Posted on: 2024年12月30日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

激動の時代も、長く続けばそれなりに適応してしまう。人間は便利な生き物だ。そして当たり前が当たり前ではなかった頃をふと思い出してハッとさせられる、愚かな存在でもある。SPOOLの3rdアルバム『(image for) drawing on canvas』には、やがて上書きされては消えていく人生の機微が、幾重にも刻まれている。あなたはそこにどんな色を見て、何を感じ取るだろうか。

本稿は『(image for) drawing on canvas』について、リリース直前の2022年10月にフロントマンのこばやしあゆみ(Vo. Gt.)にインタビューしたものである。SPOOLは2023年5月にドラムのaranがバンドを卒業し、現在はメンバー3人にサポート・ドラムを迎えた編成で活動を続けているが、2024年にはこれまで以上にポジティヴなマインドも感じられるバラエティ豊かなシングル3曲をリリースするなど、バンドは新たなフェーズへ進みつつある。2025年3月には下北沢SHELTERでワンマンライブの開催も決定した。

こうした精力的な活動や新境地的なシングル群には、『(image for) drawing on canvas』の季節を経たSPOOLだからこその深み、説得力が感じられる。そういった意味でも、このタイミングで本作を振り返る意義は大きいはずだ。

インタビュー/文/編集/写真=對馬拓

* * *

■ イメージ通りの自分を裏切りたかった

──前作『cyan / amber』が2020年12月のリリースなので、約2年ぶりのアルバムになりました。曲のレコーディングは断続的に進めていたと思いますが、アルバムの制作はどのように進みましたか?

元々『cyan / amber』を作り終えた段階で、次のアルバムを作ろうとは考えてて。アルバムのための曲を書き溜めて、その都度レコーディングして、って感じで進めてましたね。こんな情勢(*1)でライブも難しい状況だったので、この2年間はとにかく曲を書いて録って……っていうことを繰り返してました。

*1:当時はまだ新型コロナが5類移行前だった。

──明確なビジョンがあって曲を積み上げていったのでしょうか。それとも色々なアイデアがある中で、それらをただ形にしていって最終的にアルバムになったのでしょうか。

どちらかといえば後者。日々生きていく中で、自分だけではなくメンバーの感性とか、この作品に携わってくれた人とか、友達とかもそうだけど、そういう人たちと関わることでアイデアも色々出てきて、じゃあ次はこんなものを作ってみようか、って思ったり。日々、音楽を聴いたり映画を観たりして感じたことを記録する、っていう感覚に近いのかな。備忘録というか。

──日記をつけるような感覚に近いんですかね。

ちょっと近いかも。その時の自分の気持ちって、どうしても上書きされて忘れちゃうから。

──今作を聴いて、アルバムを重ねるごとにあゆみさんのパーソナルな部分にどんどん近づいてきた感じがしたんですよね。サウンド的にも削ぎ落とされてるし、どんどん素に近くなってる。“SPOOL”というバンドなんだけど、“こばやしあゆみ”っていう人間の核に迫ってるのかなと。

そうかもしれないです。やっぱり人間って、人前では自分をよく見せたい、美しくありたいって思うじゃないですか。私も昔は素の自分を見せるのが恥ずかしかったから、1stアルバム(『SPOOL』)を出した時も、“汚い部分をリヴァーブで包む”みたいな気持ちがちょっとあった。でも今作は変に着飾らずに、“ありのままの姿をさらけ出す”っていう側面が、より強まったと思います。生々しさがありますよね。人間味がすごい。

──興味深い変化ですね。サウンド的にも、今作は全体的にUSオルタナやグランジっぽいですよね。先行配信された表題曲はシューゲイズっぽいかなと思ったんですけど。

「(image for) drawing on canvas」は、これまでのSPOOLを保ちつつ、より進化した感じですね。今までとは違う部分を見せられた。今作は意外な曲が多いと思います。私自身も「こんな曲書けるんだ」ってちょっとびっくりしてます。

──冒頭がいきなりインスト曲で不意を突かれたし、M2「In My Blood」の歌詞も〈ああ、時間がないぜ〉とか、〈つーかもう終わってるかもしんねぇ〉みたいなフレーズが出てきて、そこにも驚きがあって。

