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1991年にリリースされ、シューゲイザーの金字塔を打ち立てたMy Bloody Valentineの2ndアルバム『Loveless』。2021年で30周年を迎える本作を記念し、弊メディアでは「My Best Shoegaze」と題した特集記事を不定期で連載する。SNS上の音楽フリークやライター、さらにはアーティストに至るまで、様々なシューゲイズ・リスナーに各々の思い入れの強い作品を紹介していただく。
Vol.9は、シューゲイザー・バンド、ノウルシのフロントマンとして活動する、タジリシュウヘイの5枚。
■ Astrobrite – whitenoisesuperstar(2007)
Label – Vinyl Junkie Recordings
Release – 2007/04/11
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フィードバックから徐々に音が迫ってくる、ギターのリフや印象的なドラムのフレーズの後に轟音がやってくる、そういうアレンジはシューゲイザーに多いですが、このアルバムは一曲目の一音目から全力でぶん殴ってくれます(音量に注意)。オールナイトのライブイベントを観た帰り、友人に勧められたこのアルバムを始発の人影疎らな電車内で何の気なしに再生した瞬間、文字通り飛び上がったのを今でも覚えています。笑ってしまうほどの轟音。ノイズの海。「Whitenoisesuperstar」──なんて潔く、一切の衒いもないネーミングなのでしょうか。その凄まじいノイズは大瀑布を覗き込むかの如く、心地良い清涼感と深い瞑想効果があります(当時眠気のピークだっただけ、ではないはず)。
■ Mumrunner – Valeriana(2020)
Label – Shelflife Records / Rimeout Recordings
Release – 2020/06/10
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フィンランドのシューゲイザーバンドによる1stアルバムで、2020年にリリースされました。メランコリックなメロディと、ひんやりしつつも疾走感のあるサウンドが特徴で、既存のシューゲイザーをしっかりと踏襲しつつもその音像はとてもクリア。世界のドリームポップ/シューゲイザー・ファンにも高く評価されている印象ですが、各パートがそれぞれ印象的なフレーズで楽曲を引っ張っていくアレンジは上手に引き算がなされており、単なる懐古趣味に留まらない、現代的にアップデートされたオルタナティヴ・ロックとしても優秀だと思います。個人的には彼らのように、シューゲイザーを通過しつつ自分たちなりに解釈/再構築した二世、三世のようなバンドはとても好きですね。
■ きのこ帝国 – ロンググッドバイ(2013)
Label – UK.PROJECT
Release – 2013/12/04
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日本のシューゲイザーを語る上で欠かせないバンドはいくつかいますが、きのこ帝国もその一つでしょうか。近年シューゲイザー的な手法を取り入れるバンドは多いですが(僭越ながら弊バンド、ノウルシもその一つです)、何度かあったブームの起点の一つでもあると思います。後にポップスへ接近しますが、『ロンググッドバイ』は前作までのシューゲイザーやオルタナティヴ・ロックの要素とポップネスの融合具合が素晴らしい名盤です。聴く人の嗜好によって初期派、後期派に分かれがちなバンドですが、どちらからも高く評価される本作は普遍的な魅力を持っていると言って良いでしょう。メロの良さ、声の良さが軸にあるからこそ、サウンドで遊んでも歌ものとして破綻しない。僕が思い描く理想の一つの形です。
■ Sigur Rós – Takk…(2005)
Label – Geffen Records
Release – 2005/09/12
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もはや説明不要の孤高の存在。正直、シューゲイザーやドリームポップといったジャンルの枠だけで彼らを語るのは極めて困難です。ポストロック的なバンド・サウンドから荘厳なオーケストレーションまで、実に多彩なアプローチで世界を拡張し続けています。彼らをシューゲイザーの文脈で語るとすれば、特筆すべきはやはりそのサウンドから匂い立つ極北の風。目を閉じれば北欧の広大な大地が広がります。僕個人はシューゲイザーを定義する上で非常に重要なのは「陶酔感」だと思っているのですが、このアルバムはまさに極上。圧倒的なスケールでどこまでも広がるツンとした冷たい空気と、そこに秘められた温かな希望と祝福。極寒の地で暖炉に辿り着いた時のような震えと共に感動がじんわりと広がります。
■ matryoshka – Laideronnette(2012)
Label – Virgin Babylon Records
Release – 2012/12/12
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ジャンルとしてはシューゲイザーではないのですが、Sigur Rósから地続きの極北を想起させる一枚として挙げました。皆さんは静けさのあまり耳が痛くなったり、息苦しさを覚えた経験はないでしょうか。シューゲイザーの轟音は「音の壁」とも表現されますが、matryoshkaは密度の高い静けさの壁で僕らを圧倒します。鳴っていない音が聴こえる、とでも言いましょうか。夏の夜の湿った空気とイヤホン越しに聴こえる微かな虫の声。あるいは冬の夜、凍てつくような寒さと白い吐息。そうした肌感覚とピアノやストリングスの余韻が溶け合い、甘い陶酔感をもたらします。そこへ焦らすようにじわじわと迫り上がる音の洪水。その美しいダイナミズムからは、確かにシューゲイザーの香りがするのです。
* * *
文=タジリシュウヘイ(ノウルシ)
編集=對馬拓
Release
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■ ノウルシ – 結晶標本
Label – Self Released
Release – 2021/07/14
Author
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