Posted on: 2022年2月4日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

自他共に認める最高傑作、である。pollyにとって3枚目となるフルアルバム『Pray Pray Pray』は聴く者とバンド自身を肯定し、愛について投げかけ、希望を見出そうとする。タイトル通り、まさに「祈り」のような作品だ。

2020年に自主レーベル「14HOUSE.」を設立し、アルバム『Four For Fourteen』をリリース、新境地を開拓したpolly。それから約一年、しっかりと歩んできた結果が『Pray Pray Pray』として実を結んでいる。ともすれば、1stアルバム『Clean Clean Clean』の頃と比べると随分遠くへ来たように思えるかもしれないが、意外にも越雲は『Pray Pray Pray』と『Clean Clean Clean』は近い作品だと感じているようだ。

漠然と生きられなくなってしまったこの時代において、等身大の言葉を紡いで歌うということ。pollyはいかにして『Pray Pray Pray』を生み出したのか──越雲がかつて住んでいたという狛江の街で、フランクに、それでいて嘘偽りなく語ってもらった。

インタビュー/文=對馬拓
写真=梅田厚樹

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イントロダクション

── 今回のインタビューは狛江での実施です。越雲さんが上京して最初に住んだ街が狛江だったと聞きましたが、それはいつ頃の話でしょうか?

2015年の4月ですね。UK.PROJECTのDAIZAWA RECORDSからデビューするのが2015年の6月に決まってて、レコーディングの時はまだ栃木に住んでたんですけど、作品も出すし東京で活動した方が良いなと思って。狛江にした理由も、「川が近い」「アクセスが良い」「不便じゃないけど騒がしくない所」で探した結果です。おすすめの街ですよ。

── 川が近いって良いですよね。僕は今回初めて狛江に来たんですけど、駅を出てすぐに竹林が目に入ってきたのも驚きました。とても落ち着いた雰囲気で住みやすそうな街、という印象です。思い出のスポットはありますか?

僕が住んでた所の目の前に、池がある公園があって、そこでもう何回泣いたか。笑

── 笑

あと「ミートステーション」(狛江駅から徒歩2分の居酒屋)はよく行ってたし、数え切れないくらいあります。ちょっと和泉多摩川の方まで歩くと河川敷があって、そこが『ソラニン』の映画のロケ地だったりもするんですよ。

── マジですか。めちゃくちゃアツいですね。

アツいんですよ。浅野いにおの漫画は学生時代よく読んでました。

── 僕もです。高校生の時に『ソラニン』を読んで、一時期めちゃくちゃ入れ込んでましたね。

好きそうですもんね。というか(漫画に)出てきそう。

── 笑

『ソラニン』面白いですよね。

──「サブカルの聖典」みたいに思われがちですけど、純粋に良い漫画ですよね。それに漫画の実写化って失敗することも多いですけど、『ソラニン』は成功例かなと。

僕もそうだと思います。バンドのモチベーションが下がった時、一人で観ますもん。

「寄り添うこと」ではなく「誰かの先に立つこと」

── では、そろそろ本題に入っていきましょう。まず最初に『Pray Pary Pary』の印象について話すと、以前お会いした際に「次のアルバムはもっとシューゲイザーになる」というようなことを仰ってたと記憶しているのですが、実際はその眼差しを大事にしつつも、歌に重きを置いていると感じました。

多分それはちょうど「Laugher」を作ってた時で、そういうマインドに持っていこうかなと思ってたんですけど、実際に「Laugher」をリリースしたら自分の中で腑に落ちる部分というか、「この曲でそういうマインドは満足しちゃったな」と思って。笑 それに、シューゲイザーは好きなんですけど、それだけをやりたいわけじゃないっていうのを理解できたので、そういう意味でも一つのターニングポイントになったのかなと。

── 確かに、ストレートにシューゲイザーを鳴らすのは「Laugher」とか「A.O.T.O.」あたりでやりきってるのかな、という印象で。

言ってしまえば、「Laugher」はMy Bloody Valentineの『Loveless』のアニバーサリー・イヤー(2021年でリリース30周年)に出したかったっていうのもあるんですよ。だけど、結局「Laugher」はある種の模倣でしかなくて、曲自体はすごく気に入ってるんですけど、別に自分がやらなくても良いかなって。言い方を選ばなければ「誰でもできちゃうな」って思うんですよね。それって、聴いてる人が「別にpollyじゃなくても良いんじゃないか」って思ってしまうことにも繋がる、という危機感もあったんですよ。だから「Laugher」みたいなマインドがアルバムの核になることはなかったです。

── シューゲイザーだけに囚われず、全体的に純粋な美しさへの表現が追求されていますよね。その部分にpollyらしさが出ている気がします。

単にシューゲイザーの曲を作るのは苦労せず簡単にできてしまうと自覚してるので、一回そこから離れて、メロディに関しては僕の好きなJ-POPに焦点をあててみよう、という思いがまずありました。サウンド面についても、単なるシューゲイザーやドリームポップだとつまらないので、そこにヒップホップ系のビートやポスト・ロックの要素を入れても面白いんじゃないか、というマインドになってました。『Four For Fourteen』の時は僕がデモを作ってメンバーに聴かせて、そこで出た意見を飲み込んでまた作り直す、みたいな作業が多かったんですけど、今回は「silence」ができた後にミーティングをして、メンバーの意見を挟まずに一旦0から100まで僕に任せてほしい、って話をして。だから『Pray Pray Pray』は今の自分のトレンドが特に出てるのかなと思います。

