2021年1月31日。渋谷WWWにて、pollyのワンマンライブ「Fourteen House」が行われた。
コロナ禍における二度目の緊急事態宣言が発出され、ライブ自体が難しい状況ではあったが、有観客とストリーミング配信という形態で無事開催。入場できる観客数を制限するなど厳しい体制の中でも、高い美意識が表出したVJでの演出がなされるなど、気合の入ったライブとなった。
また、配信の映像はpollyのMV制作でも知られる番場秀一監督が担当し、単なる配信にとどまらない映像作品としての価値も高いものとなった。
この記事では、渾身のパフォーマンスの一端を伝えるライブ写真と共に、当日の様子を振り返っていきたい。
文=對馬拓
写真=梅田厚樹
時計の音を思わせる現代音楽的なSEと共に登場したpollyの四人。コロナ禍で止まっていた時間が、このライブでまた動き出すような高揚感に包まれていく中、『Four For Fourteen』の冒頭を飾る「Slow Goodbye」のイントロが流れ出した。
pollyの数あるレパートリーの中でも、特に繊細で切実なイメージの強い楽曲だが、実際にライブで体感すると、低音の響きや全体のアンサンブルが想像以上にダイナミックであることに気づく。何より、懸命に歌を届けようとする越雲龍馬(Vo. Gt. Pg.)の姿が目に焼き付いた。
そのまま『Four For Fourteen』の流れを再現するように披露された「残火」では、越雲はギターを置き、ハンドマイクでステージを動き回りながら歌い始めた。低域を這うようなヴォーカルで冷ややかなリリックを放つ様が印象的だ。
続いて、1月13日にリリースされたばかりの新曲「Laugher」。My Bloody Velentineの『Loveless』リリースから30周年となる2021年に、彼らなりのシューゲイザーへの愛を込めたこの楽曲で、一気に会場を轟音に染め上げる。須藤研太(Ba.)と高岩栄紀(Dr.)による攻撃的なリズム隊、その上で飯村悠介(Gt.)が弾き倒す鮮やかなギター。目の前で放たれる瞬発力と爆発力が実に痛快だ。余韻を残さない終わり方も潔い。
「知らない(somewhere)」では、トレモロアーム奏法(アームを握ったままストロークする奏法)で独特な揺らぎを生み出し会場を包み込んでいく。繊細さと豪快さの激しいコントラストに聴覚を奪われる。しゃがみこむようにギターをプレイする越雲の姿に胸が熱くなった。
互いに笑顔を見せ合うなどライブを楽しんでいる様子が伝わってきたインスト曲「14HOUSE.」を経て、その多幸感を受け継ぐように披露された「ヒカリ」。美しいハイトーン・ヴォイスとその余韻に酔いしれながら、この日最初のMCへ。
「pollyです、よろしくどうぞ」越雲が切り出した。「良かった、無事に開催できて」と厳しい時世の中でもステージに立てた喜びを伝える。「皆さんが僕らの音楽を楽しみに待っていてくれたことが、僕らpollyにとってはすごく嬉しいなと思っております。昨日は子供の頃の遠足の前日のような気持ちでした」と笑顔を見せた。
ここからは、終始じっくりと歌を届けるようなセットリストを展開。まず、ギターを置いたままスタートした「言葉は風船(hope)」。
「いつも言葉は風船のように脆くて怖いな」 って思った時には遅くて僕を狂わせる 言葉は風船のように パチリって割れちゃって痛みを見せるのだから ──「言葉は風船(hope)」
言葉を持ってしまった人間にとって普遍的な葛藤を歌った楽曲だが、昨今のSNSなどを踏まえると、より重みを増してこちらに投げかけられるようだ。
サビの伸びやかなハイトーン・ヴォイスで惹き込む「花束」、須藤が奏でる艶やかなベースラインが印象的な「泣きたくなるような」、ハンドマイクでのパフォーマンスで魅せる「美しい」、冷たさの中にも温かさが宿る「触れて」を披露し、二度目のMCへ。
「楽しめてますか? 大丈夫ですか?」越雲の問いかけに応えるように、大きな拍手が沸き起こる。「(感染対策で)声とか上げられないからさ、拍手の熱量で伝わったわ。ありがとう…嬉しいです。生きてて良かった」と喜びを噛み締めた。「良い意味で喋ることがないなと思ってて」「この空間があって、観てくれてる人がいて、僕らがいるだけでいいなって思いました。」
そんな想いを伝えるかのように披露されたのは「東京」。まさに、この東京の地でライブができること。あるいは、こうしてライブが観られること。爪弾かれるギターの一音一音にその静かな喜びが込められているような名演だった。
