Posted on: 2024年6月19日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

文/編集=對馬拓
写真=シンマチダ

ポスト・コロナ時代において、元に戻すのではなく“適応する”をコンセプトに、噛み締めるような音楽をライブ・シーンに根付かせるべく活動するOaiko。3月の『つむぐ』に続く次なる一手は、5月18日と19日の2 Days『つどう』『つづく』だった。いずれも4組ずつ出演するという気合いの入れようで、注目の若手から中堅/ベテランまで網羅し、ありそうでなかった対バンで我々を楽しませてくれた。

5月中旬とは思えない季節外れの暑さの中、下北沢ERAに文字通り集う人々。開演10分前にはもうフロアは埋め尽くされ、筆者のいる位置からはステージの様子がほぼ見えないような状況だった。ゆえに本稿は視界以上に音の印象に拠るところが大半かもしれないのでご留意いただきたい。

この日の『つどう』は、sidenerds、downt、yeti let you notice、Enfantsの4組が出演。当然、各々のライブにはアグレッシヴで衝動的な瞬間もあったが、やはり“噛み締めるような音楽”というキーワードは貫かれていたように感じた。そういう意味でもOaikoによるキュレーションの巧みさ、絶妙さは今回もしっかり発揮されており、それは180人規模の会場をソールドアウトさせたという結果が何よりの証左となっていたのではないだろうか。

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01 / sidenerds

トップバッターに相応しく、いきなりギア全開で突っ走る──SNSを中心に俄かに注目を集めているsidenerdsは、バンドの勢いを示すように疾走感のあるライブを観せてくれた。現在リリースされているのは『潜水』に収録された3曲のみで、ほとんどがこの日初めて聴いた楽曲だったが、自らのスタイルを着実に確立しつつある印象だった。

「風邪」の鋭いアンサンブル、「フィルムカメラ」のドシャドシャ降り注ぐようなドラム、この日初披露された「ジェネリック」のミドルテンポでじっくり聴かせる雰囲気。エモを感じるアルペジオ、センチメンタリズム。そして、キュートで耳に残る歌声の求心力。結成1年未満で、かつ35分のロングセットは初めてだったようだが、初々しさはあれど拙さはなく、すっかり圧倒されてしまった。なんというか、恐れを知らない感じ。

切れ味抜群のギター・リフ、踊るようなベース・ラインで自然と身体が揺らされ、全ての楽器が渾然一体となり、光の点滅の中で轟音を放つ──ラストの「入水」まで、確かな実力で爪痕を残すパフォーマンスだった。

sidenerds / setlist

1. 風邪
2. フィルムカメラ
3. なんだかなあ
4. クラっときたー!
5. ジェネリック
6. 片喰
7. 混ざる
8. ☆。.:*・゜
9. 入水

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02 / downt

downtのサウンドは、どんどん研ぎ澄まされている。この日の中では唯一、個人的に何度もライブを観てきたバンドだったが、観るたびに無駄なものは削ぎ落とされ、意味のあるものだけが残っていった──そう思わせるような純度の高さを感じた。ひとつひとつの音に込められた意味の重さ、深さ。並ではない説得力。

じわじわと忍び寄るようなアンサンブルとスポークン・ワーズの「Yda027」から、硬質で金属的とも言えるセッション、そして不穏さを抱えて疾走していく「underdrive」へ──演者だけでなく観る者にも集中力を要するような展開が続くが、その緊張感は不思議と心地良い。音に没入していくような体験。一転してMCは相変わらず緩く、場を和ませる。このギャップはdowntならではだろう。

ぶつかり合いもするが、寄り添い合いもする。スリーピース・バンドならではのバランス感覚で、downtの音楽は常に正三角形であろうとしている。互いに補い合うことで、それぞれの辺の長さが等しくなる場所を探している。3月にリリースしたアルバム『Underlight & Aftertime』の最後を飾る8分超の「13月」は、その集大成と言えるのかもしれない。まるで徐々に霧が晴れていくような、感動的な演奏。不揃いの三角形だとしても、そこには凛とした気高さがあった。

downt / setlist

1. 紆余
2. Yda027
3. underdrive
4. Whale
5. 111511
6. 13月

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03 / yeti let you notice

一気に景色が変わった。それは単に機材の多さやキャリアの長さがもたらす変化ではなく、もっと根本的な部分によるものだった気がしてならない。繊細さ、儚さの中に激しさが滲む、yeti let you noticeの強固な音世界/詞世界にたちまち引き込まれていく。伸びやかなハイトーン・ヴォイスが美しい。

イントロのリフで歓声が上がった最新曲「アニメーション」。コマが連なりシーンが変わっていくように展開されるアンサンブル──まさにアニメーション、あるいは窓の外を次々に流れていく景色のよう。それは同時に、yetiのライブ全体に言える印象でもあった。

後半では昨年リリースされたアルバム『peeling on the pool』から「melodic girl」と「blackout」を続けて披露。リード・ギターは時にアルペジオの洪水を浴びせ、繊細で優しいフレーズを爪弾き、時に激しくかき鳴らす。リズム隊による盤石の土台があってこその自由自在なプレイ。とにかく心地良く、浄化される。

SEや同期を駆使し、曲間をシームレスに繋いでいく様は実にシネマティックだ。同期がある分それだけ演奏の精密さも求められるはずだが、正確無比のアンサンブルで音が紡がれていく。さながら額縁の中で暴れ回る色彩豊かな絵画である。何度も美点を更新するようなライブだった。「カゴノトリ」の祈りのような轟音と共に4人はステージを去っていった。

yeti let you notice / setlist

1. 牧師曰く
2. silve ring
3. アニメーション
4. チャイム
5. melodic girl
6. blackout
7. カゴノトリ live ver.

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04 / Enfants

潔いライブだった。全く明滅のない一定の照明は夕暮れのようで、彼らはその黄昏の薄明かりの中、自らの姿と音だけを純粋に届けようとする。

幕開けは、今年1月リリースの最新作『E.』に収録された「R.I.P.」でゆっくりと内省を巡っていくように歩みを進める。続く「HYS」は振り下ろされる鋭いドラムがクールで、音源よりもポスト・パンク的な性急さや疾走感があるように思った。

そして熱を帯びてきたところでささくれだったギター、ゴリゴリと進入してくる低音、シャウトで一気にアジデートする「デッドエンド」へなだれ込む。Enfantsの音楽には、ロック・バンドとしてのプリミティヴなものが宿っているのではないだろうか。それは「子供たち」というバンド名が示す無邪気さ、原初的な衝動とも言えそうだ。

それでいて、どこか退廃的で、ニヒリズム、ロマンチシズムも併せ持っている。その後退と前進を同時にやってしまうようなアンビバレントな感覚こそがEnfantsなのかもしれない。スローテンポの「惑星」、ハンドマイクで歌い上げる「ニューワールド・ガイダンス」、そしてEnfantsというバンドの代名詞「Play」。全7曲、アンコールなし。痛快で清々しい余韻。つくづく末恐ろしい「子供たち」だ。こうして『つどう』は大盛況のうちに幕引きへ。そしてバトンは『つづく』へと渡された。

Enfants / setlist

1. R.I.P.
2. HYS
3. デッドエンド
4. Drive Living Dead
5. 惑星
6. ニューワールド・ガイダンス
7. Play

Author

對馬拓
對馬拓Taku Tsushima
Sleep like a pillow主宰。編集、執筆、DTP、イベント企画、DJなど。ストレンジなシューゲイズが好きです。座右の銘は「果報は寝て待て」。札幌出身。