── これまで以上にパーソナルな部分が出てる、と。

歌だったり、サウンドとかリリックもそうなんですけど、もう変なプライドがなくなったんですよね。「こう見られたい」みたいなのは──まだ少しはあるんですけど、「どんなおしゃれな服を着るか」というより、スキンケアやダイエットが大事。笑 要は内面というか、どうやっても絶対に変えられない部分をもっと大事にしていこうかなって。

── もう少し作品全体について言及すると、『Clean Clean Clean』の頃と比べると『Pray Pray Pray』はすごく開けている印象で。『Clean Clean Clean』ってかなり密室的なアルバムだったと思うんですよね。でも『Four For Fourteen』あたりから過去曲のリビルドも含めてより外に向かっていく雰囲気があって、今作で完全にパッと開けたというか。

それはすごく自覚的ですね。『Clean Clean Clean』の時って、救いの対象が自分にとっては「半径何十センチの正解」だったんですよ。だけどこんなご時世になって、救いの正体は「寄り添うこと」ではなく「誰かの先に立つこと」なのかなと気づいて。そうでないと生き抜けないような気がしたんですよね。

── より聴き手を意識したことで起きた変化、でしょうか。

だいぶ意識しました。とはいえ妥協したことは全くないんですけど。僕が好きな鬼束ちひろさんの「書きかけの手紙」(2020)っていうシングルがあって、すごく光の見える曲だったんですよ。僕もそういう作品を作りたいなって思いましたね。

── ジャケットの色にしても、『Clean Clean Clean』『Four For Fourteen』『Pray Pray Pray』と辿っていくと、黒から灰色、そして白へとグラデーションのように明るくなっていきますよね。そうやってアルバムを俯瞰して見た時に浮かび上がってくるストーリー性にも惹かれました。

そもそもバンドというもの自体が一つのストーリーですからね。でも、そこはすごく意識的だと思います。『Clean Clean Clean』が完成した時、自分の中の殺した部分と絶対殺してはいけない部分が浮き彫りになったので、そういう意味ではターニングポイントになった作品ですし、そこを大きなスタートとしたストーリーが今に繋がってるのかもしれないです。

『Clean Clean Clean』

『Four For Fourteen』

『Pray Pray Pray』

── 音像の面でも、前作以上に外に開かれている印象で。全体的にパキッとしていて、音の立ち上がり方が全然違うんですよね。というのも、今作のマスタリングを担当したグレッグ・カルビとスティーヴ・ファローンによるものが大きいのかなと。依頼した経緯を知りたいです。

実は、昔からお願いしたいと思ってて。結果的に僕が好きなアーティストを多く担当してることに気づいたんですよね。日本だとGalileo Galilei、plenty、GRAPEVINEとか、海外でもBon Iver、The National、Alvvays、Cigarettes After Sexとかを手掛けてて、今回のマスタリングは彼らにお願いしたいってスタッフにもずっと話してたんです。『Pray Pary Pray』は今までとは違うベクトルのサウンドを目指すために、レコーディングとミックスでエンジニアを変えて、ルーム感ではなく外に開けるようなスケールの大きいサウンドを目指したんですよ。だから出来上がった時に、全ての点が線で繋がったような感覚がありましたね。

── マスタリングとは別に、今作のレコーディングはIvy to Fraudulent Gameの福島由也さんが担当しています。元々交流があっての依頼かと思うのですが、実際に一緒にやってみてどうでしたか?

一言で言うと、本当に素敵なパートナーです。彼とは好きな音楽が一緒で、そういう部分から仲良くなったので、音楽的なDNAが繋がってるんですよね。だから彼に頼んで作品がバッドになることは絶対にない、という確信がありました。

── バンド外部との繋がりでもう少し言うと、「Laugher」はシングルとしてリリースされたバージョンから一新されて、MO MOMAの志水美日さん(ex. LILI LIMIT)がコーラスで参加してますよね。

2020年あたりから志水さんと連絡を取り合うようになって、「いつか一緒にやりたいね」って言ってたんですけど、話していくうちに歌に対しての認識が僕とすごく近いことを知って。何に対して美学を感じていて、何が自分にとってネガティブなのか、っていうところが近くて、それでゲストとして参加してほしいと思ったんです。……これ、言ったら怒られそうな気もするんですけど、「Laugher」って志水さんっぽいなと思うんですよね。憂いがあるけど透明感もある声もpollyにすごく合うなって。結果、最高でしたね。

── 本当にバッチリとハマってますよね。

リモートで録ってもらったんですけど、「こういうふうに歌ってほしい」ってざっくりしかお願いしてなかったのに直すところが一つもなくて。素晴らしいシンガーだなと思いました。

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漠然と生きることができない時代になってしまった