Posted on: 2025年3月7日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

文/編集=對馬拓
写真=シンマチダ

yeti let you noticeとBlume popo──この2組がOaikoの2マン企画シリーズ『みちしるべ』の初回を飾るのは必然だった、と思えるような一夜だった。yeti let you noticeは2024年5月開催の『つどう』、そしてBlume popoは同年3月の『つむぐ』と、それぞれOaikoの企画で確かな足跡を残していた。そんな2バンドが同じ時間と空間を共有した意義は大きい。

両者は世代こそ違えど、空間を浄化していくようなサウンドスケープ、透明感、緻密なアンサンブルといった共通点があり、どこか似た空気感を持っている。秋好佑紀(yeti let you notice)と横田檀(Blume popo)のギタリストどうしの対談を読むとその一端が感じられるかもしれないが、両者のライブを観たことで、その印象はより強まった。これまで共演していなかったことが不思議と思えるほどの親和性があったのだ。そんな2組による西永福JAMでのライブを振り返る。

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yeti let you notice

彼らのライブを端的に伝えるのであれば、“シャープで強靭” と表現するのがしっくりくるだろうか。あるいは “内省的かつ解放的” という、相反する力を持っているとも言えるかもしれない。ライブは打ち込み中心のサウンドとヴォーカルでじっくり聴かせる「bookmark」からスタートした。yetiの核の部分のみを見せていくような演出で一気に引き込んだところで、「ナイトウォーク」のバンド・サウンドが軽快に響き、視界をふわりと広げていく。

続く「melodic girl」では秋好(Gt.)の自在なギター・ワークが光る。音源ではドリーミーな印象が強い楽曲だが、いざ目の前に立ち現れると輪郭がよりはっきりと見えるような感動があった。そのまま疾走感のある「lens」へ。どこか遠くまで連れて行ってくれそうな居心地の良さがある。

MCでは大雪男(Vo. Gt. Syn.)が「基本的に内向的な曲を作っている」と自虐まじりに発言。笑いを誘う場面も多かったが、一方で強固な演奏とのギャップにやられてしまう。「未練タラタラの曲です」という紹介で始まった「silver ring」も、その未練を全て爆発させるようなパフォーマンスに圧倒された。力のこもったベースとドラム、そして激しいギター・ソロが気持ちを昂らせる。

「furious」は流麗なヴォーカルとメロディを複雑なアンサンブルで固めていく様が美しかった。そして、淡く弾けるような「オレンジ」を経て「blackout」へ。グライドするギター、鋭いドラムと歪んだベースによって駆動していく。アウトロでは秋好がギターを激しく掻きむしる。

再びMCを挟み、「なぜ自分だけいつも上手くいかないんだろう、という曲です」と紹介し披露した「流星」では一転、じわりと滲んでいくようなサウンドスケープ、美しい鍵盤の音色が空間を包み込んでいった。こうした多彩な表現力も彼らの魅力だろう。

ここからの流れはとにかく圧巻だった。まずはyetiの代表曲としても名高い「牧師曰く」から。マスロックをルーツに感じる流麗なギターのアルペジオ、そして全体をがっちり固めていく緻密で強靭なアンサンブル。the cabsをはじめとした国産ポスト・ロックが彼らの根底にあることを改めて実感できるライブだった。そこから「アニメーション」へとシームレスに突入し、見事な繋ぎに歓声が上がる。ツイン・ギター編成でシネマティックに疾走していく曲展開と、思わずシンガロングしたくなるサビ。現在のyetiの良さが詰まった新たなアンセムだ。

最後は、3月5日リリースの新作EP収録の「おそろしいもの」と対になっているという「うつくしいもの」。鍵盤の優しくも少し寂しい響きが胸を打つミドル・チューンで、余韻を最大限に引き伸ばしてくれた。轟音に包まれそのまま果てるようなラスト。まさに映画のエンドロールのような幕切れだった。

yeti let you notice 2025/02/24 setlist

1. bookmark
2. ナイトウォーク
3. melodic girl
4. lens
5. silver ring
6. furious
7. オレンジ
8. blackout
9. 流星
10. 牧師曰く
11. アニメーション
12. うつくしいもの

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Blume popo

作品のリリースやポッドキャストの配信など活動は精力的だったが、ライブ自体は2024年3月の『つむぐ』以来、約1年ぶり。頻度が少ないからこそ、一瞬一瞬、一音一音にかける思いは計り知れない。野村美こ(Vo.)は「音楽をしていない時間の方が音楽をしているように感じる」「対面することを大事にしている」と自らの思いを吐露していたが、それが伝わってくるような誠実なライブだったように思う。

最初に披露されたのは、最新作『Test for Texture of Text』より「彼方高さから躰放ったあなた」のアルバム・バージョン。滑らかな歌詞の心地良さと徐々に熱を帯びていく演奏で、会場をBlume popoのカラーに塗り替えていく。

続く「He drowns in the She」は、ポエトリーリーディングのようなヴォーカルと様々に展開していくアンサンブルがとにかく鮮烈で爽快だった。瞬発力、あるいは爆発力。そういった意味では、静と動のコントラストが美しい「エントロピー」もこのバンドの魅力が詰まっていると言える。喜怒哀楽がないまぜになったような歌声にも抗い難く引き込まれていく。

個人的なハイライトの一つとして、「渦つむぐ冬」を挙げたい。ウ段のみで構成された詞は踊るような、軽快にステップを踏むようなヴォーカル・メロディで進んでいき、ギターのリフとの絡み合いも絶妙で心地良い。“そうでなくてはならない” という必然性、とにかく音と演奏に説得力があった。

イントロの激しいギターで視界が一気に開けていく「ゴルゴダ」の渦巻く情感。緩急のあるギター・ワーク、語りかけるような感触のある歌声、ドリーミーで解放的な音の包み方でじっくり聴かせる「逃現郷」の尊さ。どちらもBlume popoの重要な側面だ。

一聴してシンプルに思える「日々凛々しい君に」では、手数の多いドラムをはじめとした緻密なアンサンブルによって構成されていることを実感した。エモやマスロックの影響を強く感じさせる「笑う月」も感動的で、特に力のこもったヴォーカルの求心力に圧倒された。

野村の「私に音楽をさせてくれてありがとう」という言葉。確かな重みがあり、胸がいっぱいになる。本編のラストは『Test for Texture of Text』と同じく、「痙攣」と「底」を続けて披露した。「底」の最後の〈友よ踊ろう〉という詞に、この日の全てが詰まっていたような気がしてならない。

アンコールで再び登場し、野村は「最後まで楽しい気持ちでいさせてくれてありがとう」と繰り返しお礼を告げた。同じ空間を共有していた1人1人によって、このライブが成立しているという事実。生活あっての音楽、あるいは音楽あっての生活。「幸福のすべて」で〈歓声は途切れることを今知った〉と歌っているように、この曲が終わればそれぞれがそれぞれの営みにまた戻っていく。だとしても、こんな夜を途切れ途切れにでも増やしていきたいと願わずにはいられなかった。

Blume popo 2025/02/24 setlist

1. 彼方高さから躰放ったあなた
2. He drowns in the She
3. エントロピー
4. 渦つむぐ冬
5. ゴルゴダ
6. 逃現郷
7. 日々凛々しい君に
8. 笑う月
9. 痙攣
10. 底
En. 幸福のすべて

Author

對馬拓
對馬拓Taku Tsushima
Sleep like a pillow主宰。編集、執筆、DTP、イベント企画、DJなど。ストレンジなシューゲイズが好きです。座右の銘は「果報は寝て待て」。札幌出身。