今までだったら書かないタイプの歌詞ですね。ラストの「nevv song」もそうです。自分でも出来上がってから「こんな自分もいたんだ」って、新しい発見もあって。

──冒頭2曲にそういうテイストの曲を持ってきたのは、やっぱり「新しいSPOOLを見せたい」という意識が強かったんでしょうか。

そういう意識はありましたね。イメージ通りの自分を裏切りたかったし、聴いてくれる人にも「あれ?」って思われたかった。

──そもそも「さめない」と「She’s like a bluemoon」がシングルとしてリリースされた時点(2021年)で、明らかに今までとは違う“何か”を感じていました。

実は、結構そこで匂わせてますね。笑

──ちなみに僕はM5「light of the sun」がすごく好きです。会心の曲という感じがしました。M4「(image for) drawing on canvas」の長いアウトロを断ち切るように始まるのもかっこよくて。

私も好きですね。「light of the sun」のイントロは、いきなりバチッと入ってくる感じが自分でも気に入ってます。ギターも音を重ねて幻想的な感じになってて。自分のやりたいことが詰まってる1曲ですね。

──そういう話を聞くと、シューゲイズ的なアプローチも随所に残ってるんですね。

特に「light of the sun」は一番シューゲイズっぽいんじゃないかな。

──そこからのM6「さめない」の流れも良かったです。

アルバムの真ん中の辺りの流れは私もかなり気に入ってます。自分でもそこばっかり聴いちゃう。

──ちなみに先日(2022年10月15日)、久々に大阪でライブをやったと思うんですけど、新曲も演奏したんですよね。お客さんの反応とか実際のライブの感触はどうでしたか?

新曲は2つ演奏しました。1曲目から「(image for) drawing on canvas」で早速勝負して、最後に「nevv song」をやりましたね。どっちもライブでやりたい曲だったので。お客さんがいる前でライブをしたのが2年半ぶりで、どうなっちゃうんだろうと思ってたけど、案外気持ちよくできて。新しい曲を聴いてもらったのが素直に嬉しかったし、ちょっと泣きそうになりながら歌いましたね。緊張して弾けなかった部分もあるけど、そういうのを超えて、人前で久々にできたのが嬉しくて、やっぱりライブっていいなと思いました。やれることはできたかな。感触としても、結構届いてるかも?って思えました。

──そう思えたのはすごく大事ですよね。

届いてるって思えて、とにかく嬉しかったです。みんな意外と待っててくれたんだなって。純粋にライブをする喜びがありました。

■ 最終的に出した答えが“歌”

──誤解を恐れずに言うと……個人的に、今作は「死んでしまった人のアルバムを聴いてるみたいだな」と思う瞬間があったんですよ。もしくは解散前のラスト・アルバムとか、そういう雰囲気が出てる気がして。そして、実はその感覚はあながち間違いでもないのかなと。セルフライナーノーツ(ZINE『nelll you Vol.2』掲載)の「さめない」の部分でも書いていたように、あゆみさん自身がつらい時期を経験して、あゆみさんの中で何かが1回終わって。それにコロナ禍もあって、みんな大変な時代を経験してるからこそ、なおさらそう感じ取ったのかなと。言い方が適切か分かりませんが。

終わった感じはするよね。一度終わって、白紙の状態でまた歩いてる感じ。実際、そういう危機は一度あって。「さめない」は、もうバンドを終わりにして、1人でやろうって思って書いた曲だったんです。でも「さめない」の歌詞って、結局バンドをやることを諦められないみたいな部分が出ちゃってるから、最終的には「バンドでやるしかないんだ」って思えて。そういう意味では一回死んでる。“死と再生”というか、生まれ変わってまたスタートする曲、みたいな感じなんですよ。

──アルバムの中ではかなりキーになってくる曲ですね。

そうですね。核になってる。

──当時、久々に出た音源でもあったし。それを踏まえると、〈ただ生きて(歌おう)〉とか、〈意味なんか なくてもいい〉といったフレーズも腑に落ちます。サウンド的にも『OK Computer』感というか、そういうちょっと終わりっぽい雰囲気を感じますね。

