2022年11月、米オースティンの3人組、Ringo Deathstarrが2年以上ぶりの日本ツアーを敢行した。パンデミックを経た久々の来日。そのマッシヴな轟音を待ち侘び、酔いしれたファンも多いだろう。本稿では、盟友でもあるcruyff in the bedroom、そしてオープニング・アクトとして京都のMoritaSaki in the poolを迎え、11月10日に行われた吉祥寺CLUB SEATA公演の模様をレポート。
文=對馬拓
写真=井上恵美梨
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01 / MoritaSaki in the pool
Riku Ishihara(Gt. Vo.)
Natsumi Heike(Ba. Vo.)
Taiga Ninomiya(Gt.)
Maki Shibata(Dr. Cho.)
あの水色のジャケットを手にしてからそう経たないうちに、しかもRingo Deathstarrの前座としてライブを目撃することになるとは想像もしていなかった。MoritaSaki in the poolという、風変わりな名前で塩素系シューゲイズをかき鳴らすこのバンドは、京都で活動する4人組で、メンバーにモリタサキがいるんだろうと一度は思うが、いない(実在はするがバンドにはいないらしい)。
晩夏の暮れ、プールサイドに吹き抜ける涼風、はためくネイビーのスカート、喪失の匂い。1st EP『This is a Portrait of MoritaSaki.』を聴いてそんなイメージを抱いていたが、やはりライブではガラリと印象が変化する。音源ではどこかにいる“MoritaSaki”を通過した、架空の夏の風景のようなものが喚起されるが、ライブではプリミティヴに躍動するアンサンブルを通して、“MoritaSaki”というアイコンのイメージを別次元で構築していく、その過程を目撃しているような感慨深さがあった。
MCでは、この公演が誕生日のちょうど当日だったRiku Ishihara(Gt. Vo.)が持論を展開していたのも印象的で、普段のライブでは哲学的な話を長々とするらしい(この日は持ち時間も短かったため演奏を優先)。「曇りの日はThe Beach Boysしか聴く音楽の選択肢がなくなる」という理由で、その選択肢を増やしたいという意味合いもあった新曲「She died under the bridge」(当日リリースされたばかり)を披露、ほのかな塩素の香りをステージに残して4人は立ち去った。全5曲と短い時間ながらも、バンドの存在感を確かに印象づけていたように思う。
MoritaSaki in the pool / setlist
1. September
2. She set under the bridge
3. For Jules
4. Ivy in NavySkirt
5. She died under the bridge
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02 / cruyff in the bedroom
Hata Yusuke(Vo. Gt.)
Sannohe Shigekazu(Gt. Vo.)
Hironaka Hideyuki(Ba. Cho.)
Imai Takamasa(Support Dr.)
やはり“雄大な獣”と形容するのが正しいのだろう。いつもながら堂々たる佇まいで登場したcruyff in the bedroomは、まず『HATE ME』の冒頭を飾る「HATE」からいきなり突っ走りだす。そのままアルバムの流れを汲む形で「the shade」を披露、フロアを埋め尽くす轟音の中を、力強くも軽快なドラムが跳ねていくようだ。
4曲目では、Ringo Dearhstarrのエリオット・フレイザー(Vo. Gt.)とダニエル・コボーン(Dr.)が登場し、特別編成の「sunflowers bloom in dark」で会場を湧かせた。お互いに顔を見合わせて笑う様子が印象的で、ドリーミーで丁寧に紡がれるサウンド・スケープと呼応するような多幸感が会場を包んでいくのが肌で分かった。去り際に肩を組むエリオットとハタ(Vo. Gt.)の姿は、何度も共演し密な関係を築いてきたことを窺わる。久々の来日ともあって、感慨もひとしおというものだろう。まだまだ元通りとは言い難い情勢ではあるが、盟友どうしの再会は素直に嬉しい。
その後も、うねるグルーヴとボトムが深いアンサンブルによって放たれる太い轟音でもって、彼らなりのRingo Deathstarrへのもてなしをするようなライブが続いていった。ギターの音は、水槽に落とされた絵の具をかき混ぜるような具合で鮮やかさを加えていく。オリジナル・シューゲイザーの影響が色濃い「loved」や「honeymoon hotel」など初期の名曲を経て、特に終盤で披露された「cry」は、心なしかいつもよりも力が入っていたようにも感じた。動き回るベース・ラインに自然と身体も揺れる。
