1991年にリリースされ、シューゲイザーの金字塔を打ち立てたMy Bloody Valentineの2ndアルバム『Loveless』。2021年で30周年を迎える本作を記念し、弊メディアでは「My Best Shoegaze」と題した特集記事を不定期で連載する。SNS上の音楽フリークやライター、さらにはアーティストに至るまで、様々なシューゲイズ・リスナーに各々の思い入れの強い作品を紹介していただく。
Vol.2は、弊メディアでの執筆や、短歌同人「天蓋短歌会」などでも活動する、鴉鷺の5枚。
■ Nothing – Tired of Tomorrow(2016)
Label – Relapse Records
Release – 2016/05/13
近年盛り上がりを見せる主にハードコア・パンク文脈の、所謂ヘヴィー・シューゲイズと出会うきっかけになったバンドの名盤。最初期の宗教色が強い『Downward Years to Come』からソリッドな骨組みを強調する『Guilty of Everything』を経て、インディー・ロック的なある種の清涼感を獲得した今作という流れに、優れたバンドに通底する作風の変化、というよりは進化が垣間見える。ドラマティックな「Fever Queen」で幕を開け、ピアノとストリングスが流麗な「Tired of Tomorrow」で幕を閉じる完璧な56分。ハードコア・シューゲイズの歴史的名盤。
■ 死んだ僕の彼女 – hades (the nine stages of change at the deceased remains)(2015)
Label – n_ingen record
Release – 2015/06/03
現行の国産シューゲイザーの中では特に愛聴している作品。多様なヘヴィー・ミュージックの影響が色濃い死んだ僕の彼女の傑作であり、恋人の死から完全な消失までを描いたコンセプト・アルバムであり、それと同時に国産ヘヴィー・シューゲイズの金字塔でもある。死と消失という主題も含め、全体的に悲愴感やゴシックなムードが漂う作風も個人的な嗜好に合うし、その要素がキャッチーな楽曲の中で展開される所にシューゲイザーとしての美しさを感じる。
■ Holy Fawn – Death Spells(2018)
Label – Whelmed Records
Release – 2018/09/14
アメリカ産ブラックゲイズの傑作。恐らくペイガン・ブラックメタルの影響下にあるバンドで、そこから来る異教の神々への信仰やシャーマニックな高揚感を感じる。美しいクリーン・パートと涜神にも似た祈りを感じるデスヴォイスの対比が鮮烈で、楽曲の叙情と完成度の高さも相まって聴くたびに揺さぶられる一枚。
■ Sore Eyelids – avoiding life(2019)
Label – Tokyo Jupiter Records
Release – 2019/11/22
エモ・シューゲイズのダークサイドを彩る2019年リリースの名盤。中心人物のメイン・プロジェクトであるSuis La Luneが展開する、どこか柔らかさを感じる旋律を重んじた激情系の影響がダイレクトに反映されていて、そこからAmerican Football的で繊細な叙情に寄せたうえでシューゲイザーの精神性を獲得した作風というか、流麗とシューゲイザーの夢想と激情が交錯する凄まじい一枚。個人的にエモ・シューゲイズのベストに挙げたい作品。
■ MALIKLIYA – 誄:condolence(2019)
Label – Self Released
Release – 2019/12/31
国産ブラックゲイズの名作。Bandcampでの偶然の出会いが記憶に新しく、AlcestやDeafheavenの文脈とも全く違う独創的な音楽性に衝撃を受け、急いで音源を注文した作品。例えば山本タカトの作品を想起するような、ゴシックで終末的な作品世界がどこまでも美しく、特に序盤の「葬:Burial」から「Wraith」への高揚感や、終盤の「月ガ水面二落チル夜ハ:Moonfall」の得難い感覚はこの作品でしか味わえないだろう。
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文=鴉鷺(Sleep like a pillow 執筆)
編集=對馬拓
Author
- 大阪を拠点に活動する音楽ライター/歌人/レーベル主宰者。Sleep like a pillowでの執筆や海外アーティストへのインタビューの他、遠泳音楽(=Angelic Post-Shoegaze)レーベル「Siren for Charlotte」を共同オーナーとして運営し、主宰を務める短歌同人「天蓋短歌会」、詩歌同人「偽ドキドキ文芸部」にて活動している。好きなアニメはserial experiments lain、映画監督はタル・ベーラ。