■ 実はカントリーのギターをこの3年で練習してて
對馬:「While My Waves Wonder」は、元々Miracoが16歳の時に作った曲だと聞いて驚きました。
Miraco:私がシューゲイザーに出会った頃、すごい孤独だった時に作った曲。バンドで何度かやろうとしたんだけど、「なんか違うな」って没になって、16歳からずーっとお蔵入り。
Yusei:昔は対応力がなくて没になったのかもしれないね。
Miraco:技量的にね。Aメロとかちょっと違う部分はあるけど、サビとかアウトロとか使ってるコードも一緒だし、当時とほとんど変わってないかな。
對馬:そんな曲が、先行シングルに。
Miraco:思い出の曲だったし、それをこの4人のメンバーで昇華してここまで良い曲にできた、っていうのが一番感慨深いです。
Uji:みんなこの曲が今作の中で一番気に入ってるというか、完成したことに対して「良かった」って言ってた記憶がありますね。
Yusei:曲としてスッキリしたよね。
Miraco:かんちゃんのアルペジオがこういうハマり方するのか、っていう新しい発見もあったよね。
對馬:「That Blue, I’ll be coming」然り、「While My Waves Wonder」然り、今作はかんちゃんのアルペジオが活躍してますね。
Kantaro:まあ…勉強したから、かな。めっちゃ恥ずかしいですけど。笑
一同:笑
Kantaro:色々なジャンルの音楽をよく聴いて理解した上でのレコーディングだったので、そう思ってもらえるのはとても嬉しいです。ちゃんと自分なりのものが出来てるのかなと思います。
對馬:なるほど。研究の成果を発揮できている、ということですよね。素晴らしい。
Yusei:あと、「While My Waves Wonder」はサビが激しすぎない。
Miraco:いやいや、リスナーの感想か。
一同:笑
Yusei:今までの揺らぎは激しかった。サビはうるさくてなんぼ、みたいな。
Miraco:アウトロも激しすぎず、かといって落ちすぎず。
Yusei:あそこで最後にもう一回サビに行かへん、ってところが良いと思うんですよね。構成は僕が主体となって決めたので、印象に残ってて。リリース後も反応が良くて、達成感はありましたね。
對馬:優しくて潔いイメージの曲だなと思います。
Kantaro:ずっとアルペジオを弾いてるっていうアプローチは、今までの揺らぎにはなかった。でも考えてみれば--空間作りの面で言えば、それこそシューゲイザーのアプローチに近いのかな、とは思ってて。ただ、アルペジオ自体もシンプルという訳ではなくて、かなり考えたフレーズで。その成果もあって評判も高くて、周りのハードコアとかエモの人たちからは「マジで良いね」とか「ニューレベル」って言ってもらってます。
對馬:やっぱりかんちゃんの研究の成果ですね。
Kanataro:率直に評価してもらえたのは、すごい嬉しかったですね。
さこ:僕からも質問させてください。かんちゃんみたいに研究したり勉強した部分って、みんなはありましたか? というのも、今作は明確なコンセプトがなくて、自分たちの中にあるものを自然と表現したアルバムだったと思うんだけど、コンセプトとか参照するアーティストがない中で表現するのって難しそうだな、って思うんですよね。表現したいものをスムーズに形にできるのかな、って。
Miraco:私は感覚派で、ヴォーカリストとしてはすんなりできるタイプだから、そういう意味ではあんまり苦労してないかな。でもギターがそんなに得意なわけじゃないから、かんちゃんの力を借りて試行錯誤した部分はあるかも。
Kantaro:音楽を研究したのは「これくらいやるなら知ってなきゃいけないでしょ?」っていう気持ちがあってのことで。「◯◯っぽさ」みたいに何かを真似るだけっていうのは、個人的には「どうなのかな」って思うんですよ。ジャンルへのリスペクトって言ったら大袈裟かもしれないですけど、どういう流れでこういう音楽が生まれて、そこから自分はどうするか--っていうのは、やっぱり勉強しないと学べないなと思ったので。アルペジオのアイデア的な面は、そういうところから学びました。
