
今、SPOOLは重要な局面を迎えている。2023年5月にドラマーのaranが卒業し、同年7月よりサポート・ドラマーにcimaco(白い朝に咲く / SHIZUKU)を迎えた新体制で活動を開始。2024年にはcimacoが参加したシングル「Heavenor」「Space Rock」をドロップしたかと思えば、続く「秋桜」では金子タカアキ(スズメーズ / sheeplore / 色々な十字架)を迎え、SPOOLの新たな表情を垣間見せていた。
そして、2025年3月15日(土)にはワンマン・ライブ『sail to the nevv moon vol.2』を開催する。SPOOLにとって、ワンマンは2023年のaran卒業公演『sail to the nevv moon』以来であり、会場も下北沢の音楽シーンにおいてレジェンドたちがその名を刻んできた下北沢SHELTERだ。特筆すべきは、金子タカアキとcimacoの2人のドラマーを迎えた2部制のライブとなっている点で、第1部は「碧(ao)」をイメージした楽曲、第2部は「朱(aka)」をイメージした楽曲でセットリストを構成。一つの公演でそれぞれの違いを楽しめるようになっている。ここに懸けるバンドの思いは決して並大抵ではないだろう。SPOOLのメンバー3人とサポート・ドラマーのcimacoに、最新のSPOOLについて聞いた。

インタビュー/文/編集=對馬拓
写真=Yusuke Masuda(2024年11月9日『telepathy from mars vol.1』@下北沢SHELTER)
■ 献身的な、支えてくれるドラマー
──今回は3月15日(土)に控えたワンマン・ライブ『sail to the nevv moon vol.2』を踏まえて、直近のSPOOLの活動や、現在サポート・ドラマーとして参加している2人について、色々と話を聞けたらと思います。
こばやしあゆみ(Vo. Gt. / 以下 あみ) よろしくお願いします。
──さかのぼること2023年。
一同 笑
──2023年5月13日、元ドラマーのaran(あらん)さんの卒業公演(『sail to the nevv moon』@新宿NINE SPICES)でした。第1期があゆみさん、安倍さん、aranさんの3人時代だとしたら、第2期はすみちゃん(ショウジスミカ)加入後の4人時代で、aranさんの卒業でその第2期SPOOLが終わって。その後、2023年7月9日にcimaco(シマコ)さんをサポート・ドラムに迎えて『YO RO CIMACO vol.1』を開催して、第3期がスタートしました。cimacoさんはその日が初お披露目でしたっけ?
あみ ですね。早速企画名に使うっていうね。笑





──まず、シマコさんがサポート・メンバーに決まった経緯を聞きたいです。
あみ シマコさんがやってる 白い朝に咲く(以下 白朝)っていうバンドと随分前から対バンしてて、「一度見たら忘れられないドラマーだな」と思ってて。最初に対バンしたのは本当に昔だよね。
cimaco(Support Dr. / 以下 シマコ) NINE SPICESでやった日だよね。2016年か2017年くらい。当時、白朝はまだサポートやったんやけど、SPOOLと一緒にやらせてもらって。その後、白朝は活動休止してたんですけど2022年に復活して、大阪と東京で企画を打ったとき、SPOOLには大阪の方に出てもらって。
あみ そう、誘っていただいて。
シマコ そこで久しぶりに会って。
あみ 久々に一緒にライブしたら、やっぱりめちゃくちゃかっこいいなと思って。そのときの衝撃がずっと残ってたんですよね。そんな中であらんが卒業することになって、どうしようかってみんなで相談したら「シマコさんがいいよ」って。すぐ名前が出てきた。
ショウジスミカ(Gt. / 以下 すみ) 女性のドラマーで、かっこいい人が良かったんだよね。ってなると、もうシマコ氏以外は考えられなかったです。頼める人は他にもいたと思うけど、想像がつかなかった。
──実際にシマコさんとライブをやってみての感触というか、改めてSPOOL側から見てシマコさんはどういうドラマーですか?
あみ とっても献身的な、支えてくれるドラマーさんっていう印象ですね。一緒に音を合わせたことで、より感じましたね。
安倍美奈子(Ba. / 以下 あべ) すごくドラムが好きっていうのが伝わってくるドラマーだな、って思います。 SPOOLの楽曲をすごく理解してくれる。義務的ではなく、「ちゃんといい演奏しよう」っていう感じで臨んでくれるので、本当に献身的な方だなって思いますね。
シマコ (照れながら)うす。

