■ Label – Creation Records
■ Release – 1991/09/02
1989年、英・レディングにて結成されたSlowdiveの記念すべき1stアルバム。
Slowdiveの音楽を評する際に「寂寥感」という言葉がしばしば使われるが、『Just for a Day』はその原点にして完成形であろう。耳を埋め尽くすフィードバック・ノイズやレイヤード・ギターの耽美的な調べ、ニール・ハルステッドとレイチェル・ゴスウェルが織りなすコーラスの非凡な美しさ、淡々と、あるいは残酷に歩みを進めていくリズム・セクション。それらの節々に、えも言われぬ哀愁や寂寥、刹那的なものが宿っているのだ。
それもそのはず、まさに秋が訪れんとする9月初旬、このアルバムがそんなシーズナル・チェンジの隙間に落とされた事実をよもや偶然とは思うまい。
夏が置き忘れていった蝉の亡骸、栄えた緑が色を変え徐々に枯れゆく斜陽と退廃、鼻の奥を微かにくすぐる涼風の悪戯。「Catch the Breeze」などに代表される揺蕩うような音像は、過剰とも言えるセンチメンタリズムに焦がれたイメージを浮かべては空気中に溶かしていく。そもそもSlowdiveというバンド名はベースのニック・チャップリンが見た夢に出てきた言葉が由来であり、やがて醒めてしまう夢の夏とその残像に手を伸ばす虚しさ、相反して感ずる終わりゆくことへの心地良さ、それらがゆっくりと降下し、やがて消えゆくあたたかさ--『Just for a Day』は夏/秋のグラデーション、夢/現のコントラストを、見事に重ね合わせる。そして、その幻夢的なヴィジョンは「The Sadman」で終焉を示唆し、「Primal」で一気にはじけ飛んでしまうのだ。いつしか夢想家は季節の循環に閉じ込められたかのように、このアルバムを繰り返し聴き続けることになるのだろう。
文=對馬拓