■ 諦念って大事だと思うんですよね
──「スーサイド・ガール」は、ラストからアウトロにかけての部分がすごく印象的で、特にメロディアスなベースラインはSyrup16gの影響を感じました。
あ〜、これはもう。笑 ベースのコーラスみのある音とかフレーズとか、キタダマキさんっぽいですよね。
── 音としても心地良い曲ですが、歌詞の韻の踏み方も心地良くて、その辺りもSyrup16gに通ずるものがあって。それが自然と心地良く耳に入ってくる要因の一つでもあるのかなと感じました。
スッと耳に入ってくる、っていうのは自分の中ですごく大切にしてる部分なので、実際にそう言ってもらえるとすごく嬉しいですね。それも、ただ通り抜けていくだけではなくて、歌が溶け込んでいく感じ。メロディに乗せる言葉って、マッチしてないと変になるので。錠剤が身体の中で溶けていくような言葉の乗せ方ができたなって。
── ちゃんと入ってくるんだけど抜けていく、みたいな。
そうそう。抜けていくから、また聴きたくなる。中毒性があるなって思います。
──「スーサイド・ガール」から「ghost」の流れも完璧ですよね。
死んでお化けになる、っていうジョークも交えています。笑 次の「amber」で生き返ります。
── やっぱり前作より「喪失」とか「死」とかっていうカラーが濃い気がするんですよね。
確かに重さがありますよね。2020年は死について向き合うことが多かったから……。そのタイミングで「スーサイド・ガール」をリリースしたのも何かの巡り合わせかもしれませんね。
── ディスクユニオンのインタビュー記事を読んだのですが、「スーサイド・ガール」って、頭の中に架空の少女像があって、それが「希望」になってる、という意味合いがあったと話していましたよね。それを踏まえると、「ghost」からは「絶望」というか、その希望も結局は気休めという、ある種の諦念みたいなものを感じます。
確かに、「ghost」は諦念の曲ですね。「スーサイド・ガール」は、私の中ではすごく希望のある曲なんですけど。でも、諦念って大事だと思うんですよね。ありのままの状態を受け入れるって難しいと思うんです。「ghost」を作った時は、その頂点だった。そもそも「諦める」って、「物事を明らかにしてあるがままの事実を受け入れるってこと」なんですよ。それって意外と難しいし、人は自分をよく見せようとしたり、自分なんてダメだって卑下することによって自分を保って生きてると思うんですけど。「ghost」はその域を超えて、ただあるがままを受け入れる曲。
── 決してやけくそではなくて、ただ静かに受け入れる。
そうそう。そういう意味では、この曲を作って自分も大人になれました。どうしようもないことはこの世の中にたくさんあるんだって本当に思ったし、いくら相手を責めても自分を責めても何も変わらないし、ただそのまま受け入れて生きるだけなんだなって。
── 悟り、ですね。
諦念と悟りの曲、ですね。うん。
── 僕もこの曲は本当に好きで。何周かして、優しい気持ちになれるんですよ。色々なものを受け入れる気持ちになれる。
それって、きっと浄化作用に近いですよね。張ってた力が抜けていくような。意識しないまま涙がスーッと流れていくような感覚というか。気付いたら泣いてた、みたいな状態。
お互いを傷つけあって血が飛び交って汚れたりしても、最後には笑おうっていう
──「ghost」のMVで、あゆみさんは水に浸かってたと思うんですけど、特に「cyan」サイドの曲は水っぽい印象があって。それこそ「あめ」は水の音が入ってるし。あみさんは元々かなり水が好きだと思うんですけど、それが前面に出たアルバムなんじゃないかなと。
そうですね。「cyan」サイドが表、「amber」サイドが裏っていうイメージで。そもそもSPOOLの表面をまとっているものって「水」だと思うんですよ。さらっとしてて、でも環境によって形を変えていく。……あ、水を取り扱っている方がいまして。笑
── 水を取り扱っている方……?笑