──逆にシマコさんから見て、SPOOLはどういう印象のバンドですか?
シマコ 前の体制のライブを拝見したときから、すごく緊張感のあるステージだなと思ってて。触ったら壊れるんじゃないか、くらいの繊細な世界観なので、最初にサポートのお話をいただいたときは「あんなドラムしか叩けないんですけど大丈夫ですか?」って思って。でもSPOOLのみんなは「シマコさんがいいです」って言ってくれたから、自分ができることをやろうと思って臨みました。実際にSPOOLの曲を叩いてみると、ただ聴いてるときとは解釈が変わったり、やっぱりSPOOLの曲っていいなって実感したり、新しい発見もすごくあって。メンバーのみんなが考えてることとか、「こういうふうに曲を見せたいんだな」っていうのも知れて、より一層「SPOOLってめっちゃいいバンドやな」って思ってます。すみちゃんのギターだったり、安倍さんのベースのフレーズだったり、あみちゃんが書いてる歌詞とかにも改めて向き合うことができて、光栄だなって。
──僕も観客として観てても、SPOOLのライブは良い意味で変わったなって思ってます。全体的に、よりアグレッシブさが増したような。
シマコ どういう感じでライブをしていったらいいのか、最初はすごい不安でした。だから「ほんまにぼくで大丈夫なんですか?」って聞いたんだけど、「もっとオルタナ感を出していきたい」ってあみちゃんに言われて、「なるほどわかりました!」って。
あみ 「であれば、私におまかせ!」みたいなね。
一同 笑
シマコ っていうので、自分のドラムを出せるようになったと思います。
■ 本当にオールラウンダーで
──シマコさんは専属サポート的な立ち位置で、2024年にリリースした「Heavenor」と「Space Rock」にも参加していますが、一方で金子タカアキさんが参加した「秋桜」もリリースしていて。金子さんに参加してもらう経緯はどんな感じだったんでしょうか?
あみ 「秋桜」ができたときに、これまでとはちょっと違ったアプローチをしてみたいっていう気持ちがあって。楽曲の雰囲気ってドラマーによって変わるじゃないですか。だから挑戦というか、今は本メンバーが3人でドラマーがいないので、楽曲によってドラマーを変えてみたりとか、そういうアプローチもいいのかなって。どうしてタカアキさんになったかっていうと……
すみ 私、音楽を作る人としてタカアキさんが大好きなんですよ。彼がヴォーカルをやってたaprilaprilっていうバンドがあって、ちょっとシューゲイザーの要素もあったりしたから、「秋桜」にも良い影響を与えてくれそうだなと思ったり。あと男性のドラマーとやったことがなかったので、「あえてやってみたらどうなるんだろう?」っていうのも純粋に気になって。
あみ 楽曲への理解度と、そういう好奇心もあってお誘いしたよね。
すみ サポートというより「ゲスト・ドラマー」かも。シマコ氏はサポート・ドラマーで、彼はゲストっていうニュアンスが強いかな。
──実際「秋桜」はめちゃくちゃハマってましたよね。
あみ タカアキさんにはアレンジの面でも色々アドバイスをいただいたりして。コーラス・ワークとかギターのアレンジも相談しました。ドラマーでもあるけどピアノとかもできて、作曲もされてる方なので、本当にオールラウンダーで。
すみ いわゆるドラマーとは視点がちょっと違う。音感がすごいよね。
──プロデューサーみたいな?
すみ そう、プロデューサーに近いかもしれない。
あみ 音楽的な技術が高くて。すごく助かったよね。

■ SHELTERの思い出話
──以前、ちらっと「2025年はライブを中心にやっていきたい」と聞いた気がしたんですが、それは今も変わってないですか?
あみ そうですね。それもあって「ワンマンをやろう」っていう話に。
──2024年11月9日に下北沢SHELTERで自主企画『telepathy from mars vol.1』を開催して、ワンマンライブも同じ会場で。SHELTERでワンマンをやりたいっていう想いがあったんでしょうか?
すみ やっぱりバンドをやってる側としては憧れじゃないですか。
あみ 歴史がある老舗。
すみ 自分たちの思い入れのあるバンドもSHELTERでワンマンをやったり、実際にライブを観に行ったりもしてるから。 ワンマンをやるからにはSHELTERでやってみたいと思って。

