Posted on: 2020年10月15日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

Label – Creation Records 
Release – 1990/10/15 

1988年に英・オックスフォードで結成されたシューゲイザー・バンド、Rideの記念すべき1stアルバム。

轟音ツイン・ギターと清涼感、そして流麗なメロディを引っ提げ、1990年に『Ride EP』(通称『赤ライド』)でCreationから鮮烈なデビューを飾った彼らは、その端正なルックスも相まって人気を博した。以降『Play EP』(通称『黄ライド』)、『Fall EP』(通称『ペンギン・ライド』)と立て続けにリリース。美しいアートワークでも一線を画し、シューゲイザー・シーンを牽引した。そんな彼らがデビューからわずか10ヶ月にして辿り着いた、あまりにも早すぎる到達点であり、初期衝動の集大成となったのが『Nowhere』だ。

凄まじい音圧でただならぬ無敵感を醸し出す「Seagull」で幕を開ける本作は、ノイズ・ギターとドリーミーで美しいメロディを存分に詰め込み、彼らの評価を決定的なものにした。轟音でありながら鮮明に立ち上ってくるような音像は、ミックスを手がけたアラン・モウルダーによるものが大きい。ドラムの残響に導かれ、バーストするギターが脳をトリップさせる「Dreams Burn Down」は、そんな本作の大きなハイライトの一つだろう。一方で、内省的でメランコリアに満ちた「Paralysed」や「Vapour Trail」など、決して轟音の一点突破で終わることなく緩急があり、様々な表情を見せたりもする。

凪の海は青く美しいものだが、荒天下での恐ろしさは底知れない。ノイジーなギターはまるで波のように繊細な揺らめきを見せながら、若さゆえの焦燥感や叙情性、絶妙な機微を描き出し、その衝動は時に津波のごとく炸裂する(ともすれば、アンディとマークのハーモニーは海上を吹く潮風に例えられようか)。ジャケットに映る海は、これから大きな波が起こる直前のものであり、まさにこのアルバムの全てを物語っていると言えるだろう。

初期衝動に忠実でありながら、非凡な美しさと不可逆的な感情表現で高い芸術性を誇り、『Nowhere』は彼らの「青さ」の原点となった。リリースから30年が経過した今なお、シューゲイザー史における金字塔の一角として輝き続ける傑作。

ちなみに、本国イギリスでリリースされたオリジナルのアナログ盤は「Seagull」から「Vapour Trail」までの8曲でリリースされ、CDでは『Fall EP』のカップリング3曲が追加されている。

文=對馬拓