■「だって好きなんだからしょうがないじゃん」が全てなんですよ
-『FLOWERS』はTHE NOVEMBERSの小林祐介さんがプロデュースを手がけて、小林さんとの共作の楽曲もあったりしました。その制作で得たものは、今作ではどう影響していますか?
音楽的なことで言えるのは、サウンド・メイキングによって言葉とメロディを誰かの心にしっかり届くようにするにはどうすればいいのか、という技術をたくさん得ました。でもそれ以上に、どういう風にすれば、バンドのメンバーや周りのスタッフと共鳴しながら生きていくことができるのか、ということも教えてもらいました。THE NOVEMBERSってずっと同じメンバーでやってきていて、それは奇跡に近いことだと思うんです。きっとみんな、バンドが続くために、時には我慢して、時には突っ込んだりしているはずで。そういうことも必要だって教えてもらった。それが、以前よりバンドがしっかり前を向けている理由ですかね。彼から得たものはすごく大きかったと、今回の制作で感じました。
- サウンド以前に、バンドとしてかなり成長した面があるんですね。
小林さんとは好きな音楽も近いし、彼からも多大な影響を受けているので、pollyはTHE NOVEMBERSに似てるって言われることも多いんですけど。でも、歌っている人も演奏している人も違うし、本質的なバックボーンも違うと思うので、似てると言われようが僕らはTHE NOVEMBERSが好きだから、それは仕方ないと思いながらやっていけるようになったというか。前は「似てる」って言われたら反抗してたと思うんですけど、今はそう言われるのも理解しながら音楽ができているので、そこまで肩に力を入れずに済んでいるかな。
- 以前より自分の影響源を出すことに抵抗がなくなった、と。
そうですね。もう単純にやりたいことをやる。ネガティブな感情をサウンドに落とし込むのが一番汚いと思ったので。好きなものは好きなんだから仕方ない。
- 大事なことだと思います。「パクりだ」とか、「これ聴くなら元のやつ聴いた方がいいじゃん」みたいな言説ってあんまり良くないなと思っていて。上辺だけを聴いて、ちゃんと知ろうとしていない感じがするんです。難しいところでもあるとは思うんですけど。
バンドっていうフォーマット自体がすでに「パクり」ですからね。笑 だからもう気にしなくなった。好きなものは好きなんだから、ちゃんと出していくのが本来の音楽の形だし、それが「音楽愛」だなって。隠す必要がないんですよね。「だって好きなんだからしょうがないじゃん」が全てなんですよ。笑
- 例えば、Luby Sparksが4AD直系の路線を打ち出したり、SPOOLもART-SCHOOLやTHE NOVEMBERSとか、影響源にリスペクトを込めてストレートに表現するっていうスタンスで。そういう「好き勝手やる」っていうのが、もっと広まったらいいなと思うんですよね。
本当に、それが本来の音楽だと思います。しかも、影響を受けたとしてもそれ自体には絶対ならないじゃないですか。なのに、さらっとイントロだけ聴いて「似てる」とか言ったりする。本来の音楽の形が失われている現状は嫌ですね。それこそLuby SparksもSPOOLも、もっと評価されなくちゃいけない。僕らも、もっと評価されてもいいんじゃないかって。尖った言い方ですが、日本のメジャーレーベルはもっと敏感になるべきだと思います。今の音楽シーンって、移り変わりが激しすぎるじゃないですか。もっと音楽に対してのフォーマットはたくさんあっていいのに、決められた位置に新しいバンドが入ったら古いバンドは入れ替わっていなくなる、っていう状況が続いている。そういうバンドにはなりたくないです。だから、羊文学がメジャーレーベルから作品を出すことに対しては、すごくいいことだなって。今までと変わらないことをメジャーでもやっていくことは素敵だなって。
- pollyも自主レーベルを立ち上げて、自分たちの場所で「好き勝手」に活動していくことは、とても意味のあることなのかなと。
そのために自主レーベルを立ち上げたと言ってもおかしくはない気がします。
■ 悲しいことだと思っても、それすらも与えられた感情なのかもしれない
-『Four For Fourteen』の収録曲について、もう少し詳しく訊かせてください。冒頭の「Slow Goodbye」は、『FLOWERS』で得たものを上手く落とし込んでいる印象なのですが、どうでしょうか。