演奏力の面で言えば、実はカントリーのギターをこの3年で練習してて。完璧に技術力を磨くためにずっとコピーを続けてます。必ずしも勉強が全てではないし、もちろん聴く量とかも関係あると思うんですけど。
Miraco:私以外みんな勉強するタイプなんですよ。でも…聴く量は多いし、それを自分の中にインプットして、自分のものとしてアウトプットする努力してるかな。例えば、「誰かの曲に勝手にメロディつける」っていうのは、もう毎日のように絶対やってる作業。もしかしたら、それが自分の歌としてすんなりアウトプットできてることに繋がってるのかもしれない。
あと、まだそんなに経ってないけど、ヴォーカルレッスンにも通い始めて。発声方法とか表現方法とかを学んで、「Sunlight’s Everywhere」とか「I Want You By My Side」はそれが活かされてるかなと思います。まだまだ頑張らないといけないんですけど。
對馬:そうやって技術や感覚を磨いてる部分がちゃんと裏打ちとして存在して、しかもそれを成果として出せてるっていうのは、本当に尊敬します。
Uji:僕はプレイヤーとして参加させてもらうにあたって、帯域が空いてることに気づいて。ギターは大きい音で鳴ってるんですけど、ベースは割と自由に鳴らせるくらいの帯域があったので、そういう中で「サポートの役割としてどこまでできるのか?」って考えた時に、幸いにもアルバムの制作に参加させてもらえたので、「ベースとしてこういうやり方ができますよ」っていう案をなるべく出すのが大事かなと思って。今までジャンルを問わずひたすらコピーをしてきたけど、色々なパターンやフレーズを出せるるようにする上では役立ってますね。特にファンク〜ソウル系の、音のバランス的にそれぞれの楽器が役割を果たして鳴らしてるジャンルとか。
Kantaro:Ujiくんに「ここら辺の帯域が…」って言われて、みんなハッとして。そういう棲み分けを意識できる目線は、揺らぎのメンバーには意外となかったりします。
さこ:Yuseiさんはどうですか?
Yusei:前作以降から基礎の練習を頑張ってて、その成果が今回のアルバムに出たかな。(以前は)フレーズの練習とかはあんまりしてなかったけど、今回はこれまでの自分になかったフレーズを出せたと思って。それはみんなの新しいアプローチがあったからこそでもあるけど、(前作からの)3年間のおかげで新しいドラムのアプローチが生まれたんじゃないかなと思います。上手いドラマーのプレイを色々見る努力をしましたね。自分に足りないのはやっぱり基礎なんや、っていう。今までは感情的なドラムを叩いて終わりだったけど、根底に基礎がないと結局それもできないことに気づきました。
對馬:「The Memorable Track」は揺らぎ初のアコースティック曲で驚かされました。
Miraco:私がたまたま東京に行った時にかんちゃんと二人でスタジオに入って、かんちゃんが適当に弾いてたコードに私が適当にメロディをつけて…。
Kantaro:毎度のパターン。笑
一同:笑
Miraco:でもレコーディングは全員で、一発録りでやって。クラップとか、キャリーケース叩いたりとかね。
對馬:あの音、キャリーケースなんですね。
Yusei:バスドラ叩くのはちょっと強すぎるから。あとは足踏みでリズム刻んだりとか。Ujiのコーラスも入ってるもんな。
Miraco:よく聴くと私の声に厚みがかかってて、それがUjiくんのコーラスなんだなって思ってくれれば。
Uji:でも、全く聴こえないんですけどね。笑
一同:笑
Miraco:この曲はミックスもしてなくて、ほんとに録ったそのまんまですね。狙った感じの弾き語りができた。
Kantaro:そんなに力を入れすぎないでやりたい、っていうのは最初からあったね。
Miraco:「あ〜、ミスった!」って何回も失敗して面白かったよね。
Kantaro:結構録り直した。
Yusei:5〜6回とかじゃない?