やっぱりRadiohedは自分にとって、切っても切り離せないバンドなんですよね。

──だから、そういった自身のルーツとなる部分がこうした自己内省的な曲に現れてるのが、すごく象徴的な気がします。

この曲に関しては特にパーソナルだよね。ジャンルとかそういうものも超えてる感じがする。サウンド云々っていうか、もう“自分”でしかない。

──「さめない」の〈歌おう〉という歌詞とも関係してきますが、他の曲にも“歌”に関するフレーズが多く出てきます。例えばM11「nevv song」の〈歌うことしかできない〉とか、M3「ハロー・マイ・ロンリー」の〈誰も聴いちゃいない歌をうたう〉とか、M9「She’s like a bluemoon」の〈言葉にすればするほど拙いから 歌うことにした〉とか。今作は“歌”もキーになるのかなと思うのですがどうでしょうか。

ずっとヴォーカルのレッスンを受けてまして。昔に比べて、自分の中で歌に対する気持ちがすごく上がってきてるんですよね。より大切に歌おうと思えたから、“歌”って言葉が勝手に歌詞に出てきたんだと思います。

──無意識だったんですね。レッスンを通して、歌に対する重要度が変わったと。

日々レッスンで歌ってきたことで、歌に対しての考え方が変わりつつあって。それで無意識のうちに入ったんじゃないかな。感覚的に歌詞を書くタイプなので、出来上がってから「こんなこと思ってたんだ」って思うことが多くて。

──それに、〈歌うことしかできない〉という「nevv song」の歌詞に象徴されているように、ある種の境地にもたどり着いてる気がして。

最終的に出した答えが“歌”だったんだなって。そのことに作っていく中で気づけた感じはします。楽しかったんですよね。まあ、レコーディングはきつかったですけど。笑 でもそれを含めて「歌うことがこんなに楽しいんだ」って思えたアルバム。歌が大好きになりました。なんでも歌で表現できると思えたし、最終的に「音楽って歌なのかな」って。

──サウンドが削ぎ落とされたのも、そのことと関係してるんじゃないですかね。結果的に、前作以上に歌が前面に出てきてる。アコースティック調の「ハミング・バード」はその極致というか。

「ハミング・バード」はMr.Childrenの「ラララ」みたいな、ちょっと箸休め的な曲にしたくて。アルバムって長いから、まったりしたい瞬間もあるじゃないですか。ずっと目の前に来られちゃうと「もういいです」ってなるから、気楽に聴いてほしいという感覚で作りました。

■ 自分の美学に反さなければ

──ところで、M10「P-90」は何の数字ですか?

私が使ってるギターのピックアップのことで。MOONのレゲエマスターというギターなんですけど、syrup16gの五十嵐(隆)さんも『HELL-SEE』の時とかに使ってて。やっぱり五十嵐さんのギターの音が好きで、「このギターの音出したいな」と思って買ったんですよ。

──確かに“五十嵐隆=レゲエマスター”というイメージはありますね。この曲でそのピックアップを使ってるってことですか?

今回のアルバム、全部の曲で使ってます。

──なるほどそうでしたか。実際に使ってみて、理想には近づけましたか?

これが探し求めてた音だと感じました。何がどういいのか上手く言えないんですけど、自分が好きなアーティストが弾いてるギターで自分の曲を演奏するっていうのは最高ですね。

──それこそ「(image for) drawing on canvas」のイントロなんかはsyrup16gっぽさもありますね。アルバム全体のトーンも、どことなく『Mouth to Mouse』みたいな感じがしました。

でも、実は「P-90」のギターに関しては、すみちゃん(ショウジスミカ/Gt.)だけが弾いてて。2本じゃなくてシンプルに1本のギターで、私がピン・ヴォーカルで、みたいな映像が浮かぶ曲を1回やってみたいと思って、私はあえて弾いてなくて。だから、すみちゃんにはP-90のピックアップがついてるギターをわざわざ弾いてもらってます。「家にあるよ」っていうからそれを持ってきてもらって。

──確かに言われてみるとノリが軽いというか、パンクとかガレージ・ロックっぽい感じがしますね。

ラストの「nevv song」が割と長いから、その前に一旦、音が軽めの曲を挟んで。これも意外な感じの曲かな。自分の美学に反さなければ、やってみたいこととか、興味があることをとりあえず一回やってみよう、っていう感じだったんですよね。

──ある種、今作は実験的な作品という側面もありますね。

そういう部分もありますね。冒頭のインストもそうだし、自分がギターを弾かない選択とか、ちょっと違うタイプの歌詞を書いてみるとか、「今までとは違うことを進んでやってみよう」っていうマインドで作ったので。

