Label – ZOOM LENS
Release – 2020/05/08
サンフランシスコ出身のドリームポップ/シューゲイザー・バンド、The Bilinda Butchers(ビリンダ・ブッチャーズ)による、前作から5年ぶりとなったアルバム。
これまで彼らはドリームポップやエレクトロ・シューゲイザーを基調とした、いわゆる”ニューゲイザー”以降のサウンドを鳴らしてきたが、今作ではそのイメージを良い意味で捨て去っている。核となる部分は残しつつも、ハウスやクラブ・ミュージック、ドラムンベースなど、テクノ・ミュージックの要素を大胆に導入し、まさに彼らにとって新境地と言える作品に仕上がった。
そのサウンドはモダンかつスタイリッシュであり、クールかつダンサブルでもある。それでいてドリーミーな感触を損なわない彼らの手腕には驚かされるばかり。さながら夜の街を疾走するかのような感覚に浸ることができる。「See ya」のリリックビデオもドライバー視点の映像だ。ジャケットにも車が描かれており、レーシング・ゲームのサウンド・トラックとして流れていても違和感はない。これまでの作品でもM83の影響を見て取れた彼らだが、本作は『Hurry Up, We’re Dreaming』に近い雰囲気を感じる(実際、同作収録の「Midnight City」は『GT Racing 2』というゲームで使用されていた)。
先行シングルの時点でアニメのキャラクターのようなアートワークが目を引いていたが、アルバムのジャケットにも擬人化された”サグい”動物たちが登場する。そのテイストからヒップホップのミックステープのような趣きを感じつつ、キャラクター自体は日本からの影響も少なからずあるように思う。振り返れば、前作『HEAVEN』は”江戸時代の心中物語”をテーマに掲げていたし、過去にはSNSのアイコンを『クレヨンしんちゃんに』していたこともあった。今作でも「Rie」のリリックビデオでは桜が使用され、アルバム中に日本語の曲が一瞬流れる場面もあるなど、彼らにとって日本は重要なモチーフであることを改めて感じられる。
ドリームポップやシューゲイザーを鳴らしてきたバンドが真夜中のドライブに最適なアルバムを作ったという意味で、シーンの中でもある種の特異点と言える作品だろう。しかしそれ以上に、シューゲイザーと他ジャンルの折衷にはまだまだ可能性があるということを示したことが、何よりも本作の意義であることを主張しておきたい。
text by osushitabeiko