■ 他のエンジニアさんだったら「無理です」って言われちゃってたかも
── では、作品自体の話に移っていきましょう。個人的に、前作『Into the Dream』はオリジナル世代のクラシカルなシューゲイザーに近い印象がありましたが、今作は所謂ゼロ年代以降のニューゲイザーにも接近したような感触がありました。この辺りの変化は意識したものでしょうか?
Kitamura:元々、今までとテイストが被るような曲は作りたくないと思ってて。やっぱりシューゲイザー・バンドの弱点ってそこにあると思うんですよ。全部同じような曲になっちゃう。それはそれで良さだったりもするんですけど、僕らはそうじゃなくて、それぞれの曲を立たせたかったんです。前作はクラシカルなシューゲイザーをやりたいっていう思いもあったんですけど、今作は結果的に、2000年代以降のシューゲイザーからの影響も出てると思います。
── よりフレッシュで、良い意味で別のバンドのような印象も受けました。
Kitamura:それこそ、メンバーそれぞれの音楽的なバックグラウンドが反映されたり、Satomiさんの声によってさらに透明感が増したことで、フレッシュ感にも繋がったんじゃないですかね。
── 今作のミックスエンジニアにはEASTOKLAB(イーストオーケーラボ)の日置逸人さんを起用していますが、その影響もあるのでしょうか?
Kitamura:そうですね。日置さんにはこちらからだいぶ無理難題を言って色々お願いしたので…。笑 日置さんのセンスも混ざったことで、それが新しさにもなってると思います。
── ヴォーカルの面で言うと、僕もSatomiさんが入ったことによってかなりフレッシュな印象を受けましたし、よりsoftsurfのサウンドにマッチしていると感じました。
Kitamura:ありがとうございます。
── 日置さんを起用した経緯についてもお聞きしたいのですが、EASTOKLABが名古屋のバンドなので、そういう地域的な繋がりが元々あったのでしょうか。
Yutaka:僕がsoftsurfとは別でやってるI Like Birdsっていうバンドで、日置さんにレコーディングとミックスをお願いしてて。彼自身のセンスとか、コミュニケーションの取りやすさ、あと一緒に良いものを作っていこうっていう熱意だったり、とにかく好印象で。それでsoftsurfも是非お願いしたいということで、提案させてもらいました。
Kitamura:特にシューゲイザーだとミキシングは重要になってくるんですけど、なかなか身近にできる人もいないんですよね。EASTOKLABとは前身のThe Skateboard Kids時代に対バンしてたり、実はそういうなんとなくの繋がりもあったりしました。
── 無理難題をお願いした、ということですが…。
Kitamura:こちらの意図はだいぶ汲んでくれてたと思うんですけど、苦労してるのは目に見えてました。笑
一同:笑
Yutaka:明らかにパート数が多いのがネックだったと思いますね。シンセのトラックが大量にあるので。笑
Kitamura:そこはごめんなさい、っていう。笑
── それは完全にシューゲイザー・バンドならでは、かもしれませんね…。
Kitamura:僕も自分のイメージを繰り返し伝えたりしてたので、他のエンジニアさんだったら「無理です」って言われちゃってたかもしれないです。
── 具体的にどういう部分をこだわったのでしょうか?