──そして、結果的に「こんなにできるんだ」っていう発見を得たというか、SPOOLのバンドとしての表現のレンジが広がったのかなと。でも、とっちらかることもなく一貫した芯があるんですよね。それも不思議というか。その中でも「somewhere」は少し異色な感じがして。歌詞も〈let’s go now!〉と明るめだったり、いい意味で浮いてるんですよ。

確かに浮いてるかも。これ、歌のレコーディングの時に岩田さん(=Triple Time Studioの岩田純也/今作のレコーディング・エンジニア)に「もっと楽しく歌って」「明るい曲なのになんでそんなに暗い歌い方なの」って言われて。それがすごく面白かったのを思い出しました。笑 「Be My Valentine」と同じで、どこにも行けないタイプの人だからこそ書けた歌詞なのかなと。根暗なりのキラキラに対する憧れが詰まってる。笑

──温度感のコントラストが面白いですね。

確かにね。アルバムの後半は割と明るめだと思います。毎回そうだよね。1stも後半で上がってくるタイプ。

──確かに1stの前半はなかなかダウナーでしたね。

ダウナーだよね。1曲目に暗い曲を持ってくるのが好きなんだろうな、私。1曲目からギラギラな曲にしたくない、っていうのはちょっとあるかも。今回もそう。

──「somewhere」の他にレコーディングで大変だったエピソードで、何か思い浮かぶものはありますか?

歌は特に力を入れていたからこそ、苦戦する部分も結構あって。自分の中で「こう歌いたい」っていう理想が強くなってきて、だからこそ理想とのギャップにたくさん苦しんだりもしました。「light of the sun」は特に大変でしたね。サビの音域が高いから苦しくて。岩田さんに励まされながら、絞り出して歌いましたね。

──岩田さんと組んだのは今回が初めてですよね。一緒にやってみてどうでしたか?

すごく楽しくて。お父さんみたいな感じ。笑 でも歌のレコーディングは本当に大変で、ナーバスな状態の時も岩田さんには色々助けてもらいました。1日で1曲録るスタイルだったんですけど、朝からまずリズム隊を録って、次にギターを録って、歌は最後なんですよ。歌入れが始まる頃にはもう夕方か夜で。もちろん意気込んで臨むけど、割と疲れてる状態なので思ったようにできない場合も多かったんです。そういう時に「こうやって歌うといいかも」って色々提案してくれたり、「気持ちが変わるかもよ」って電気を消して真っ暗にしてくれたりとか。

──優しいですね。まさに岩田さんあってこその今作ですね。

だいぶご迷惑をおかけしたと思うんですけど、励まして、気を持たせようとしてくれて、なんとか乗り切れました。本当、歌ってすごくメンタルが出るんですよね。自分自身が楽器だから。

──歌詞を書いてから歌入れするまで、それなりに期間も空いてしまうので、その時差みたいなのも影響しますよね。

ありますね。自分で作った曲なのに、なんでこんなに歌うのに苦しんでるんだろう?って。笑 完成を思うと苦悩も報われるけど、やってる瞬間は本当にきつくて逃げたい。何回もつらい瞬間をメンバーと岩田さんには見せてしまって。体育座りして「ダメだ私なんて……」ってなってました。今となっては笑えますけど。喝を入れて伸びるタイプじゃないんです。笑 多分みんなもそれを分かってて励ましてくれた。

──いい関係性ですね。ちなみに岩田さんと組みたいと思った明確なきっかけはあるのでしょうか?

The Novembersとか、ART-SCHOOLもsyrup16gも録ってる方なので、自分にとっては“オルタナティヴ・ロックの師匠”みたいな存在で。あとは今までのSPOOLの作品とは変えたい気持ちもあって、今回お願いしました。マスタリングも中村(宗一郎)さんだし、大尊敬しているレジェンドの方々に参加してもらえて嬉しいです。

──それが結果的にとてもいい形になってます。

そうですね。骨太なサウンドになったなと思います。

──その骨太感が“USっぽさ”にも繋がってるかもしれないですね。

それが岩田さんのスタイルだと思うので、そこがマッチしていい作品になったかなと。“ドスン”って重たい感じがするよね。その人がどうミックスするか、どういう環境で録るかでバンドの音も変わってくるから面白いですよね。