Kantaro:録り終わってどのテイクにするか決める時、「やっぱり最初の方が勢いあったよね」ってなって。ちょっとミスってるけど、雰囲気的にこの(収録されている)テイクが一番良かった。
Miraco:Ujiくんがコーラスを忘れてたりしたのもあった。
Uji:しかも、そのテイクが採用されてるよね?
一同:笑
對馬:曲名も相まって、古い記憶を辿っていく切なさのようなものを感じますね。
Miraco:歌詞は、「子供の頃の自分は愚かだった」っていうのを大人になってから気づく内容で。私は(親の仕事の関係で)叔母とか祖母に育ててもらってたから、懺悔として(親のありがたさに)気づくっていう、振り返りの曲なんですよね。だから「The Memorable Track」っていうタイトルです。
■「このメロディにこういう言葉を乗せるのか」っていう新たな発見
對馬:今作はいくつかコラボもしてます。「Sunlight’s Everywhere」「An Atrium」「I Want You By My Side」は、リミックスのアルバム(『Still Dreaming, Still Deafening:Remixes & Rarities』)にも参加していたsingular balanceが作詞。「Dark Blue」は、同じくリミックスに参加したBig Animal Theoryによる楽曲提供。そして「While My Waves Wonder」「Underneath It All」の作詞は、以前から交流が深いBearwearのKazmaさん。コラボするきっかけや経緯を教えてください。また、それらはバンドにどんな作用をもたらしましたか?
Miraco:誰かと共同制作してみたいっていう構想は、このアルバムを作ってる期間からあって。今回、作詞はsingular balanceくんに頼んだものと、Kazmaくんに頼んだものと、私が書いたものと三種類あります。
singular balanceくんはバリバリのアメリカ人なんだけど、おばあちゃんが日本人で日本語も結構喋れるから、韻を踏んだりする歌詞を作れる人だな、と思って。それで曲のイメージを伝えて、コンセプトと歌詞は一から作ってもらったんですよね。
Kazmaくんは、Bearwearの歌詞を見てもらうと分かるんですけど、叙情的で風景を想像させる歌詞を書くのがすごく上手くて。今回書いてもらった歌詞も、やっぱり曲の雰囲気にすごく合ってるものを作ってくれて。自分で作る歌詞とは違って「このメロディにこういう言葉を乗せるのか」っていう新たな発見もありました。
Kantaro:「Dark Blue」は念願のコラボ、です。「An Atrium」が揺らぎとしては初めての打ち込みだったので、アルバムの流れ的にもいきなり打ち込みが来るのもどうなんだ、っていう話になって。そんな中で、ちょうど彼と一緒に音楽を作る機会があり(※KantaroはBig Animal Theoryの最新作に参加)、リミックスにも参加してくれたっていうのもあったで、音楽性の相性が良いと思って声をかけました。ライブに来てくれたりもして普通に友達だし、普段聴いてる音楽だったり、どんな影響を受けてるかっていうのも知ってたので。
Miraco:楽曲もかっこいいし、同じ作り手としてもすごい尊敬してる。「That Blue, I’ll be coming」を元に作ってくれたんだよね。
Kantaro:「That Blue〜」を素材にして作ってくれた感じかな。でも、日本人のプロデューサーっぽくないよね。彼が今年出したアルバムもラッパーがフィーチャリングしてたりするんですけど、USじゃなくてUKのビートを作ってる、っていうのが新鮮で。そういう変わった視点を持ってるのが面白いなと。「Dark Blue」もそういうエッセンスを入れてくれて、結果的にマッチして。「That Blue〜」から「An Atrium」への繋がりを上手く作ってくれたかなと思います。
對馬:ちなみに、リミックスのアルバムに参加したアーティストって、どういうきっかけがあったんでしょうか。
Kantaro:私が個人でSoundCloudに音源を上げてた時に知り合った人とか、セッションでたまたま会った人とか、ですね。
Miraco:「Horizon」のリミックスで参加してる9:en(gene)くんはsayonarablueっていうバンドをやってる子なんですけど、福岡で対バンした時に、実は私と同じ小学校の同級生だったことが判明して。そういうきっかけもありました。
■ もっとシンセを活用していきたい
對馬:事前の情報によると、打ち込みの「An Atrium」からバンド・サウンドの「I Want You By My Side」が生まれた--というエピソードが興味深かったのですが、そのアイデアはどこから来たのでしょうか。
Miraco:スタジオでの思いつきです。
Yusei:実は逆なんよな。「I Want You〜」のリミックスを作ろうって言って、それが先にできてしまったんだよな。
Uji:…もっかい言って?