インスト曲「ROOM」経て始まったのは「刹那(canon)」。ドリーミーなサウンドとハイトーン・ヴォイスが放つ冷気を肌で感じることで、改めてpollyの音楽が冬の空気感に合うことを再認識した。
ここから終盤にかけてのセットリストは、ダイナミズムを増すように展開していく。『Clean Clean Clean』の冒頭を飾るpollyの代表曲「生活」をじっくりと披露するや否や、その雰囲気を突き破るような轟音で始まった「バースデイ」で、会場は一気にダークな世界へといざなわれる。越雲がトレモロアームによって生み出す浮遊感が怪しげに光り、飯村のギタープレイにもまた一段と熱が入る。
間髪入れずに始まった「狂おしい(corruption)」では、高岩が怒涛の高速ハイハットで攻め立てる。飯村が奏でる乾いたギターもクールで、越雲と向かい合い、せめぎ合うようにプレイする場面もあった。ラストの爆音に包まれる中、ギターを頭上に掲げる越雲の姿はこの日の大きなハイライトの一つだろう。まさに、内なる激情を解き放つようなエネルギーに満ちたパフォーマンスだった。
「最後です。今日はありがとうございました。pollyでした」という越雲の一言から始まったのは「CREA」。全身全霊で放たれるサウンドがもたらすカタルシスに身を任せるうちに、本編は終了。この日何度も披露してきた越雲のハンドマイク姿も、ギターを提げるだけではない新たな表現方法を完全に自らのものにしたことを印象付けるようだった。
アンコールでは、一人ステージに戻ってきた越雲が「ありがとうございます。とても楽しかったです」と感謝を告げ、コロナ禍において思うように活動できなかった昨年を振り返りつつ、「ライブができて、幸せだと本心で思います。」と想いを伝えた。
「最近、短い命を落としそうになった瞬間があって、その時そばにいる大事なものがあり続けることは幸せの連続なんだなって気付きました。」そんな一言から披露されたのは、『Four For Fourteen』のラストを飾る「点と線」。
いとおしいことがむなしい 愛の形は三角です 尖った先で突いて ぼくらを生かすけど ──「点と線」
苦しみながら、痛みを知りながら、それでも愛をもって生きるということ。そんな決意に似た何かを感じたような気がした。
やはり、生のパフォーマンスから得られる体験というのは、何にも変え難いものがある。ここまで言葉をもって、ライブレポートという形の文章を綴ってみても、当日の空気感やその場の熱量を伝え切ることは不可能だ。この日、pollyが奏でた音を全身で浴びたことで、その認識はより強いものとなった。ライブは最高だ。
また、静けさと激しさを行き来するpollyのパフォーマンスを目の当たりにし、ライブバンドとしてのポテンシャルの高さを再確認する結果にもなった。この情勢が落ち着き、また彼らがライブで存分に実力を発揮できるようになることを切に願う。
しかし何よりもまず、2020年という激動の年をある意味パッケージしたとも言える作品である『Four For Fourteen』を総括する場が、こうして無事に現実のものとなったことに賛辞を送りたい。そして、彼らはすでに新たなステップへと進み始めている。2021年、pollyの次なる一手やいかに。
【2021年3月16日 追記】
3月14日の21時、「Laugher」のMVがプレミア公開された。
この映像は、本公演の配信を手がけた番場秀一監督が、その模様をMV用に編集したもの。楽曲が持つ爆発力を視覚的に楽しめる作品となっている。
【2021年5月16日/6月14日/7月15日 追記】
本公演の模様がLive Videoとして公開中。5月14日の「狂おしい(Corruption)」に続き、6月14日には「生活」、7月14日には「東京」が公開された。サウンドのミックスは、いずれも越雲が自ら担当。当日のパフォーマンスを鮮烈に甦らせる映像に仕上がっている。
polly one man「Fourteen House」
2021/01/31 Shibuya WWW
setlist:
1. Slow Goodbye
2. 残火
3. Laugher
4. 知らない(somewhere)
5. 14HOUSE.
6. ヒカリ
7. 言葉は風船(hope)
8. 花束
9. 泣きたくなるような
10. 美しい
11. 触れて
12. 東京
13. ROOM
14. 刹那(canon)
15. 生活
16. バースデイ
17. 狂おしい(corruption)
18. CREA
– encore –
19. 点と線