そうだと思います。テーマとしては、ちゃんと歌を大事にしつつ、サウンドで遊ぶっていうのがあって。以前からデモはあったんですよ。『FLOWERS』の制作期間くらいにできた曲だったので、その影響が出ているんだと思います。でも、歌詞の言葉選びは『FLOWERS』の路線にしたくなかったので、自分が日頃思っていることをより分かりやすく書くことを意識しました。
- その歌詞についてですが、「CREA」と似てる気がして。「Crea」はイタリア語で「Create(=創造する)」ですよね。特に「何を 見る 知る 得る 取る 食う 描く/それら全て神の創造物」という歌詞が印象的なのですが、「Slow Goodbye」にも「きっと僕ら/誰かの作り物だろう」という一節があって、テーマが似てるというか。自分の存在が「フェイク」だと感じるような瞬間があったりするのでしょうか。
僕は日頃からそういう風に思って生きてきました。音楽だけじゃなくて、映画とか小説も誰かの創造物だし、僕らは色々な作品から影響を受けながら活動しているので、元をたどると絶対そういうところに着地すると思ったんですよ。僕がもし明日事故で亡くなったとしても、それは決められていることで。それが悲しいことだと思っても、それすらも与えられた感情なのかもしれない。ノスタルジックに思うのもそうだし、未来に向けて何かをしていきたいっていう気持ちもそうだし、誰かと出会って別れることもそうだし。寂しいですけどね。笑
- 越雲さん自身の人生観がそれほど色濃く反映されていたとは。
そういう、自分が思っていることを赤裸々に出すことが今作のテーマでした。
■ クリアな時代じゃないならクリアじゃないものを提示することも僕らのやるべきこと
- 個人的に、ポストパンク直系の「CREA」はとても好きです。ライブで爆音で聴きたいですね。
実際、僕以外のメンバー三人は「CREA」をリード・トラックにしたいって言ってました。ライブでも何回か演奏したんですけど、お客さんの評判もいいです。ライブ映えもするし、言いたいことも言えてる曲。
- 今年はGEZANとか、それこそTHE NOVEMBERSとか、トライバルな感じだったり、時代と呼応するような瞬発力や爆発力のある新譜が多い印象で。そこに近いものを「CREA」に感じたりもしました。
「CREA」はThe 1975の「People」にすごく影響を受けていますね。瞬発力もありつつ爆発力もあって、悶々とした時代だからこそ、音楽家が感情を爆発させることよって、聴いている人が解放されたりするのかなと。単純に本人たちが解放されたかったのかもしれないです。
- そういう意味では、リアレンジされた「狂おしい」もポストパンク感が強く、同じ流れの上に感じます。
「CREA」や「残火」の伏線ですかね。ドラムとベースで引っ張って、爆発力もある曲。僕はノイズ・ミュージックも大好きだから、ノイズにもこだわっています。今作に入ってるノイズは楽器ではなくて、全て生活音から作ってるんですよ。
- えー! そうなんですね…!
生活音から作ることで、自分の生活の延長線上にある音楽になったので、それが良かった。「刹那」とか、リアレンジの曲に入ってるホワイトノイズも、生活音にエフェクトをかけながら作っていったので。より自分に近い音楽になった。
- とてもおもしろい試みですね。
こういう風に説明してもよく分からないとは思うんですけど。笑 でも、そこがこだわりで。楽器で出すノイズよりも、生活音を録音して作るノイズの方が、本来の「音楽的」というか。
- 今はノイズが多い時代ですしね。
うちのベース(須藤研太)が前にTwitterで「この作品は2020年の音楽である」みたいなことを言ってたんですけど、それはすごい本意だと思っていて。ノイズにまみれた時代だからこそクリアなものを出す美学もあると思うんですけど、クリアな時代じゃないならクリアじゃないものを提示することも僕らのやるべきことで、それがちゃんとできたかなと。
- 本当にこの時代、2020年だからこそ生まれた作品という感じがしますね。
もっと平穏な時代だったら、そういう音を出していたかもしれないです。
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