Kitamura:空間の響きとかエフェクトのかけ方はこだわったり、音の質感も細かく「こうしてほしい」って話したりしました。僕もYutakaさんもある程度の初歩的なミキシングはできるので、こちらからも色々提案しながら、ディスカッションを重ねて進めていきましたね。特にリヴァーブとかディレイとか、空間タイプのエフェクトのかけ方は何回もやり直しました。
■ M-1「Beyond the Ray」──「Blue Swirl」と並ぶような代表曲を目指して
Lyrics & Music:Nobuaki Kitamura
── では、収録曲ごとに深掘りしていきます。まず冒頭の「Beyond the Ray」ですが、ダイナミックなシューゲイズ・サウンドを響かせる最高の幕開けですよね。この曲から連想される開放感は、まさに「softsurf」というバンド名を体現するサウンドだ、という印象がありました。
Kitamura:ありがとうございます。作曲したタイミングは今作の中でも後の方なんですけど、「Blue Swirl」と並ぶような代表曲を目指して作りました。ただ、ダイナミックな王道シューゲイザーにしたいと思いつつ、「Blue Swirl」とは違うテイストにしたかったので、最初のAメロにエレバスを入れたりしました。あとはシーケンスのフレーズを多めに入れてみたり、Yutakaさんから色々提案してもらって、イントロやサビにシンセっぽいギターのアルペジオフレーズを直前で足したり。
── メンバー各々担当の楽器はあれど、曲作りではそれに縛られずに進めることも多いんですかね。
Yutaka:そうですね。この曲はライブでも何回かやってたんですけど、もう一つパートがあった方が開放感が出るかも…ってずっと感じてたので。
Kitamura:実際(アルペジオフレーズを)入れてもらったらしっくりきたので良かったです。
Yutaka:場面ごとのアレンジの違いを楽しめる曲になったので、その辺も聴いてもらえたら嬉しいですね。
Kitamura:歌詞に関しては、シューゲイザーらしい抽象的な感じになってますね。なんとなくのイメージは、現状からの打破とか進化とか、そういうメッセージです。図らずも今の時勢にマッチするような感じになったと思います。
Kitamura:あと、この曲はMVも作りました。監督は西垣薫さんという方なんですけど、シューゲイザー・バンドのVJメンバーとしても参加されてたような方で。センス的な部分だったり、僕らの音楽性にも理解があるのかなと思ってお願いしました。これも巡り合わせですね。
■ M-2「It’s OK」── シンプルゆえの難しさ
Lyrics & Music:Nobuaki Kitamura
── 続いて「It’s OK」。これはもう、The Pains of Being Pure at Heart(以下ペインズ)直系のシューゲイズ・ポップで、個人的にかなりブチ上がりました。笑 ギターのリフやメロディは「Heart in Your Heartbreak」へのオマージュでしょうか…?
Kitamura:完全にそれがリファレンスです。笑 他にも「Come Saturday」とか。
── やっぱり!
Kitamura:ちょっとオマージュしすぎたかな…とも思ったんですけど。笑
── ただ、こういったテイストの曲はsoftsurf的に新境地だったりするのでしょうか。
Kitamura:実は、今作の中では作ったのが一番古い曲なんですよね。1st EPの曲とほぼ同時期です。元々ペインズは好きでフジロックでも観てたので、思い入れがあって。クラシカルなシューゲイザーだけじゃなくて、ペインズみたいな曲があるとバンドとしての幅も広がるかな、と思って作った曲ですね。
── 今作に入ってる中では特にフレッシュな印象があったので、古いのは意外でした。むしろ新しい風を感じていたので。
Kitamura:キャッチーな曲だし、EP全体で見てもこの曲が良いスパイスになってるかもしれないですね。今後もこういった感じの曲は作っていきたいと思ってます。
Yutaka:この曲に関しては、シンプルゆえの難しさがありました。softsurfの場合デモをしっかり作り込むことが多いんですけど、この曲は確かスタジオでKitamuraさんがコード進行や歌メロ案を聴かせてくれて、それにみんなが合わせながら作っていったんですよね。その結果、メンバーみんなのナチュラルなセンスが出てる曲という印象があります。