水の音を録音して、環境音楽を創作している北島とわさんという方がいまして。今回はその人から水の素材を拝借して入れたんですよ。
── そうだっだんですね。
めっちゃいい音なんですよね…。「あめ」の、最初の雨の音と、最後の水滴がぽちゃんって落ちる音。いるんですよね、水が好きな人。笑
── 表サイドの最初を飾る「cyan」ですが、個人的にサビのギターの歪み方がかっこよくて好きです。カッティングの感じも、初期のTHE NOVEMBERSっぽい気がしました。
あ! もう…意識しました。笑 伝わっててすごい。笑
── だから、Syrup16gからの影響の話もそうですけど、「ゼロ年代のUK.PROJECT感」というか、その辺はかなりくすぐられました。
ありがとうございます。笑 まさに「Exit」のカッティングをすみちゃん(ショウジスミカ/Gt.)に聴かせて、これこれ!って。
これくらいの、キレッキレのカッティングをお願いしますって。笑 オラついてて、絶対に人の言うことを聞かないような感じにしたかった。
── 笑
ギターの歪みに関しても、やっぱりちょっと気持ち悪いコードが好きなんですよね。「Be My Valentine」もそうなんですけど。自分の中では、気持ち悪いのが落ち着くし気持ちいんですよ。特に「cyan」はシューゲイザーと言うよりはオルタナですよね。
── アルバムの一発目の曲がこれだから、より印象的でした。ベース・ラインもいいですよね。
いいですよね。超かっこいい。
── もちろん前々から思ってましたけど。今回は特に「おっ!」ってなるフレーズが多い印象です。
美奈子さん(安倍美奈子/Ba.)に言っておきます。笑 「cyan」のベースは私もすごく好きです。高松さん(高松浩史/THE NOVEMBERS)みたいにお願いしますって。笑 最後のギターの感じとかも「she lab luck」っぽいですよね。
── いや、本当にそうですよね!
笑
1stの尖り方がすごく好きなので。今頃それなんだ、っていう感じですけど。
── いや、もう一周回って新しい気がします。
確かにそうかも。一周してそこに戻ったって感じ。
── ゼロ年代ロキノンリバイバル、みたいなのが始まるような雰囲気がちょっとあって、その流れの中にある作品、というような気もしました。
やっぱり私もその辺が好きなんだなって思いました。海外っぽいって言われることは多いし実際にすごく影響を受けてるんですけど、やっぱりね。邦ロックいいよねって。笑
── 笑
邦ロックは自分の中では絶対に外せないから。「cyan」は特に詰め込んだって感じかな。
──「cyan」の歌詞についてですが、この曲も韻の踏み方が心地良いですよね。アルバム全体としても、やはりそういう傾向が強いというか。
パズルみたいな感じで、言葉遊びに近いんですよ。「こういうことを伝えたい」っていう感じではなくて、でも結果的にストーリーになるというか。
── 意味がないようで、ある。
そうそう。実は、「cyan」は自分たちのバンドの状況を歌ってる曲なんです。SPOOLは白い服を着てライブをすることが多いんですけど、その真っ白な衣装が、お互いを傷つけあって血が飛び交って汚れたりしても、最後には笑おうっていう。私なりの愛情表現ですね。綺麗事ばかり言ってられないし、この先一緒にやっていく上では傷つけ合わずにはいられないというか、ものを作るってそれくらい難しいことだから。実際、今回のアルバムもすごく大変だったんですけど、それでも最後には笑いたいなって。
── バンドのことを歌ってるとは思わなかったです。
抽象的な歌詞だから聴く人によっては別の捉え方ができると思います。「何言ってるんだろう?」って思う人も多いと思うんですけど、それで良いと思うし。私の中では「バンドやろうぜ!」っていう曲です。
── その抽象的な具合がちょうどいい、という気もします。
【 Next 】 私が常に道を切り開いて行かないと、みんなとは一緒にいられないから