼
3. 花束
4. 夢際
5. Orange
6. 帰路
7. 回葬
8. saisei no hoshi
9. 彗星
10. 夜明け
11. 始発列車
12. citylights

*配信リンク:
https://linkco.re/CAnTsvbR

■ Event

Blurred City Lights
1st one man live『DAWN』

2024/11/04 (mon)
@名古屋stiffslack
open / start 18:00 / 18:30

[ticket]
adv / door:¥2,900 / ¥3,400 (+1 drink)
学割 ¥0 +2D *要学生証提示

*予約フォーム:
https://sites.google.com/view/blurredcitylights/contact

■ Profile

Blurred City Lights(ブラード・シティ・ライツ)

神谷なな星(Vo. Ba. Key.)
恵(Gt.)
大橋(Dr.)

名古屋を拠点に活動するシューゲイズ・バンド。2022年、名古屋にて始動。影響源はシューゲイズ、ドリームポップ、オルタナティヴ・ロック、J-POPなど。これまで『City』『Flower』『再生の惑星』『Orange』と4枚のデモ・シングルをハンドメイド仕様にてリリース。2024年、満を持して1stフルアルバム『天使のいない街で』をリリース。アートワークのイラストは神谷が自ら手掛けている。

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