Kitamura:ただ、曲自体はキャッチーなんですけど、歌詞はめっちゃ後ろ向きです。曲のイメージと真逆の歌詞にしてみると面白いかなと思って。
■ M-3「Hello My Shadow」── Maruyamaさんのセンスが目立ってる
Lyrics:Nobuaki Kitamura/Music:Yohei Maruyama
──「Hello My Shadow」はギターのMaruyamaさんによる作曲ですが、絶妙なメランコリー具合がとても素晴らしく、特にアウトロのアルペジオが美しかったです。
Kitamura:実は、Maruyamaさんの作曲を採用したのはこの曲が初めてなんですよ。基本的に、曲は僕が書いて、その次にYutakaさんが書くっていう場合が多かったんですけど。だから他の曲とはまた雰囲気が違ってると思いますね。ただ、同期のアレンジは僕がやってまして。それでシンセのフレーズが多くなりすぎて、日置さんがめちゃくちゃ苦労するっていう。笑
一同:笑
── ここに繋がってくるんですね。笑
Kitamura:アルペジオのフレーズはMaruyamaさんが考案したので、全体的にMaruyamaさんのセンスが目立ってるのも特徴だと思います。歌詞については、昔の自分とか、昔仲が良かった人とかを、「影」と捉えて作りました。それらに対する郷愁というか。
■ M-4「Sweet Dream」── 眠りとか夢をテーマにした絵画や写真を観て
Lyrics:Satomi Kitagawa/Music:Yutaka Mukoda
── 個人的に「Sweet Dream」は今作で一番好きです。日本語詞とSatomiさんの透明感溢れるヴォーカル、そしてシューゲイズ・ギターが非常にマッチした佳曲だと思います。各パートの音のバランスも良くて、聴いていると天に召されそうになります…。笑 全体的に非凡な美しさを放ってますね。
Yutaka:作曲は僕なんですけど、最初に作ったデモは今と全然違ってて、もっとファンシーな、ワルツみたいな曲で。それをKitamuraさんに聴いてもらったら、softsurfのイメージから少し離れる部分があるということだったので、Kitamuraさんからの提案を参考に作り直して、最終的にこの形になりました。各パートのバランスの良さは日置さんに入念に調整してもらった結果ですね。「天に召されそう」って言ってもらえたのは僕としてはすごく嬉しいというか、狙い通りなところがあります。笑
── ありがとうございます。笑
Yutaka:シューゲイザーをライブで聴いた時の、眩しくなって目の前が真っ白になるような感覚がすごく好きで、それを音源でも表現したくて。上手く形にできたと思います。
Kitamura:最初にデモを聴いた時、もう少し変えた方がsoftsurfにマッチすると思ったので、Beach Houseをイメージしたアルペジオとかを提案して、それで作り直してもらって。ただ、元々のデモが相当時間をかけてしっかり作り込まれてたので、申し訳ないと思いつつ。笑
一同:笑
Yutaka:でも作り直し自体は意外と2日くらいでやっちゃえました。
Kitamura:実はライブでも結構やってた曲なんですけど、ヴォーカルがSatomiさんになったことによって完成された感はあります。誉め殺しで申し訳ないんですけど、レコーディングの時も鳥肌立ったので…。
Yutaka:詞も改めてSatomiさんに作り直してもらいました。
Satomi:私が加入した時点で曲自体は出来上がってたんですけど、歌詞を変えてほしいということで。メロディラインも変えて良いって仰ってくれてたんですけど、せっかくあるものは変えたくないと思って、そのままにしました。楽器を邪魔しないような歌にしたかったので、第一声の発音とか、その辺りの調整は色々考えましたね。
── そういう丁寧な配慮が、各パートのバランスの良さにも繋がってるんでしょうね。Satomiさんは日本語で歌ってきた方でもあるということなので、そういう部分での相性の良さが、この曲では顕著なのかなと思います。
Satomi:今回の5曲の中でも、やっぱり唯一自分で作詞した日本語詞だったので、気持ち良く歌えたと思います。
── いや、本当に、マジの名曲だと思います。
一同:笑
Satomi:ありがとうございます。笑 ただ、実はレコーディングの直前までなかなか歌詞が決まらなくて。そんな中、今年の1月くらいに「眠り展」っていう、皇居の近くの美術館(国立近代美術館)でやってた展示を観に行って。そこで眠りとか夢をテーマにした絵画や写真を観て、それが歌詞の参考になりました。
一同:へ〜!