ラストは壮大な景色が目前に広がる「ukiyogunjou」。cruyff in the bedroomは来年で25周年を迎えるが、そのキャリアを如実に物語るような懐の深さも感じられる。さて、バトンは渡された。
cruyff in the bedroom / setlist
1. HATE
2. the shade
3. life is a gas
4. sunflowers bloom in dark (with Elliot & Daniel)
5. die die die
6. loved
7. honeymoon hotel
8. clear Light, white Cloud
9. cry
10. plastique bag
11. ukiyogunjou
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03 / Ringo Deathstarr
3人のカムバックを歓迎しない者はいなかったはずだ。エリオット・フレイザー(Vo. Gt.)は「私たちはここにいてとても幸せです」と日本語で気持ちを伝えてくれた(一時期エリオットは日本語を勉強していた)。もちろん僕らも同じように、いや、それ以上に幸せだと言わせてほしい。Ringo Deathstarrはパンデミックに突入する直前──2020年にも来日しているが、もう随分と遠い過去のような心地さえする。様々なものを越えて今日という日があるのだと実感した。
ライブは『SPARKLER』収録の「SWEET GIRL」から少しずつギアを上げていくように始まった。3曲目の「Two Girls」に差しかかった頃にはもうフロアは出来上がっていたように思う。轟音の狭間から浮かび上がるアレックス・ゲーリング(Vo. Ba.)のヴォーカルに酔いしれる。
それにしても、こんなにも荒々しかっただろうか。エリオットはギャンギャンと乱高下するギターを好き放題に弾き倒すので、そこら中がフィードバック・ノイズの海になってしまう。アレックスも涼しい顔で太い低音を出す。しなやかな、艶と闘志を宿したようなプレイだ。そこへ、ダニエル・コボーン(Dr.)のドラムがバチバチとキマるのでもうノックアウトされる。Ringo Deathstarrのライブには、曲と曲をシームレスに繋げようという意識はあまり感じられない。一つ一つの曲を、一つずつ、淡々と進めていく。その分、スイッチを入れたり切ったりを繰り返すような強いコントラストを現出させる。まるで「曲と曲の間で息を吸っておいてくれ、またしばらく潜るから」とでも言わんばかりだ。キラー・チューン「Heavy Metal Suicide」の重心低めのグルーヴや、「Gazin’」のスイングするトレモロ・ギターと踊るようなベース・ラインは、そんな潜水の中盤における高波のようなハイライトだった。
しかしラスト2曲はそれ以上に、とにかく圧巻だった。ドリーミーな4AD的イントロから不釣り合いなほどヘヴィーなギターが雪崩れ込む、その歪さが美しい「Cotton candy clouds」で、まずは昇天寸前の夢想状態と化す。現時点での最新アルバム『Ringo Deathstarr』の最終曲にして、ライブにおいても重要な位置を占めていることを改めて感じた。そこから、大きくグラインドするダイナミックなギターから始まる「Tambourine Girl」への流れは犯罪的で、イントロの終わりからテンポ・チェンジして突っ走るドラムに身体ごと持っていかれる。ああ、やっぱり求めていた感覚はこれだったんだと、2年以上ぶりの答え合わせをした。
アンコールでは、エリオットが再び日本語を披露。「エリオット」「アレックス」「ダニエル」としっかり日本語の発音でメンバーを紹介し、その場を湧かせた。そのまま『Pure Mood』を代表する名曲「Guilt」に突入。蠢くようなベースもそうだが、ヘヴィーに駆け抜けるギターといい、重機か何かみたいに打ちつけられるドラムといい、Ringo Deathstarrの魅力がとにかく詰め込まれている。これ以上ない最高の〆で、大盛況のうちにライブは幕を閉じたのだった。
Ringo Deathstarr / setlist
1. SWEET GIRL
2. DOWN ON YOU
3. Two Girls
4. Kaleidoscope
5. STARRSHA
6. SWIRLY
7. Heavy Metal Suicide
8. Lazy Ln
9. Gazin’
10. Naver
11. In your arms
12. God’s Dream
13. Stare at the Sun
14. Cotton candy clouds
15. Tambourine Girl
En. Guilt