──みなさん、それぞれSHELTERの思い出のライブってあったりしますか?
すみ 初めて足を踏み入れたのは、つしまみれとtricotの対バンで。女性限定ライブでした。物販で「サインください!」って言って。10年以上前かな?
──(検索して)2013年10月8日ですね。
一同 うわー!
あべ 私は昔The Novembersを観に行きました。多分あらんと行ったんだよね。3バンドくらいの対バンだったような……?(*いつの何のライブだったかは思い出せず)
あみ 私は映像なんですけど、印象に残ってるのはYouTubeに上がってたゆらゆら帝国のワンマンで、それがすごいかっこよくて。ゆら帝は高校生のときから聴いてて、それ以来「SHELTERでライブをやるのがかっこいい」っていうのが植え付けられたというか。
シマコ ぼくは関西出身やから、SHELTERに観に行く機会はなくて……LOSTAGEやPeople In The Boxとか、好きなバンドが出てたっていうのは知ってたけど行くことはなかったから、サポートしてるバンドで出演させていただいたのが最初で。4年前とかかな。初めて足を踏み入れたときは「ここが噂のSHELTERか!」って。笑 だからSHELTERでワンマンをやるって、やっぱりすごいことで。
──ちなみに僕は、2018年にMASS OF THE FERMENTING DREGSのワンマン(『No New World』Release Tour 2018)を観たのが最初ですね。SHELTERの名前は何となく聞いたことがあったけど、「ここかあ!」って感じで。
あみ そう、「ここかあ!」ってなるんだよね。笑





■ 碧と朱、静脈と動脈
──今回のワンマンは、金子さんとシマコさんの2人のサポート・ドラマーを迎えた2部制、というのが最大のトピックですよね。なぜそういった形になったんでしょうか?
すみ 「秋桜」ができたときに、タカアキさんとライブをやる機会があってもいいかなと思って。でも普段のライブはシマコ氏にお願いしてるし、じゃあせっかくワンマンがあるならタカアキさんともやってみたいよね、って。
あみ スペシャル的なね。ワンマンだったら自分たちで自由に世界観を作っていいから。
すみ それなら2人のドラマーを迎えて、それぞれちゃんと世界観を分けた2部制でやろうってなって。
あみ 何かコンセプトがあった方が良いもんね。
すみ SPOOLの曲って結構ジャンルが幅広いじゃないですか。1つのジャンルに収まってない。だからあえて2つに分けて見せるっていうアプローチもある。
──今までは当然、全ての曲が地続きで演奏されていたけど、あえてきっちり分けるっていうのは面白いですね。
すみ あと、今回は1枚のチケットで1部と2部どちらも観られるから、そういうお得感もあるし、いい意味で2人とも違うドラマーだから、それぞれの違いを一気に楽しめると思います。もちろん「秋桜」以外もタカアキさんが叩いたりするし、直近のライブとの違いも楽しめる。
あべ ドラマーが途中で交代するライブって珍しいよね。2部制となると昼公演と夜公演で分かれてる、みたいに勘違いされることもあるんですけど、開演は18:00(*第1部は18:00から、第2部は19:10からスタート)なのでそれまでに来てもらえればどちらも観られます。