■ 毎回驚いてもらいたい

──特に「ハロー・マイ・ロンリー」のカッティング・ギターがかっこよくて、すみちゃんの活躍も目覚ましい印象で。ギタリストとして1stアルバムから演奏してきて、確実に成長してきてると感じたりしましたが、どうでしょう。

今回のアルバムのアレンジ、半分くらいはすみちゃんに任せてるんです。「ハロー・マイ・ロンリー」も「好きに弾いちゃって」って感じでお願いして、全部すみちゃんが考えてて。私だったら思いつかないアイデアがあるから面白いし、今までと違ったアプローチの曲になりました。

──ギタリストとしてのアイデンティティをどんどん確立してると感じます。

「nevv song」の一番最後のソロもすみちゃんが考えてますね。すごくかっこよくて私も好きなんですよ。

──なんとなくですが、「light of the sun」は展開とかがPlastic Treeっぽいな、ってちょっと思ったんですよ。プラ好きのすみちゃんが関係してるか分かりませんが。

意外と関係してたりもするんじゃないかな。この曲、実はAdorableの「Vendetta」を参考にしてて。聴いた瞬間に「超かっこいい!」って思って、こういう曲やりたいなと。

──Adorableはグラムっぽい側面もあったバンドなので、そういう意味ではPlastic Treeとなんとなく近い部分もあるんじゃないですかね。

確かに、文脈的には繋がってるのかもね。

──個人的には「She’s like a bluemoon」の後半以降、特にギター・ソロの辺りなんかはどことなくDeerhunterっぽさを感じたりもしました。

サイケデリックな感じもあるよね。あの曲も音を色々重ねたり、すみちゃんがE-Bow(*2)を使ってたりしてて。そういうのが混ざり合って、聴いてると不思議な感覚になる。特に最後の方はね、連れていかれそうになるよね。笑

*2:近づけるだけで弦を振動させてサスティンをコントロールできるアタッチメント。

──やはり細かい部分にこだわりが詰まってますね。繰り返しになりますがシューゲイズ的な手法も随所にある。

一見レイヤードしてる感じに見せないのもかっこいいなと。「よく聴くとすごい音だな」みたいなのを理想として目指してたので。

──僕は完全にしてやられてますね。笑

すごく嬉しい。それこそ、スピッツと結構スタンスが近いと思うんですよ。歌が大前提にあって、すごく綺麗でポップだから普通に聴いちゃうけど、よくよく聴いたらやばいフレーズがあったり、音がめっちゃ重なってたり、裏で変なことしてる、みたいな。

──SPOOLの音楽って、J-POPなんですよね。J-POPって“やばいことをさらっと聴かせる”みたいな側面があると思うんですよ。SPOOLは元々歌が強いバンドだし、その上で演奏面ではストレンジなことをやる、っていうのは一貫した姿勢のような気もします。

正面からというよりは、「実はこっそり変なことやってます」くらいの方がかっこいいなと思ってて。「実は変じゃない?」「なんかおかしくない?」みたいな。

──その辺も含めて、リスナーの反応が楽しみですよね。

それは思いますね。だいぶ違った感じの私たちを見せられたかなと。

──僕の超個人的な感想ですが、昨日ずっと仕事帰りの電車で聴いてて、そのまま最寄駅で降りてスーパーに寄ったんですけど、食材を選んでたら泣きそうになって。笑 金曜日で精神的にも疲れてたので、それも相まってか、すごい泣けてきたんです。そういう力があるアルバムだなと。言い表せない感情になった。

最後の方とかもう、ね。“人生”って感じ。人生を見てる気持ちになる。

──人生ですね。

人生が詰まってる。濃いよね。

──しかも、1人の人間の人生。色々な人生の局面を想起させる力があるというか。不思議な魅力がある作品ですよね。

すごく嬉しいです。

──そして、1stから3rdまでそれぞれカラーも違って、どれも楽しめる。だから、僕はシューゲイズ的な音像はもちろん大好きですけど、SPOOLに必ずしもそれを求めてないと気づきました。「シンプルにSPOOLというバンドが好き」っていうことに、改めて気づかされたというか。

ありがとうございます。でも、そこは葛藤もあってね。“シューゲイズ”って名乗ったり、カテゴライズされてることで聴いてくれてる人もいて。だからこそ、今作は「こんな私たちもどうですか?」っていう問いかけでもある。「これで嫌いになりますか?」って。笑 でもシューゲイズは大好きなので、そのうちガチのやつも作ってみたいですね。