── 絵画や写真がインスピレーションになったのは面白いですね。
Satomi:元々美術館に行くのが好きで。私は自分の体験から歌詞を書くのが苦手なんですけど、絵画とか写真を観て浮かんでくるものとか、そこに書いてある解説とか、そういうのが参考になるんですよね。
Kitamura:これは僕らも初めて聞いた話ですね。笑
一同:笑
Yutaka:あと、ミッキーのドラミングの良さがとても活きている曲だと思います。盛り上がるところのエモーショナルな演奏もそうだし、おとなしい部分のちょっとした装飾的なフレーズにも彼のセンスが出ていると思いますね。
■ M-5「Song for the Star」── Beach Houseが実際に使ってる機材と同じものをオークションで落として
Lyrics & Music:Nobuaki Kitamura
── ラストを飾る「Song for the Star」は、ループするシンセの上で静と動を行き来するコントラストが美しい大作ですよね。最後のサビは大きなカタルシスをもたらします。EPとは思えない聴後感。
Kitamura:これも僕の作曲なんですけど、壮大な雰囲気のエンディングっぽい曲にしたいと思って作りました。元々のイメージはSigur Rósだったり、直接的にはBeach Houseの「Irene」とM83の「Lower Your Eyelids to Die with the Sun」がリファレンスになってたりします。
メインで鳴ってるシンセの音は、ヤマハのPS-20っていう、Beach Houseが実際に使ってる機材と同じものをオークションで落として、それを使ってまして。
── なんと…!
Kitamura:実は「Hello My Shadow」と「Sweet Dream」にもかなり使ってるんですよ。でも特に「Song for the Star」に入ってる音の残響の感じがすごく好きで、個人的にも気に入ってる曲です。シンセのフレーズ自体も、鍵盤じゃなくて打ち込みで使うようなパッドで作ったりしてて。イメージしてたようなラスト感のある曲にできました。Satomiさんと自分のヴォーカルの相性も、さらに良くなってると思います。
── この曲もライブで聴くとさらに心地良さそうですね。
Yutaka:この曲は、今作の中で唯一まだライブでやってない曲ですね。「Sweet Dream」もクライマックス感があってライブでは終盤にやることが多かったんですが、その後さらに「Song for the Star」が来るっていう流れも、また面白いなと。
── さらに畳み掛けていくという。
Yutaka:この曲のデモを初めて聴いた時、オーロラみたいなイメージが湧いたんですけど、僕がよく聴いてるCDで、ちょうどオーロラをイメージしたヒーリングのアルバムがあって、それにも通ずるようなものが見えて。そのイメージを意識してアレンジにしていきましたね。
── 歌詞に関しても夜空とか宇宙とか、そういうイメージですよね。今作全体でも言えるかもしれませんが、宇宙、空、海など、揺蕩うようなモチーフを随所に感じました。「Song for the Star」は特にそのイメージが強くて、音が身体に染み込んでくるような感覚がありましたね。
Kitamura:この曲は特に、空間の広がりを重視したミキシングを日置さんにお願いしました。歌詞については、とある物語からインスパイアされてまして。宇宙っぽいテイストを入れつつ、ラブソングっぽい感じにもしてみたり。聴く人によって感じるものが違うかなと思うので、それぞれ自由にイメージしてもらいながらで楽しんでもらいたいですね。
◯2021年8月21日 Google Meetにて
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■ Release
■ softsurf – Returning Wave
Label – DREAMWAVES
Release – 2021/10/06
1. Beyond the Ray
2. It’s OK
3. Hello My Shallow
4. Sweet Dream
5. Song for the Star
■ Profile
softsurf are
Nobuaki Kitamura(Vo. Gt.)
Satomi Kitagawa(Vo. Gt.)
Yohei Maruyama(Gt. Cho.)
Yutaka Mukoda(Ba.)
Mitsuki Ito(Dr.)
2016年、愛知にて結成された男女ツイン・ヴォーカルのシューゲイザー・バンド。2017年、1st EP『Into the Dream』をリリース。2020年、旧女性ボーカリスト脱退。新メンバーにSatomi Kitagawaを迎え、4年振りの新作となる2nd EP『Returning Wave』をこの秋リリース。 本作はミックスエンジニアとしてEASTOKLAB日置逸人氏が参加している。