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1991年にリリースされ、シューゲイザーの金字塔を打ち立てたMy Bloody Valentineの2ndアルバム『Loveless』。2021年で30周年を迎える本作を記念し、弊メディアでは「My Best Shoegaze」と題した特集記事を不定期で連載する。SNS上の音楽フリークやライター、さらにはアーティストに至るまで、様々なシューゲイズ・リスナーに各々の思い入れの強い作品を紹介していただく。
Vol.5は、音楽ZINE『痙攣』の編集長として注目される、李氏の5枚。
■ Aphex Twin – Selected Ambient Works 85-92(1992)
Label – Apollo Records
Release – 1992/11/09
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いきなりこれをジャンルの名作として提示することに面食らう読者もいるかもしれない。しかし1曲目の「Xtal」に耳を澄ませてほしい。漠としたノイズのレイヤーが重なり合いながら美しく幻想的なムードを醸し出し、奥のビートがアンビエンスに確かな律動を与える。その聴き味はまさしくシューゲイザーのそれだ。そもそもジャンルの祖であるMy Bloody Valentineの代表曲「Soon」がUKダンス・ミュージックにおいて高く評価され、Slowdiveが後のエレクトロニカに与えた影響を鑑みても、電子音楽とシューゲイザーの間には浅からぬ関係がある。シューゲイザーの一つの可能性としてこのような音楽的実践を捉えることは決して無意味ではない。
■ Sweet Trip – Velocity: Design: Comfort(2003)
Label – Darla Records
Release – 2003/06/10
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電子音楽とシューゲイザーと言えば、このグリッチポップの傑作を挙げねばならないだろう。2000年前後のIDMといった当時の最先端の潮流に大きく影響を受けたその作風は、さながらラップトップ化したシューゲイザーとも言うべきものであり、事後的な編集によって切り裂かれ再配置された独自のサウンドは今聴いても新鮮な発見に満ちている。加えて今年発表された12年ぶりのアルバムも大変な傑作なので本作と合わせてチェックしてほしい。
■ Low – Double Negative(2018)
Label – Sub Pop
Release – 2018/09/14
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1993年に結成され、当初はスロウコアの名手として知られていたLowはアルバムごとに作風を変えていき、2018年作『Double Negative』に至って激烈かつ寂寥な独自のノイズ表現を携えて、現行のレジェンドとしての評価を確かなものにするに至った。そんな彼らのキャリア何度目かの画期とも言える本作だが、シューゲイザーとも通底するノイズサウンドの徹底した無表情さは凄まじく、無駄な情感がないという意味においてシューゲイザーのオリジンにして歴史的名盤であるMy Bloody Valentine『Loveless』のある種の性質を継いだ数少ない傑作の一つとすら言えるだろう。
■ Deafheaven – Sunbather(2013)
Label – Deathwish
Release – 2013/06/11
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今現在に続くブラックメタルとシューゲイザーの蜜月の一つの到達点にして金字塔である。荘厳ささえ感じさせるギター・ノイズがそこかしこで炸裂する中、ボーカルのGeorge Clarkeの絶叫が鳴り響く神聖さと暴力性が同居する美しいシューゲイズ・サウンドはPitchforkで「Best New Music」を獲得し高く評価されるなどメタルリスナーのコミュニティの枠を超えて受容された。エレガントな絨毯爆撃とも言うべきその音楽性はシューゲイザー・ファンにとっても必聴のそれである。
■ スピッツ – 名前をつけてやる(1991)
Label – ポリドール
Release – 1991/11/25
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90年代初めのオルタナやシューゲイザーといった当時最先端のロックの動向を抑えつつも、それらとはまた異なる道を歩んだ、日本を代表する名バンドの初期の大傑作。本人曰く「ライド歌謡」を目指したという本作のギター・サウンドは、全体の音圧が比較的弱くどこか可愛らしささえ感じさせる一方で、表題曲や「プール」に表れているようにそのテクスチャーは完全にシューゲイザー以降のそれである。いわば音圧なきシューゲイザーというべき本作は、数ある国内外の名盤と比べても独自の音楽性を持っていると言えるだろう。
* * *
文=李氏(音楽ZINE『痙攣』編集長)
編集=對馬拓
Author
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