Posted on: 2021年4月22日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

■ Label – Self Released 
■ Release – 2021/02/10 

イスラエルのハイファを拠点に活動するMazeppaの1stアルバム。彼女たちを「フィメール・ヴォーカルの四人組」以外の言葉で形容するのはいささか難しい。この作品に溶け込んだエッセンスを注意深く抽出すると、彼女たちの音楽的素養の豊かさに驚く結果となるからだ。

その事実は、冒頭の「Arms」を聴けばすぐに垣間見ることができる。イントロを飾る繊細かつサイケデリックなレイヤード・ギターはシューゲイズ的だが、終盤で加速するテンポと鋭いシャウトはポストパンクに由来するものだろう。その後も、エキゾチックな音像と流麗で呪術的なヴォーカルが印象的な「The Way In」、ピアノに乗せたポエトリーリーディングで幕を開ける「Sunset」、ダブ〜レゲエの要素を感じる「Solitude」など、次々と表情を変えていく。アルバム全体を俯瞰しても、壮大な曲展開を志向する様はプログレ的であり、耽美的なアートワークが示すドリーミーなムードは4ADのバンド群とも共鳴する。知れば知るほど、実に多角的な視点が用意されたアルバムだ。鏡の壁で構築された迷路のようでもある。

本作の深部に触れるためには、オーストリアの詩人であるライナー・マリア・リルケの存在を考慮する必要がある。bandcampの説明文によれば、ヴォーカル/ギターのMichal Pérez Noyはリルケの詩にインスパイアされており、彼の詩を元とした楽曲を制作するためにバンドを始めたという。事実、アルバムの歌詞にはリルケの名前がクレジットされており、「Mazeppa」というバンド名も彼の「Strom」という作品に登場する英雄(どうやら実在したらしい)の名前が由来となっている。「The Way In」のMVで図書館(のような場所)が登場するのも、そういった文学的背景を踏まえれば自然なものだろう。

つまり、Mazeppaの多様な音楽性は、物語を聴覚的に表現しようとしたところに大きく起因しているのだ。プログレッシヴな曲展開や、ジャンルレスで縦横無尽ともいえるスタイルに至ったのは、ごく自然な流れだったと推察する。そして特筆すべきは、一見すると点と点に思えるそれらの音楽的要素も、Mazeppaの手にかかれば線で繋がり、形容しがたくも美しい模様を描く、ということだ。放たれた音の光線は鏡の迷宮で乱反射を繰り返しながら、複雑な形を浮かび上がらせる。その様は、覗く角度によって異なる表情を見せる万華鏡さながらである。

文=對馬拓