Posted on: 2022年11月11日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

文=對馬拓 
写真=稲垣ルリコ 

2022年10月29日、pollyがオルタナティヴなバンドを共演に招き、新たにシーンを作っていく趣旨のもと主催する定期イベント『Lakk』の初回が、渋谷・TOKIO TOKYOにて行われた。17歳とベルリンの壁、そしてSPOOLという、国内シューゲイズ・シーンを代表する2組を招き、三者三様のパフォーマンスでオーディエンスを沸かせた本公演を写真と共に振り返る。

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01 / 17歳とベルリンの壁

このところの活動は制作中心で、ライブ自体は2月以来という17歳とベルリンの壁が堂々のトップバッター。1曲目では2ndミニアルバム『Reflect』の冒頭を飾る「地上の花」を披露、じんわりとフロアを温めていく。続く「プリズム」では、イントロからTakuji Yoshida(Gt.)のダイナミックなギター・プレイに心を掴まれる。ヘッドが天井につきそうなくらい高く掲げられたギターと、そこから放たれる轟音に身体を揺らす。Yusei Tsuruta(Vo. Gt. Syn.)とEriko Takano(Vo. Ba.)のツイン・ヴォーカルが駆け抜ける。「プリズム」がシューゲイズ・アンセムであることを再認識した。

MCを境として、Yusei Tsuruta(Vo. Gt. Syn.)はギターを置き、シンセの前に向かう。新曲が2曲続けて披露されたが、いずれもシンセ/同期を大々的に取り入れてミニマルなアレンジを追求した4thミニアルバム『Abstract』の延長上にあるような仕上がりだ。17歳とベルリンの壁の楽曲には、メロディやギターに繰り返しのフレーズが多く組み込まれている。新曲を挟んで後半3曲は全て『Abstract』収録の楽曲だったが、ドリーミーな音像とリフレインの心地良さがライブでもしっかり発揮されていた。サビにおけるコーラスが美しい「街の扉」。シンセのループ音とヴォーカルがじんわりと会場を包み込む「十年」。とにかくノれて浸れる。Junichirou Miyazawa(Dr.)による正確無比なドラムも、そのことに大きく寄与しているのだろう。

ラストは、Tsurutaの「海にして帰ります」という一言から始まった、キャリア屈指のドリーミー・シューゲイズ・ナンバー「誰かがいた海」。つくづく思うが、彼らは空間デザインに長けたバンドだ。Takanoのハイトーン・ヴォイスが幻想の海を遠泳する──その瞬間、渋谷は“ここではないどこか”だった。

17歳とベルリンの壁 / setlist

1. 地上の花
2. プリズム
3. 新曲A
4. 新曲C
5. 街の扉
6. 十年
7. 誰かがいた海

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02 / SPOOL

コロナ禍以降、ライブ活動は事実上の休止状態で、東京でのライブは実に3年近く行っていなかったSPOOLにとって、この日が特別なものとならないはずがなかった。オーディエンスもそれを予見してか、ステージへ向けるフロアの眼差しや期待値もグッと高まっていたように感じた。

最新アルバム『(image for) drawing on canvas』から同名の表題曲で幕を開けたライブ。長らく音源でしかSPOOLのサウンドを味わっていなかった身体に、生演奏のダイナミズムがズドンと響く。あのSPOOLがニュー・モードになって帰ってきた、という感動が全身を駆けた。続けて名曲「スーサイド・ガール」を披露、こばやしあゆみ(Vo. Gt.)の冷ややかな空気を帯びたヴォーカルが染み入る。aran(Dr.)のドラムは地力漲り、安倍美奈子(Ba.)のベースも歌うようにラインを描いていく。

こばやしはMCで、久しぶりのライブゆえに緊張していることを吐露していたが、いざ演奏が始まれば強度のあるアンサンブルを響かせる。バンドとしての強度が明らかに底上げされており、ブランクは全く感じさせない。リズム隊による下支えはもちろんだが、ショウジスミカ(Gt.)のギター・プレイにも胆力がある。そして何より、レッスンに通って鍛えたこばやしのヴォーカルの表現力には目を見張るものがあり、「Shotgun」や「blooming in the morning」など1stアルバムの楽曲も深みを増して届けられる。水面下で音を、表現を、丹念に磨いてきた成果であろう。

悲しみの底から浮上するようにじっくりと聴かせる「さめない」を経て、ラストも最新アルバムから「nevv song」。ここでもショウジが奏でる鮮やかなギターが光る。丁寧に丁寧に言葉と音を紡ぎ、SPOOLの“再始動”を強く印象付けたパフォーマンスだった。

SPOOL / setlist

1. (image for) drawing on canvas
2. スーサイド・ガール
3. Shotgun
4. blooming in the morning
5. さめない
6. nevv song

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polly

この日最も轟音を響かせたのはpollyだった。ステージに登場した越雲龍馬(Vo. Gt. Pg.)は、どこかいつもより幾分リラックスしたように見えたし、1曲目の「Slow Goodbye」までは変わらずその印象だったが、続く「生活」「花束」では全身を大きく使い、早くもクライマックスかのようなアグレッシヴなパフォーマンスを展開。とにかく筋力がある音だ。

今回のサポート・メンバーは辻友貴(Gt.)とカミヤマリョウタツ(Ba.)。辻のギターを振り回すようなプレイが冴え渡る。アグレッシヴなリード・ギターという点では、エモやハードコアなど近しいルーツを持つTakuji Yoshidaとも通ずるし、そういう意味で17歳とベルリンの壁とも共鳴するものがあったように思う。

ここ最近では久々に披露された「残火」では、ハンドマイクで言葉を鋭く放つ越雲。そこから高速シューゲイズ/ポスト・パンク・ナンバー「狂おしい」へと突入。高岩栄紀(Dr.)が繰り出す性急なドラミングに乗って、バンドのアンサンブルが一つの轟音となってフロアを塗りつぶしていく。一転、3rdアルバム『Pray Pray Pray』より披露された「愛している」「窓辺」ではしっとりと聴かせる。志水美日(Key. Cho.)が加入したことで、表現にもグッと深みが増したように感じる。加入前に志水がコーラスで参加していた「Laugher」も、この流れで聴くとより特別な楽曲として響く。

本編の締め括りは、Exloversへのオマージュが溢れる「A.O.T.O.」で疾走したかと思えば、続けてExloversの同名曲を冠した「Starlight Starlight」へ。何とも憎い流れだ。カミヤマによる艶のあるベース・ラインと越雲のハイトーン・ヴォイスが、日々の生活で荒んだ心を浄化していくようだ。

恒例となりつつある(?)高岩への無茶振りMCを経て、アンコールでは新曲を披露。冒頭から志水のコーラスで始まり、新体制のpollyを改めて印象付ける1曲だと感じた。スウェディッシュ・ポップとJ-POPを引き合わせたかのようなサウンドで、制作中だという新作への期待も否応なしに高まった。

polly / setlist

1. Slow Goodbye
2. 生活
3. 花束
4. 残火
5. 狂おしい
6. 愛している
7. 窓辺
8. Laugher
9. A.O.T.O.
10. Starlight Starlight
en. 新曲

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MCで越雲が触れていたように、『Lakk』は今後も定期的に継続して開催されていくという。17歳とベルリンの壁、SPOOL、そしてpollyと、初回としては申し分のないラインナップで新たなシーンの狼煙が上がった。さて、次回以降はどのような形になっていくのか。行く末に期待したい。