──金子さんとのライブは初めてだと思うので、そういう意味ではまた新しいSPOOLの顔が見られそうです。
あみ ドキドキですね。
──そして、第1部は金子さんを迎えた「碧(ao)」で、第2部はシマコさんを迎えた「朱(aka)」となっています。セットリストはどうやって決めましたか?
あみ 1枚1枚に曲名を書いた小さい紙を用意して、色々並べ変えたりしながらあーでもないこーでもないって会議して。それぞれの楽曲のイメージで色分けしましたね。
──曲を2つに分けていったときに、それぞれ「碧」と「朱」だった?
あみ そうですそうです。
シマコ 「静と動」みたいな感じ、って言ってたよね。
──syrup16gのベスト盤の『動脈』と『静脈』みたいな?
あみ あー!! まさにそうです。自分が一番言いたいことはそれだ。笑
──ワンマンっていう意味でも、今のSPOOLの集大成になるだろうし、「ライブバージョンのベスト盤」みたいな、そんなイメージもあってもいいかもしれないですね。
すみ 確かにそれはしっくりくるかも。
──しかもワンマンともなれば、久しぶりの曲も演奏しますよね。
すみ 聴きたかった、あの曲が……?!
一同 笑
──ファン垂涎の!
あみ 地方から来てくれるお客さんから「あの曲やってほしかった……」みたいな声もたまにいただいたりするんですよね。
すみ 2〜3年ぶりにやる曲とかもあります。
シマコ SPOOLはキャリアが長いしコンスタントに作品を出してるし、それを45分とかのライブでは出し切れないからね。
■ SPOOLの歴史が詰まった日に
すみ 言っておきたいこととしては、あらんさんも今回のワンマンに関わってて。今あらんさんは革職人に転身してまして、『aran leather』っていうレザークラフトのお店をやってるんですけど、ワンマン限定の商品ということで「碧」と「朱」をモチーフとしたレザーキーホルダーを数量限定で販売します! 本当にすごくかわいくて。


あみ 打ち合わせで革のサンプルをたくさん持ってきてくれて、「どれがいいかな?」ってね。
すみ 普段あらんさんが売ってる作品も出すかも。お財布とか。
あみ お財布はもうメンバーみんな持ってるからね。
すみ 以前のメンバーもこういう形で関わってくれてるので、是非ライブじゃないところも楽しんでもらいたいです。
──SPOOLの歴史が詰まった日になりそうですね。
あべ まさに集大成。勢揃いって感じです。

シマコ あと、この前のライブ(2025年1月26日『cephalo “Fluorite code” release party』@下北沢BASEMENTBAR)から新しい機材を導入するようになって、ライブのクオリティが上がってると思うのでそこも注目してほしいですね。
あみ そうだね。「ライブがかっこいいバンドになりたい」っていう気持ちがあるので、このワンマンもそうだし、この先も頑張ってやっていきたいなって思ってます。
シマコ ぼくはライブをする側でもあるけど、タカアキさんのSPOOLが観られるっていうのも楽しみで。タカアキさん側(「碧」)のセットリストも見せてもらってるんですけど、「なるほどこういう感じで来るんや」っていう。そこをライブではどう見せてくれるのか楽しみです。だからこそ「自分がやるべきことはこっちの方向なんだな」っていうのがわかってるから、そこをお客さんに楽しんでもらえるように、みんなに求められてる「朱」の面を出していきたいなと思ってます。
すみ 2部制のライブなんてそんなに観れないと思うので。チケットも少なくなってきているので是非来てもらえたら嬉しいです!
◯ 2025年2月2日 新宿某所にて
■ Event

sail to the nevv moon vol.2
日程:2025/03/15(土)
会場:下北沢SHELTER
時間:open 17:30 / start 18:00
第一部:碧(ao)*開演18:00
drummer:金子タカアキ(スズメーズ / sheeplore / 色々な十字架)
第二部:朱(aka)*開演19:10
drummer:cimaco(白い朝に咲く / SHIZUKU)
[チケット]
adv ¥3,500(+1drink)
door¥4,000(+1drink)
LivePocket
■ Profile

SPOOL
こばやしあゆみ(Vocal / Guitar)
ショウジスミカ(Guitar)
安倍美奈子(Bass)
2007年結成。音楽的ルーツであるThe NovembersやART-SCHOOLといった日本のロックやシューゲイズを軸に、繊細な感性で紡ぐポップかつ憂いを帯びた楽曲と、USオルタナティヴ・ロック〜グランジの影響を感じさせる、独特の空気感が特徴。これまでに3枚のアルバムをリリースし、最新アルバム『(image for) drawing on canvas』はTESTCARD RECORDS(日本)、Infree Records(香港)、Clever Eagle Records(米国)の3レーベルよりLPが共同リリースされた。現在はサポート・ドラムを迎えて活動しており、2024年6月には新体制第1弾シングル「Heavenor」、7月には第2弾シングル「Space Rock」、9月には第3弾シングル「秋桜」をリリースした。
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