一同:笑
Yusei:まだ「I Want You〜」は出来てないけど既にあるという前提で、それのリミックスとして出来たのが「An Atrium」っていう。わけわからん話やけどね。
對馬:じゃあ「I Want You〜」を作る途中で、そのリミックスが先にできた…?
Miraco:途中でもなく、生まれてすらなかった。
Kantaro:「An Atrium」の原曲を作ろうとしてたんだよね。
Yusei:そうそうそう。ないけど、あることにして作ろうっていう。
Miraco:最初はなかなか上手くいかなかったけど、何回も作り直してようやく納得のいく形になった。実はどっちもコードは一緒なんですよ。オクターブ違いで。メロディはほとんど違うけど、実は同じ部分もあったりする。「I Want You〜」って最後にできた曲だっけ?
Yusei:(最後は)「Underneath It All」じゃない?
Miraco:そうだ。
Kantaro:「Underneath It All」と「I Want You〜」って終盤だったよね。スタジオ入るたびに(アレンジを)変えてた記憶がある。
Miraco:元々「Underneath It All」は全然違う曲だったけど、やっぱり納得いかなくなって、私が作ってきた曲が採用になった。
對馬:「Sunlight’s Everywhere」も圧巻ですが、「Underneath It All」から「I Want You〜」の流れはそれを上回るエネルギーを感じたし、本作のハイライトかなと思います。
Yusei:「みんな主役」って感じの曲ができたなって。Kantaroはアルペジオで目立ってるし、秋田さんの歌も高揚感あるし。
さこ:じゃあ最後に、それぞれが得たものを踏まえて--やるかどうかは別として、未来に向けて挑戦してみたいことがあれば聞かせてほしいです。
Kantaro:今作は、「Sunlight’s Everywhere」と「An Atrium」で初めてシンセを取り入れたんですけど、メンバー的にはある種の達成感みたいなものがあって。ただ、実際は9曲中2曲しか使えていないので、せっかく一つ楽器を増やしたから、機材的な面で言えばもっとシンセを活用していきたいと思ってます。今の段階では。
Miraco:そうだね。
Yusei:もっとね。
さこ:みんなそこは一致、ということで。じゃあ、今言ったことが数年後に実現してるのか、はたまた、そうじゃない形で新しい揺らぎとなってるのか。
Kantaro:締めや。笑
一同:笑
さこ:これを読んでる人はワクワクしながらブラウザを閉じていただければと思っております。
◯2021年6月20日 Zoomにて
* * *
Release
■ 揺らぎ – For you, Adroit it but soft
Label – FLAKE SOUNDS
Release – 2021/06/30
1. While The Sand’s Over
2. Sunlight’s Everywhere
3. That Blue, I’ll be coming
4. Dark Blue (feat. Big Animal Theory)
5. An Atrium
6. While My Waves Wonder
7. The Memorable Track
8. Underneath It All
9. I Want You By My Side
Live
1st Full Album “For you, Adroit it but soft” Release Event – One Man
2021/08/21(Sat.)
@Nagoya stiffslack
Double Release Party
FLAKE RECORDS 15th Anniversary
w/んoon
2021/10/02(Sat.)
@Music Club JANUS
Profile
揺らぎ are
Yusei Yoshida(Dr.)
Kantaro Kometani(Gt.)
Miraco(Vo. Gt.)