──次作以降がどうなるのかも楽しみです。

色々作りたくなっちゃうからね。今作はパーソナルな部分を全面に出した感じだったけど、また違うアプローチで作ってみたい気持ちもあるので、曲を書き溜めてますけれども。予想通りに行くのは嫌なんです。

──こちらとしても予定調和は求めてないですね。

毎回驚いてもらいたい。やっぱり生きていく中で、人は日々変わっていくからね。ずっと同じ場所にはいないしさ。心も変化していくから曲も変わっていくよね。同じ曲なんて二度と書けない。

──生きていれば、色々ありますからね。

本当に色々ある。色々ありすぎる。これからも、その色々あるものを音楽にしていけたらと思います。ただの色々では済ませたくないから。色々を形に。

◯ 2022年10月22日 北浦和某所にて/ZINE『nell you Vol.2』掲載のインタビューを再編集

■ Release

SPOOL – (image for) drawing on canvas

[CD]
□ レーベル:TESTCARD RECORDS
□ 品番:TCRD-031
□ リリース:2023/04/12

[LP]
□ レーベル:TESTCARD RECORDS / Infree Records / Clever Eagle Records
□ 品番:TCRD-033
□ リリース:2023/08/16

□ トラックリスト:
1. fu_ka_n
2. In My Blood
3. ハロー・マイ・ロンリー
4. (image for) drawing on canvas
5. light of the sun
6. さめない (album version)
7. ハミング・バード
8. somewhere
9. She’s like a bluemoon
10. P-90
11. nevv song
12. ハロー・マイ・ロンリー (demo) *CD only
13. (image for) drawing on canvas (demo) *CD only
14. さめない (demo) *CD only

SPOOL – Just a log tape

□ レーベル:spring records
□ 品番:SP011
□ 仕様:Cassette
□ リリース:2024/10/14

□ トラックリスト:
A1. Space Rock
A2. Heavenor (tape mix)
A3. 秋桜
B1. downer (demo)
B2. Heavenor (demo)
B3. a pabble (demo)

nelll you – Vol.2
特集:SPOOL

□ 収録内容
Interview:幾重にも旋律に刻まれた、人生の機微
Disc Review:2013 – 2022
Self Liner Notes:(image for) drawing on canvas
My Best Shoegaze:こばやしあゆみの5枚

□ 執筆
小野肇久(DREAMWAVES)
辻友貴(cinema staff / peelingwards / LIKE A FOOL RECORDS)
鴉鷺(Sleep like a pillow)
對馬拓(Sleep like a pillow)

□ 翻訳
鈴木レイヤ

□ 写真
Yusuke Masuda

□ アート・ディレクション/デザイン
tokyo zuan

□ 主宰/編集長
對馬拓(Sleep like a pillow)

□ 仕様
A5サイズ/特殊帯付

■ Event

sail to the nevv moon vol.2

日程:2025/03/15(土)
会場:下北沢SHELTER
時間:open 17:30 / start 18:00

[第一部:碧(あお)]
drummer:金子タカアキ
(スズメーズ / sheeplore / 色々な十字架)
[第二部:朱(あか)]
drummer:cimaco
(白い朝に咲く / SHIZUKU)

[チケット]
adv ¥3,500(+1drink)
door ¥4,000(+1drink)
特典付き先行入場チケット
LivePocket

■ Profile

SPOOL

こばやしあゆみ(Vocal / Guitar)
ショウジスミカ(Guitar)
安倍美奈子(Bass)

2007年結成。音楽的ルーツであるThe NovembersやART-SCHOOLといった日本のロックやシューゲイズを軸に、繊細な感性で紡ぐポップかつ憂いを帯びた楽曲と、USオルタナティヴ・ロック〜グランジの影響を感じさせる、独特の空気感が特徴。これまでに3枚のアルバムをリリースし、最新アルバム『(image for) drawing on canvas』はTESTCARD RECORDS(日本)、Infree Records(香港)、Clever Eagle Records(米国)の3レーベルよりLPが共同リリースされた。現在はサポート・ドラムを迎えて活動しており、2024年6月には新体制第1弾シングル「Heavenor」、7月には第2弾シングル「Space Rock」、9月には第3弾シングル「秋桜」をリリースした。

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